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#1 俺の初恋はメンエス嬢

これはただの恋じゃない。

俺の“はじまり”であり、

彼女にとっての“終わりと再生”の物語だった。


こんな恋の結末を、誰が予想できるだろう。


-こよりside-


私が働くのはマンションのひと部屋でお客さんにマッサージする、ルーム型のメンズエステ。


マットレスの拭き掃除、お風呂場の拭き上げ、軽食、メイク直し。


たった20分しかないインターバルなのに、やることは山ほどある。


おにぎりを頬張りながら、急いでお店からのオーダーを確認する。


「12:10〜 ソウタ様 N指名120分でお願いします。」


N指名というのはネット指名の略で、お店のHPの写真などから初回指名してくれたお客様ということだ。


2回以上指名してくれるとリピーター=本指名となる。


うちの店では初回指名でも本指名の半分の指名料が入るから嬉しい。



-ピンポーン


そんなことを考えてると、インターホンが鳴った。


「こんにちは」

満面の笑みで挨拶したが、お客さんはおどおどした感じで目も合わせない。


ソファに掛けてもらい、お茶を出す。


「今日はご指名頂きありがとうございます!なんで指名してくれたんですか? Xとか見て?」


お客さんはもぞもぞと答える。


「え…。いや…別に理由はないというか…友達と3人で来てて、今の時間でいける人が他にいなかったんで…」


「へー!お友達と来てるのいいですね!いつもお友達と来るんですか?」


「あー、まあ、そうっすね…」


「…」


なんだこの人。

挙動不審だし、会話も続かない。

髪の毛はもっさり、髭は伸びていて、肌も荒れている。

いかにも女慣れしてなさそうな感じだった。


でもお客様である以上はその人のいいところを探して、接客中は本当に好きだと思って接客する。


それがこよりのプロフェッショナリズムだ。


話はそこそこにシャワーへ案内して、体を綺麗にしてきてもらう。


シャワーの後履くのは紙パンツだ。

履く方が恥ずかしい、極限まで紙の面積を節約した紙パンツ。


恥ずかしそうにするソウタさんに、

「ではマットにうつ伏せになってください。」と声をかける。


間接照明の柔らかな光、ヒーリングミュージック、暖かい電気マット。


部屋の雰囲気は普通のオイルマッサージ店となんら変わりない。


違うのはマンションの個室に2人きりという点と、マットレスが腰高ではなく床に敷かれてることくらいか。


マッサージしながらセラピストがお客さんに密着できるようにするため、床に敷いてある。


メンズエステとは足から腰、背中、仰向けとオイルマッサージをしていく中で、薄い衣装のセラピストの太ももや胸などがあたったり、鼠蹊部などのきわどいところに触れてもらえたりすることが魅力のお店だ。


こよりは電気ウォーマーであたたかくしたオイルを手に取る。


「それでは足元からオイル失礼しますね。」


「んっ…」


ふくらはぎから太もも、お尻とオイルを塗り広げただけで声が出たようだ。


足元からマッサージしていくが、なんてことない場所まで、どこ触ってもすごい反応だ。


日常生活大丈夫なのかな…?


