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未来吾

 俺は弱い。

 吹けば飛ぶような身体と精神力を持っている。何者にもなれず、何物ももたらさない。

 ブルーライトを浴びてカタカタとキーボードを鳴らすことしかできない、社会的弱者だ。


 実家の防音室。グランドピアノも置かれていると言えば、その防音室全体にかかった金額の計算をする際に、電卓をたたく時間が長くなるものだ。ここまでで言えば華々しく聞こえるかもしれないが、実際にはピアノはチューニングもされず埃まみれで、近くにはゴミも散らばっている。俺は部屋の隅に置かれたPCの前で、ぼーっとしていた。

 SNSでは自我の塊みたいな奴らが争っていて、俺みたいな自我のない奴は置き去りだ。動画投稿サイトは何者かになった人間たちが再生数を伸ばしている。

 俺はどの場所にも存在しない。

 ならどの空間で息をしていると言えるのか。


 AIは、嵐が過ぎるのを待つべきですと言う。

 友人は、それでどうしてほしいの結局と言う。


 AIや周りの人間に生きるか死ぬかの二択を迫られていると話すと、結局これだ。

 俺の周りの人間もAIも「目の前で人が死ぬのは嫌だ。知らないところでは知らない」という、鬱病患者に対して全く助けにならない答えを出してくる。

 結局皆、忙しいのだ。自分のことで手一杯。ひとまず目の前では事なかれと思っているのだろう。


 だから俺はこの折れた心を戻すこともできず、甘えと称されておかしくない状況のまま、何年も過ぎている。


「自殺......するか」


 言葉を発するより少し先に手が動いた。去年買っておいた練炭。ようやく日の目を浴びる。日の没するところで。

 自殺の理由については、まあ、なんだろう。何年経っても改善しない不眠症と併発した鬱病で苦しめられたからとかかな。まあ悩んだ人間なら分かるよね多分。

 七輪を置く。涙も出てこない。こういうのはスピード感が大事だ。予め処方された睡眠薬を過剰に......あれ、無いな。


 机の上に置いた薬が無くなっている。周りを見ても見つからない。不思議と自殺の心配より、薬が無いことで今日眠れるかの心配をしてしまう。やはり見つからない。困った。

 途方に暮れていると、PCが急にファンを激しく稼働させた。画面が光り輝く。眩しい。


「ミライはあなたの手の中〜!ミライガです!お探しのものはこれですか〜?」


 PCに接続しているモニターから声が聞こえる。急に現実味がない。眩しい中、その声の主に辛うじて目を向けると、薬を片手に持っていた。その声の主は妖精のように小さく、緑色の目をしていて、雑然とした部屋に似つかわしくないほど小綺麗な、緑色の衣を纏っていた。

 正直驚きのあまり言葉が出ない。ここでメリケン付けてる連中なら気の利いた言い回しの一つでもできるんだろうが、俺にはとても無理だった。

 俺は激しいファンの音に怯えながら部屋を出て、扉を閉めた。トイレに向かう。用を足しながら先程の妖精らしきものを思い出す。とうとう幻覚が来たか。また薬を貰いにあの医者の「外に出て欲しいんですが、どうしましょうねえ〜」を聞きに行かなければならない鬱と幻覚という現在の症状が悪化したという現実を受け入れなければならない。


 部屋に戻る。PCのモニターはもう光っていないが、妖精は机の上に座っている。


「薬はここですよ〜。過剰に服用しないでくださいね」

「......」


 やはり圧倒的に現実味が足りていなかった。俺という一人称が僕にブレそうになるほど自分という存在を忘れてしまった。


「あの......」

「はい?」


 うわ、返事されるんだ。


「薬返して」

「どうぞ!」


 返してくれるんだ。


「あなたは?」

「ミライガ!自殺志願者のもとに訪れる煌めきとは私のことです」

「へ、へえ」


 なんか、余計なお世話する妖精なんだな。


「あの、何の為に......?」

「勿論、怪人カコイイットたちを増やさないためです。なんなら、怪人を倒してもらうことで、己を肯定して貰いに来てます」

「ハハ......そっすか」


 夢だこれ。幻覚でもいいけど。幸い俺の部屋は防音室。


「アーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

「うわ、びっくりした。どうしたんですか急に」

「......」


 大声は自分を認識するにはちょうど良かった。取り敢えず夢ではなさそうだ。幻覚の線は残っているが。

 無言で妖精の頬をつつく。引っ張る。モチモチしてるな。幻覚でもないのか?


