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第7話 天才錬金術師、錬装籠手を知る

 ――アルカディア、敗北。


 当然と言えば当然の結果だ。【金】の称号を持つ錬金術師に6歳の子供が勝とうなど、どだい無理な話だったのだ。

 それに……アルカディアが敗北したのには決定的な理由がもう一つある。


 サリバが片腕に嵌めている籠手(ガントレット)だ。


 衝撃のアルカディアは拘束が解かれると、ずんずんとサリバに詰め寄っていき声を荒げる。


「そ・れ・は、何なんですか!?」


「え、何お前……錬装籠手(チェインガントレット)知らねえの?」


「ちぇいん、がんとれっと……」


 お前何言ってんだ? みたいな顔で話すサリバに対し、アルカディアは語彙力を失う。

 何とも言えない雰囲気の中二人の間に割って入ってきたのはガルシアだった。


「坊主、知らねえなら一から教えてやる。サリバも言ってたが、こいつは錬装籠手(チェインガントレット)っつってな、複数の錬金術を手合わせで発動できるよう開発されたもんだ。お前さんも分かるだろうが、錬金術師にとって一から錬成陣を描いて錬金術を使うってのは、大きなタイムロスになる。かと言って手袋や通常の籠手に書いておけるのは一つまでだ。そのデメリットを解消したのがこれだ」


「……一体、どういう仕組み何ですか?」


 説明の後、アルカディアは声を震わせながら言葉を紡ぐ。

 ガルシアは「ううむ……」と唸りながらも、簡単に仕組みを説明しだした。


「詳しい仕組みや作り方までは知らねえが、――ああ、実物を交えながら話す。サリバ、ちょいと寄越せ。いいか? 籠手(ガントレット)の手の甲に当たる部分を見てみろ。少しだけ分厚くなってんだろ」


「……はい」


「ここに仕切りを挟んで重ねるようにして、複数の描かれた錬成陣が刻まれてる。一番下に来てる錬成陣が発動できるやつだ。……とりあえずどうだ? ここまでは分かったか?」


「ええ、まあ……はい」


 返事はしているものの、未だ心ここにあらず、といった状態だ。


(……確かに、理屈としては完璧だ。これなら一つだけでなく複数の錬金術を手合わせで発動可能だ。でも、いくら仕切りがあるとはいえ複数の錬成陣を重ねたりしたら上手く錬成できないんじゃ……)


 アルカディアはふと芽生えた疑問をすぐさまガルシアにぶつける。


「ガルシアさん。仕切りの部分はただの仕切りなんですか?」


「いや、ちょっと違う。薄く伸ばした金属の仕切りではあるが、その中心に埋め込まれている特殊な鉱石が、錬成陣の効力を阻害してる」


「特殊な鉱石……ですか?」


「ああ、今は使用してないから分かりにくいだろうが、本来は鮮やかな青色の光を放ってる。――『青光冠石(ブルークラウン)』と呼ばれてる。超が5回つくほどの希少鉱石だ、採掘場所は限定されてる上、錬金術でも錬成ができん。価格は時価で、最近じゃ白金貨50枚で国が買い取ったそうだ」


「ご、50……」


 その数字の額に、アルカディアは思わず息を呑む。


 そして、力なく項垂れた。大丈夫か? とサリバとガルシアが顔を出した。

 すると、アルカディア目を爛々と輝かせながらサリバににじり寄りこう言った。


「これを、ください!!」


「は……いや、それはちょ――」


「サリバさんにとって僕は大事な友人の息子ですよね?」


「あ、ああ……」


「じゃあ、サリバさんにとっても僕は息子同然のはずですよね?」


「はああ!? おまっ……それはちょっと無茶があるんじねえのか?」


「ください」


「いやだから――」


「――ください。くださいと言ったらください」


「…………だああ!! ダメなもんは駄目だ、これは今までの俺の貯金全部はたいたんだ。絶対、渡さん」


 まるで本当の親子のような会話を繰り広げる二人をよそに、ガルシアは一人呟いた。


「全く、大人げない。(それにしても……やっぱりあの坊主はとんでもない力を秘めてるな。こりゃあ、あいつにも錬装籠手(チェインガントレット)が必要になるかもな……)」



