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第9話 天才錬金術師、野盗戦の前準備をする

 サリバ一行は巨大な王都の城壁をくぐり、王都の外へ出た。王都の外は門がある四方に小さな街が建設されている。そこでは、商人達が最後の準備や小休憩などを取っている。


 四方の街で商隊が襲われることは滅多にない。


 襲われることが多いのは、街に入るまでの部分だ。長くはないが王都を囲むように森が広がっており、野盗からしたら絶好の機会となる。


 そのため、商隊は出来るだけ大きな隊を作り突破しようとする。が、それでも奇襲を仕掛けてくる野盗はいる。野盗の狙いは商隊が運ぶ荷物だ。


 断じて人の命などではない。


 森を通っての突破はリスクが上がるため、遠回りになるが別ルートを使う商隊もいる。

 今回、集中的に狙われているのはそのルートである。


【黒腕】の二つ名を持つムドリクの一味が、一番有名だ。過去にもムドリク一味を捕らえようとした者達はいたが、いずれも返り討ちにあっている。


 ムドリクは元『王国錬金術師』で、実力は高い。そのため、同格のサリバ達にお鉢が回ってきたわけだ。


 サリバ達は四方の街の一つ、東の街へやってきていた。


「サリバく〜ん、どうするの?」


 着いて早々、マキナが伸びをしながらサリバに問う。


「商隊に偽装して誘き出す」


 そう発言するサリバを捕捉するように、セキエイも口を開く。


「ギルドからの情報だと、積荷の質を基準に襲撃している節があるそうだ。高価なものであれば護衛も厳重になる、それでも位置を知られていないというアドバンテージを活かして、まんまと逃げおおせてる」


「それなら私達も同じじゃな~い。こっちは位置分からないわよ~」


「……姉貴、何でさっきギルドに行ったのか忘れたのか? 過去の襲撃地点を分析して、位置を把握しただろう」


「あ、そうだったわねぇ」


 会話が終了すると、サリバが一声かけその他全員が頷く。

 東の街でそれらしい服装に着替えると、用意されていた荷馬車を使い移動を開始した。


 森を迂回するルートは見晴らしがいい場所が多く、奇襲を仕掛けるのにはあまり向かない、というのがアルカディアの感想だ。


 昼過ぎ、サリバ達は小高い丘に着いた。ここ一帯がムドリク一味による襲撃範囲の中心地点だ。

 心地よい風が服装を揺らし、周囲はかなり遠くまで見渡せる。


 現場にやってきて、サリバがぽつりと呟く。


「こんな場所で襲撃受けてんのかよ」


 その呟きに他三名全員も反応し、サリバと同じような感想を抱いている。


「時間に関しては、暮れ方が多いみたいだが……」


「暗闇に紛れて接近してきてるんですかね?」


「……多分な」


 アルカディアの疑問に、サリバが同調する。

 兎にも角にも、こんな白昼堂々ムドリク一味が現れる可能性は限りなく低い。


 少し休息を取った後、マキナとセキエイ姉弟を残してサリバとアルカディアは周囲の調査を開始した。


「あんまり遠くには行くなよ」


「はい、何か気付いたら報告しますね」


 別れた二人はそれぞれ動き出した。

 アルカディアは注意深く観察しながら足を進めるが、特に怪しい場所やおかしな事はない。


(夕方近くにならないと分からないだろうな。所々に木が生えて、岩も同じくあるだけ……至って普通の平原だ)


 アルカディアの言う通り、ぽっかりと森に穴が開いたように木々がほぼなく広大な平原が広がっているだけだ。

 一時間近く歩き回り、そろそろと思い戻り始めたアルカディアだったが、襲撃予想範囲から1キロほど離れたところで妙な感覚に陥った。


 視界を狭めて注意深く観察していては気が付くことのない違和感。


(……岩山、見晴らしのいい平原にはあまり似つかないな)


 アルカディアが視界に捉えたのは極端に大きくはないが、勘の鋭い者なら違和感を覚えるほどの大きさの岩だった。

 通り過ぎようかと思ったアルカディアだったが、気になり近づく。近付いて見たからこそ分かる。


(普通の岩だ……でも、)