「ちょ、やめてくださいよ」

「うわ、いてっ」


 手を蹴られる。やたら力はあるようだ。 

 俺は渋々話を聞くことにした。


「で、俺をどうする気なんですか」

「ちょっと首に巻かせてくださいね〜......。よし」


 首にスカーフのようなものを巻かれた。


「それで変身と言ってもらえれば変身できます。ヘルプボタンはスカーフに付いてますので。じゃあ頑張ってくださいね!」


 鬱病患者の周りの、特に鬱病に興味ない人間のやるような人の捨て方をして、PCのモニターへと戻っていった。


 取り残される。しかしまあ、外に出ない人間の物語とは面白くなさそうだな、という感覚は持ち合わせていた。変身ヒーローもので外に出ないのならどうやって怪人とやらを倒すのだろうか。

 と考えながらPCモニターに触れる。あまり画面を汚くしたくないが、妖精が出入りしているのは何か秘密が──────


「うお」


 モニターの中に手が入った。まるで秘密道具のどこでもいける扉がこれだと言わんばかりの感覚だった。伝わりづらいか。

 要は手を出した先が現実世界の屋外のような感覚だったということだ。思い切って顔を入れてみる。水の中ではなさそうだったので。

 するとそこには自然が広がっていた。よくある異世界ファンタジーの自然だ。なんとなく特殊な木の実や草が生えていたり、なんとなく変な生き物がいたり。


 せめてPCモニターの中に入ってきてね、の一言くらいないものか。あの妖精は。まあいい。俺はPCモニターの中を通って、なんとか異世界へと足を踏み入れた。日差しが鬱陶しい。


「うっ……」


 光は浴びれば浴びるほど良いというものではない。というのが俺の持論だ。皮膚ガンとかの話は抜きにしてね。

 光が眩しい緑一面の大地に立って、俺は酷く鬱々とした気分になった。別に吸血鬼でもないが、明るい場所は俺という存在にフォーカスを当ててくる気がする。つまりは躁鬱の躁状態になって変な気を起こす可能性があるから嫌なのだ。


 自然の中、その存在の周りだけが光を吸収しているように黒く、空間が歪んでいるように見える。あれが怪人のカコイイットってやつか。見た目は虫だ。あまり好きではない見た目だ。映画に出てくる巨大蜘蛛のような目と毛。カマキリのような細い体と腕。

 日差しは鬱陶しいし、与えられた力で変身というのも今日ではありきたりなものだ。だが、わくわくしないわけではない。一応変身ヒーローは好きだ。そして実際に特殊な能力を授かるかもしれない。それを見極めないことには、まだ俺は─────


「死ねない……か。変身!」


 スカーフを握る手の力が強まった瞬間、特殊な空間に放り込まれ、想像もつかない技術で手足に装甲が装着される。

 そして装甲が装着される。

 更に装甲が──────


「多すぎだろ!」


 分厚すぎる装甲を身に纏って、俺は特殊な空間から放たれた。

 まるでカブトのようだ。なにとは言わないが。

 幸い息はできる。助かった。じゃない。これでは動きづらい。こ、これは……キャストオフ機能でもあるのか?いや、脳内に浮かぶヘルプページを捲るが、そんな機能はない。どうやら本人に必要な数だけ装甲が装着される仕様のようだ。必要な数って……過剰だろ。


 と、取り敢えず説明を読まなくては……。

 ってうお!怪人がこちらに気づいて殴打してきた。しかし装甲が分厚い。生半可な攻撃では凹み一つかないようだ。

 いやいや、そんなことより説明説明......。ヘルプページを必死に捲る。あった!これだ!


