No.329322 シャルトルーズグリーン
図書館の窓からグラウンドを見下ろす。
今日もかっこいいな…と気になる彼を横目で見つつ、身の入らない課題を進める。
ふと、窓の外を見ると彼と目があった気がした。
バッと顔を下げ存在を消す。
気のせいであれ。気のせいであれ。バレるな…!!!
と念じていると…
「まーた見てたの?向こうは気づかないよ。それより課題、進んでんの?もう終わるよ。」
と、隣の友達からツッコミを受けた。
ぐぬぬ。そうは言っても逆の立場になってみろ!
絶対気にするでしょ!と心の中で大暴れし、
好きな人を目の前にして課題が進むわけないじゃん!と思いつつ「あとちょっとで終わる〜」と気の抜けた返事で返す。
人工芝に生える黄色の靴。色々な色の中でもすぐ分かってしまう。
まだ話をしたこともない彼。
完全に3度目惚れというやつ。
1度目はうるさい陽キャだと思っていたのだが、次第に気になり始め目で追うようになった。
2度目は廊下ですれ違った時に聞いた声で思わず振り返ってしまった。
3度目は友達とはしゃいでいる時に見た輝くような笑顔。完全に落ちてしまった。
これが初恋。
話をしたこともない人を好きになってしまった歯痒さとどうしても胸が高鳴ってしまう気持ち。
ピンクと言うには単純すぎる。青春の青というには爽やかすぎる。
そうだな…これは多分、甘酸っぱい夏の日に眩しく生える草木のようなシャルトルーズグリーン。
また一つ
色を知った。
この色だと分かるまで、対象者は2つの理由で図書室に何度も通っていた。
人間はどうやら気持ちを表す言葉を知りたがるようだ。
そして、恋という感情を知った。
恋とは何なのだろうか。
他者を好きになるとはどういう感情なのだろうか。
今回の対象者は声と笑顔、存在で好きになったと感じていた。
思えば他者の声を聞いたことがない。
そして、我々には性別というものがない。
見た目も誰一人変わらない。さらには名前がない。
人間は互いを識別するために名前で呼びあっているが我々は互いに干渉し合うことがないため神からの言葉しか知らない。
人間から言わせてみれば「個性」がないのだ。
それ故に妬みや僻み争いがないのだ。
争いが無いように神は我らをこのような形で生み出したのだろうか。
他者を知りたい。
これは「感情」なのだろうか。
No.329322 シャルトルーズグリーン