 アルカディアが気になったのは、その岩と地面との接地面。


(接地面の辺りだけ草が生えてない、ところどころ削れてる)


 緑豊かな草原とは違い、剥げている。そこにどうしても違和感を覚えてしまう。

 彼はその岩に触れ、少し押したり削ってみたりを繰り返しある考えに行き着いた。


(もしかして、ムドリク一味が中々捕まらない理由って……)


 アルカディアはそっとその岩から離れ、普段通りの歩幅で待機地点まで戻る。

 そして、違和感のことを一足先に戻っていたサリバに伝える。もちろん、自身の予想も含めてだ。


 サリバは表情一つ変えずに真剣な眼差しで話を聞いていた。聞き終えると、一言――


「――そうか」


 そう言ったのだった。



 ◇◇◇



 明るいうちに下見を終えたサリバ達は一度、東の街へ戻ると夕暮れ時を待って再び街を出た。

 荷馬車にはヒルトン商会の紋章が刻まれている。依頼者であるヒルトン商会が紋章を付けることを容認したからだ。


 ヒルトン商会は王都でも指折りの商会で、錬金術関連の品を多数取り扱っている。錬金術関連の品は多岐に渡り、様々な場所からモノが行き来する。国内中に張り巡らせている物流網は大きな強みだ。


 ここ最近、ムドリク一味は錬金術関連の品を運ぶ商隊を襲っていることもあり、少なからずヒルトン商会はダメージを受けている。

 つい先日は、四段(クアドラプル)錬装籠手(チェインガントレット)が盗られ大損害を受けた。


 これにより、少なくとも四段(クアドラプル)錬装籠手(チェインガントレット)が敵側にあることになる。そうなると、並の錬金術師では歯が立たない。そういった理由もあり、サリバがご指名を受けた。


 予想襲撃ポイントへの移動中、サリバ達も同じことを話していた。


「聞いてて思ったんですけど、サリバさんが選ばれた理由って"分解"の錬金術が使えるからですよね?」


「ぉお、よくその答えにたどり着いたな」


 アルカディアからの鋭い指摘に、サリバは素直に認め褒める。


("分解"ってかなり高難易度の錬金術なんだけどな……。見た目や性格からは想像もつかない)


 ――"分解"の錬金術。


 かなりの錬素を必要とする上、分解する対象が何かを見極め、構造や特徴を理解していなければならない。

 さらに、構築式も複雑なのもあって高難易度に類される錬金術だ。


 ある意味、世の中の錬金術師の天敵と言える存在だ。


「ま、錬素の消費量が大きすぎて連発できないのは難点だがな。不意打ちにはもってこいだぜ」


「……団長は脳筋と頭脳明晰(ずのうめいせき)のダブルパンチですもんね」


「うふふ、それは言えてるわね~。見た目だけなら野獣だものね」


 マキナとセキエイには言われ放題のサリバが、顔を歪ませながらも反論する。


「……一応これでもブライトよりも座学の成績は良かったんだけどな。(……やっぱり、ワイルド系はやめた方がいいのか)」


 案外、自分の見た目を気にしているサリバである。

 そんな会話をしながら距離を縮めた一行は、夕暮れ時の予想襲撃範囲まで戻ってきた。


 辺り一帯は遮るものがないので、真紅に染められている。

 そのまま警戒するかと思われたが、サリバが全員を集め何やら話し始めた。


「――、――――、―――だ。可能性は極めて高い。当たれば一網打尽にできる」


「そういうことなら、分かりました」


 セキエイが了承の意を示すと、次はマキナが言葉を発した。


「私は待機ぃ~?」


「ああ、お前はじっとしてられる性格じゃねえだろ。ここで待機して、後方支援を頼む。あと周囲の警戒もな」


「アルくんは?」


「アルは連れてく、今作戦のキーマンだからな」


 キーマンとして名を挙げられたアルカディアは力強く頷き、マキナは少し渋る様子を見せたが口を挟むことはなかった。

 

 最終確認を終えた一行はマキナを一人残し、とある場所へと急ぐため走り出したのだった。







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