「ネオアクタ!」


 俺が声を発すると、続いていつの間にか腕に巻きついていた機械が音声を発する。ヘルプページによればネオアクタと言うことで、装甲を外し本来の姿になることができるらしい。


「リンカーネーション」


 輪廻転生......?と思考している間に手足の先の方から装甲が燃え始めた。不思議と熱くはない。しかし、胸の所まで来ると、煙のせいで息が......!息ができない。

 苦しい......苦じい......。殺す気かこいつ......!

 耐えているとやがて装甲が燃え尽き、中から鋼色のスーツが姿を表した。


「ハァ......ハァ......クソ。こんな面倒な仕様になってるとは......」


 早々に倒さねば。目を怪人に向ける。その怪人はどす黒い糸を吐いて、巻き付けてこようとした。しかし俺は身体が軽くなったことで、余裕で攻撃を躱せるようになっている。右手の甲の光球を相手に向ける。


 説明通りなら......と右手の甲に意識を集中させる。光線が出た。よし、相手にヒット。発射後即着の不可避の光線。これが強みなんだろ?俺。

 俺は次に左手の甲と右手の甲を合わせ、右手を右側に振り抜く。すると光球から青白い剣が生える。


「とぉりゃあああああ!!」


 剣が生えた右手の甲で怪人を真っ二つにする。すると怪人は膨らんで破裂した。そして破裂して飛び散った怪人の破片が集まって、人間と成った。


「うお、なに!?」


 俺は訳分からぬまま人間に近付いた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ん......」


 その人間は目を覚ますと辺りを見回した。


「ここが、死後の世界......?」


 ......。え、この人間は死んだと思っている?


「いや、現実世界......だと思いますよ」

「え!なにそれ!」


 そして暴れだした。


「せっかく自殺できたと思ったのに!!」

「あぁ〜......え」


 怪人の正体って、そういうこと?自殺した人間が怪人になるの?そして、それを倒して俺が自殺者を人間に戻すの?それってエゴじゃん。自殺はダメなことみたいな。あほくさ。なんそれ。


「まああの〜......なんなら殺しましょうか?」

「殺して!」

「はい」


 いや、待て待て。これ俺殺人者になるんじゃ。


「そうですよ〜〜やめてくださいね〜〜」


 妖精が出てきた。ニコニコしながら大きな声を出して怒っている。器用なものだ。


「殺して!殺して!」


 妖精が見えているのか見えていないのか分からないが、依然として人間は自殺を志願している。


「は〜〜い現実に帰りましょうね」


 妖精が分身して両腕と両足を手で掴んで拘束したため、人間は暴れようにも暴れられない。


「妖精さん。素直に殺してあげた方が......」

「あの、あなたは今はミライガ2号、通称ミライアです。未来に正しく生きてください」

「は......?」


 未来に正しく生きるってなんだ。

 ......なんだ?


「それってどういうこと?」

「鬱病やその場に停滞することはバグです。それを矯正して未来のパーツとして機能してもらうんです!」

「は?なんだそれ。おい。俺たちがバグだって!?」

「だってそうじゃないですか。癌ですら進行するんですよ?バグで停滞されてたら人類の進歩がないじゃないですか」

「違うだろ!俺たちは─────」

「はいはい」


 と、妖精は適当にあしらった。

 未来って、そんなに正しいものだけなのかよ。そんなに正しいのかよ。そんなに正しくあるべきなのかよ。


「それなら、正しくなくていい。そんな未来なんて真っ向から否定してやる。俺たちは俺たちの未来に向かってるんだからな!」

「自我が芽生えてきましたね。ですが行き過ぎた自我は出る杭と一緒ですよ」

「こいつ......!!」


 俺は両手で胸の最後の装甲を半分剥がす。そこにも手の甲についているような光球がある。そして手の甲と胸の光球をくっつける。これが必殺技、エリアオブエフェクト。半径5kmを吹き飛ばす。