「すごく敏感なんですね。メンエスよく来られるんですか?」


「はい、最近来てハマって…」


「メンエスのどこが好きなんですか?」

と聞くと、


「…鼠蹊部の魅力に…取り憑かれました…」


と恥ずかしそうに言うので可愛くて、こよりは大声で笑ってしまった。


大好きな鼠蹊部をたっぷりと、時間をかけてマッサージしてあげた。


施術が終わってお客さんが立ち上がると、彼の足はガクガクと震え出した。


「え、どしたの??大丈夫?」


「いや…良すぎて…こんなん、初めてです…大丈夫です…」


彼はフラフラしながら、なんとか壁伝いにシャワーを浴びに行った。


来てきた服に着替え、再びソファに座る。

まだ足が震えている。


「ありがとうございました」


「車で来たんだよね?運転大丈夫?」


「あ、はい、なんとかします」


帰り際になっても、彼は決して目を合わさない。


はじめは私が気に入らないのかと思ったが、施術中の雰囲気で、その逆だということはわかっていた。


こよりはふと悪戯したくなった。


普段はマッサージしかしない健全セラピストを自負していたが、気づけば彼をソファに押し倒してキスしていた。


ソウタさんは目を見開いて驚く。

「え…!?え…!?な、なんで…?」


「だってソウタさん可愛かったから、つい…

勝手にキスしてごめんね?」


「…!!!///」


彼は放心状態だったがみるみるうちに顔が真っ赤になり、心臓がバクバクしているのがこちらまで伝わってくる。


思った通り。


彼は私に心底惚れているのだ。

しかも襲われ待ちの誘いM。


今度は彼の足だけじゃなくて、腰からガタガタと震えて、本当に帰れるのか心配になった。


しかしここまで夢中になるなら本指名は確実だ。

こよりの店の評価基準は、あくまで本指名率なのだ。


ぜひリピートしてもらわないと。


わざと緊張で震える彼に思い切り顔を近づけて、耳元で囁く。


「ねえ、またすぐ会いたい。来週も来てくれる?」


「え?来週…?ちょっと早すぎるかも…それに、友達としか来たことないし…」


「…ダメ?」


少し悲しそうな上目遣いで、じっと見つめてみる。


ソウタさんは戸惑うように目をそらしながら、でも力強く答えてくれた。


「いや、来週も来ます。…絶対。」


「やったー!!!!ありがと!すごい楽しみ!!!!」


ぎゅっとソウタさんを抱きしめた。


フラフラしながら帰っていくお客さんを見ながら、つくづく不思議に思う。


メンエス嬢の色仕掛けに、どうしてこんなに簡単に引っかかるんだろう。


しかもこよりは32歳だ。若くない。


離婚協議中の夫には、おまえには女としての魅力がないとか、30歳すぎたらメスじゃないなどと言われていたから、それが世の男性の価値観なんだと思ってた。


でも最近始めたメンエスでは、どんなお客さんも可愛いと言ってくれる。


リップサービスだろうけど、同じ人間でも評価される場所とされない場所がある。

結局人間の価値は適材適所なのだ。


この仕事を始めてよかった。


今日の売り上げはいくらかな…

と頭で計算する。


何の価値もないと思っていた自分に、90分2万円近く払ってくれるのだ。


年代が上がると触ってきたり本番を強請ってくるお客さんが増えるが、たいていは出禁にするといえば大人しくなるし、触らせなければ2度と来ない。


さぁ、次のインターバルも20分だから早く片付けないと。


西成区のカビ臭い3畳の部屋から抜け出せる日も近い。




-そうたside-


「何が起こったんだ…」

俺は夢でも見ているんだろうか。


マンションから出て、半ば放心状態で駐車場へと向かう。


でもこの治らない足の震えが、決して夢ではないことを証明している。


今日の出来事を、はじまりから反芻する。


友人との悪ふざけで通い始めたメンズエステ。


3回目ともなると、だいぶ慣れたものだ。

用意してきたセリフを頭の中で復習する。

「はじめまして。可愛いですね。お姉さん指名してよかったです」


顔もわからないパネル写真。タイミングがあったから指名しただけなのだが、お姉さんの士気をあげておいて損はない。


そんなことを考えていると、ガチャりと音を立てドアが開いた。


「こんにちは」

笑顔のセラピストが出迎えてくれる。


「え…」

その瞬間、息が止まった。


彼女は、可愛いとか綺麗とか、そんな言葉じゃ追いつかない。だってこんな女性は今までに見たことがない。


魂が揺さぶられる。

全身に衝撃が走る。


そんな出会いだった。


その後のことは、緊張しすぎてよく思い出せない。


でも今日のお姉さんの施術内容は、これまで受けたどの施術とも違う施術だった。


触り方がえっちで、焦らすようで、でもちゃんと圧を入れるべきところには圧があってマッサージも気持ちよかった。


120分があっという間だった。


でも全てが、その後の"アレ"で吹き飛んでしまった。


え、キス…?

メンエスってそういうこともするの…?

普通しないよな…?


もしかして、あのお姉さんはみんなにしてるのかな…。

そう思うと、少し胸がズキっとした。


正直これまでのセラピストは、普通だった。


でもそこで、「最高でした、こんな可愛いお姉さんで。」と答えるのが男の矜持だと俺は思っている。


でも今日は用意してきたセリフも口から出てこなかった。会話がまずできなかった。


こんなに震えて、変に思われた、絶対。

上手く喋れなかったし、かっこ悪い、俺…。


震える足をなんとか引きずって駐車場まで来ると、先に終えた友人が2人、俺を待っていた。


「そうた!どうだった?」

「…よかったよ。そっちは?」

「俺はなー、」


そこからの話は全く入ってこなかった。


俺の話もしつこく聞かれたけど、テキトーに交わした。


彼女のことは誰にも教えたくない。


来週か…。


メンエスは安くない。

正直フリーターのそうたには気軽に通える場所ではなかった。


…バイト増やすか。

少しでも多く会いたい。


思わせぶりな態度も優しい笑顔も全部仕事のうちだ。わかってる。

それでもそんなことはどうでもいい気がした。


ただまた会いたい。


彼女を思い出すだけで、全身の血が巡り、気持ちが高揚する。同時に、胸が締め付けられるような苦しさもある。


自分がこんな感情を持てる人間だったことに驚いた。


同級生たちはある時期を境に急に女の話ばかりするようになった。


友達の話を聞くのは面白いし、俺にも性欲がないわけではないが、そこまで女性に興味を持ったことはなかった。


メンエスも女の子に興味があるというよりは、一緒に行った友達が「当たりだった、ハズレだった」と騒ぐのを聞くのが好きなだけだった。


女の子に興味がないなんて、俺はどこかおかしいのか?ずっと誰にも打ち明けられずにいた密かな悩み。


そんな俺も、初めて人を好きになれた。

今日で、これまでの俺の人生とは何かが変わるような気がした。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

この物語は、愛されたかった人、過去を引きずってきた人、“人生の伏線回収”を信じたい人へ向けて書いています。


だからこそ、この物語が誰かの救いになったり、

ふとした時に思い出してもらえるような “灯り” になれたら嬉しいです。


もし少しでも心に残ったり、続きを読んでみたいと思っていただけたら──


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