 ◇◇◇



 一通りの問答を終えた三人は工房へ戻ってきていた。

 あの後、アルカディアは粘るだけ粘るがサリバを決して首を縦に振らなかった。

 やがて諦めたアルカディアは出されたお茶をすすっていた。


「はあ……ったく、ここまで我儘なんて聞いてないぞ」


「僕は6歳ですよ、少しの我儘くらいあっても当然だと思うんですけど」


「そういうことを言ってる時点で、お前は6歳じゃねえよ。なあ、旦那?」


「ま、どっちもどっちだな。だが坊主、錬装籠手(チェインガントレット)が欲しいなら『王国錬金術師』の資格を取れ。そうすりゃ、支給品としてもらえるぞ」


 ガルシアからの思わぬ助け船にアルカディアは身を乗り出す。


「ほ、ほんとですか!?」


「ああ、だが二段(ダブル)のだがな」


二段(ダブル)ってことは、2つの錬成陣までってことですよね?」


「ああ、そうだ。サリバのやつは三段(トリプル)だな。ちなみに、先月国王の誕生記念に献上されたのは、十段(ディカプル)だそうだ」


「ははは……何ですかそれ……」


 驚き過ぎたアルカディアはただ苦笑いするだけだ。

 そんなことはどうでもいいとばかりに、ガルシアを話を続ける。


「製作したのは、錬装籠手(チェインガントレット)の産みの親、今や幻となった『スレイン公』の一番弟子ルクス殿だ。御年90を超える怪物だ」


「怪物って……けど、幻ってどういうことですか? 死んだんですよね?」


()()()()


 ガルシアの含みのある言葉にアルカディアが反応する。


「どういうことですか?」


「……年齢的にはすでに200歳を超えている頃だろうからな、老衰で死んでいるはずだ。だが、行方不明になって以降、誰も知らない。それゆえに、死んだかどうかも分からない幻の錬金術師となった」


「……へえ、すごい人がいたんですね」



 それから少しして、解散となりアルカディアは家路を急いでいた。脇目もふらず一心不乱に走り一分一秒でも早く家へ帰るために。


 そして、帰ってきた。


「た、ただい……ま」


「……アァルゥゥちゃん。おかえりなさい」


 門限が設定されている訳ではなかったが、家を出た時間が午前であることを考えると6時間以上帰ってこない事実は、リーゼの逆鱗に触れるのに充分だった。

 たっぷり叱られたアルカディアは、改めて母の恐ろしさを思い知った。



 その夜、久しぶりに父ブライトが帰宅して両親が揃ったところで、アルカディアはとあることをお願いしようと考えていた。


「父上、母上。お話があります、よろしいですか?」


「なんだ? 改まって」


「はい、実は……10歳になったら学院に通いたいと思っています。よろしいでしょうか?」


 ずっと考えてきたことであったが、アルカディアは今日に出来事を受け決めた。

 この時代には自分の知らないことがたくさんある。それを知るためには、やはり学院に通うことが最適だということを。


 アルカディアは勇気を振り絞ったのだが、両親に返事は意外に呆気ないものだった。


「いいも何も、そうだと思ってたぞ」


「そうね、学院に行きたいと聞いたのは初めてだったけど……普通に通うものだと思ってたわよ」


「――へ。あ、そうだったんですか……」


 一気に気の抜けたアルカディアはその場にふにゃりとへたり込む。


「それに、アルの意志に関わらず俺は行って欲しいと思ってたからな。学院は人によっちゃ合わないが、錬金術師を目指す者なら行って損はない。というか、得しかないからな。アルが錬金術師なってくれないと、もし俺が死んだとき母さんを守る人がいなくなるからな」


「もうっ、そんな縁起でもないことを」


「ハハハ、冗談だよ冗談。孫の顔が見れるまでは死なんさ」


(何だか、大げさに考えすぎて馬鹿みたいだな……。あーあ、なんか疲れたや。早く学院とやらに通いたいな)






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