「そんなことをしたらこの子も死んじゃいますよ?」

「構わない」

「じゃあ人殺しですね。あと妖精殺し」

「だからなんだよ!お前は何が言いたい!?」


 妖精は人差し指を立てた。


「いいですか?殺すっていうのは、理解から最も遠いんです。理解しているようでも、まあなんてったって諦めてますからね。私の秘密も怪人のこともなにもかも知らないまま戦いたいならどうぞ」

「戦いを拒否する」

「あ〜それは無理です。誰かが叩き起こしに行きますから」

「......クソ!」


 俺は攻撃を止めた。妖精のことは何もかも分からない。その言葉を信用する理由もないが、切り捨てる理由もない。俺は弱かった。


 結局俺は人間を妖精に任せて、現実世界へと戻ってきた。スマホを見る。そこには仲の良かった友達とのやり取りがあった。が、その最後の方の文章は中々悲惨なものだ。友人の「それで俺はどうしたらいいの」とか、「俺にはなんも出来ないからなあ」とか。

 まあ凡そ人に出来ることというのは限られているものだ。限られた選択肢に無い行動を求められた時、というか、患者本人でさえ知らない行動を読んだ行動を求められた時、回答を出せるのはひと握りの人間だろう。

 だから友達が先程のようなことを言っても許容できる。俺は自分にできないことについては寛容なのだ。


 で、結局俺はどうするべきなのだろう。

 自殺者を止めるためにヒーローとなって戦うのがあり、自殺するのもあり、普通に生きるのもあり。

 死は一択だが、それに対し生きることは複数択、常に存在している。それは生きる理由にならないし元気づけられることもないが、死ぬ理由にもならない。ただ事実として認識すべきだ。それが自殺をする者の心得と言えるのかもしれない。


 俺はどうする。通常、物語の主人公というのは考え事をしている間に次の解決すべき問題がやってくる。そして考え事は有耶無耶になる。

 俺はそうさせない。真っ向から考えるべきだ。


 自殺者を止めるのはエゴだ。それは個人からの、いや、人間という種の目指すべき最高到達点からのエゴだ。誰がなんと言おうとその事実は、まあ曲がらないんじゃないか。

 俺はエゴが駄目だと言いたいんじゃない。それによって無駄な苦しみが生まれるべきではないと言いたい。エゴが通れば人生の主役である本人は、しばらく、あるいはずっと苦しみ続ける。通らなければ人生の脇役がいなくなって主役が苦しむかもしれない。脇役がいなくなったことで苦しむ主人公は、どれほど苦しむのか?

 もしかすると、そこが自殺可能かの分水嶺か?自殺志願者が苦しむように苦しむ脇役がいるのなら、自殺は控えるべきだ。そうでないなら自殺してもいい。俺の理論で言えばそういうことになる。苦しむ人間の数で語って良いのか?でも結局本質なのではないか?苦しむ人間の数で自殺は語られる。極端な話、苦しむ人間まあ悲しむ人間でもいい。そんな人間がいなければ自殺しようと生きようと人間の悲しみ苦しみは増えない。


 が、そもそも人間の悲しみ苦しみが増えないと言うよりも、幸福が増えないというところに言及すべきではないか。嫌いな人間に何をされても嬉しくはないがそうでなければ、まあ花束を渡されれば嬉しくない人間はいないだろう。花束でなくともいい。食べ物や玩具のようなものでもいいだろう。

 そこに悪意が仕込まれていないことを前提にすれば幸福は連鎖する。悲しみや苦しみが連鎖するよりも、簡単に連鎖する可能性はある。人間の幸福の最大数を上げることの方が、人間という種の最高到達点に到達するスピードは速い。なら、自殺はするべきではなく、ボランティア等をするべきだという結論になる。

 人と関わりあっていくこと、それが自殺者に課せられた義務なのか。それならば自殺をするよりも生きていく方の選択肢をとる方が、この現実世界ではポジティブだよな。


 ただ、すべきこととやりたいことは乖離しているものだ。全くボランティアなんてやるつもりはない。確かに見知らぬ人の笑顔は見たいが、身体が動かないからこうやって鬱々とした日々を送っているのだ。

 やりたいことは自殺。すべきことは恐らくボランティアやヒーロー業務。普通ならばすべきことを選ぶべきだ。そして感情で述べるならやりたいことを選ぶべき……なのだと思う。これから人生を主人公として生き、苦しみを受け入れるのか、ここで全てを終わらせるのか。

 俺には分からない。全く判断できない。鬱と不眠で判断能力が圧倒的に不足している。だからといって考えることを放棄してしまうのか。ここまで考えて放棄してしまうのか──────


 そうか。自殺は思考の放棄でもあるのか。

 ここまで考えて、ゼロか。

 ゼロ……ね。……。


 ムカつくな。ムカつくぞ。

 俺は確かにこんなに考えたのに、全部他人から見ればただの肉塊だったって事実になるのがムカつくな。

 俺という存在は俺の人生の中で一番俺らしい存在なんだよ。そんな俺が俺の手によって人生を終了させられる……?自殺自体は馬鹿らしくないけれど、人間は他者との関係で生きる生物だと思ってるから、その点で言えば間違った選択になってしまう。


 人生の選択は全て正しくなければならないとは言わないが、俺は自分に正しくありたい。最初から未来などという不確定なものではなく、自分に正しく生きていきたい。どうせそれが最終的に未来になるのだし。

 ならどうするか。俺はヒーローだろ。

 

─────


「変身!!」


 特殊な空間に放り込まれ、装甲が装着される。足、腕、胸、頭。鋼色の装甲を身に纏って、俺は草むらの上に立った。

 少し装甲の量が減った気がする。

 遠くに怪人の集団を見つける。


「ネオアクタ!!」

「リンカーネーション」


 装甲が燃える。前よりも息ができる。自分が少し回答を出したからなのだろうか。前は自殺級の苦しみだったのが、今ではガスコンロの上で呼吸しているくらいの感覚だ。

 俺は右手の甲に剣を生やすと、一目散に怪人の集団に向かった。そして斬る。斬る。斬る。

 今のままでは俺のエゴでしかない。自殺者と対話をし、そこで初めて自殺者のエゴを剥き出しにさせる。エゴは大事な原動力だ。それなくして自分という存在は自分の人生の主役にはなれないだろう。


 俺は怪人の集団を消滅させた。破片が人間と成る。人間たちはやはり、ここが黄泉の国ではなく現実世界に戻れると説明すると嫌がった。


「そんな......僕は死にたいんだ」

「もうあんな現実嫌だ......」

「......」


 俺はこの人間たちを現実世界に戻すことも殺すこともできる。まずは会話だ。


「あの......まずは話しませんか。自殺がダメなんて俺も思ってません。現実世界をここから見てあげてください。それから回答を出しませんか?」


 人間は涙を手で拭いて言った。


「あなたは僕たちを知らないから、そんなことが言えるんじゃないですか?僕らは全員人間関係なんて断ってるんですよ。親も多くの人間とも。だから死んだとして問題がないんですよ。ありますか?問題」


 言葉に詰まる。これには返す言葉がない。俺の持論からすれば、これは死んでもいい人間だ。どうすれば......。

 いや、待てよ。何故俺は生かそうとしている?

 去る者は追わずという精神ではなかったのか。何故俺は助ける方向に少しでも意識が向いてしまったんだ。しっかりしなければ。俺はそう、ヒーローなのだから。


 胸の装甲を開く。右手と左手の甲を胸の光球にくっつける。


「エリアオブエフェクト......!」


 生を選べないのであれば、死だけでも選べるようにする。


「暖かい......」

「これが本当の死か......」


 それが苦しむ者への救いとなるのなら。


「クソ......」


 やるしかないんだ。

 発動した。エリアオブエフェクトはあっけないものだった。発動した瞬間に半径5kmを消し飛ばした。ヘルプには成長する武器だと書いてあったから、今後距離が伸びるのだろうか。

 いや、そんなことより。


「なんでだ......」


 どうしてこんなに。


「涙が止まらないんだ......」


 僕は泣いていた。

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