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第6話 天才錬金術師、父の旧友とばったり会う

「え、ブライトって……父上をご存知なんですか?」


「ぁあ……っていうか、何でここに?」


「えっと、それはですね――」


 かくかくしかじか、アルカディアは端的に分かりやすく説明した。

 するとブライトを知る男は口角を上げ、アルカディアの背中をバンバンと叩きながら奥の工房へ引きずっていく。


「いや、ちょ……(帰ろうと思ってたのに、くそぅ)」


 自分より倍以上の背丈の男の力に叶うはずもなく、アルカディアは再びガルシアのいる部屋へ連れていかれのたのだった。



 ◇◇◇



「何でまた戻ってきたんだ?」


「俺が連れてきた」


「本人はすごい嫌そうな顔してるが」


「あれ? 嫌だった?」


「お前は……その癖を直せと言ってるだろぅ」


「ハハハ、わりぃわりぃ」


 アルカディアは忘れ去られたのか、真顔で無心でポツンと座っていた。


(……これ、こっそり帰ってもバレないよな。よし)


 帰ろうと身を屈めすり足で移動しようと足を出した時、後ろの襟を掴まれた。掴んだのはもちろん、自称ブライトの旧友だ。


「おい、逃げんなよ」


「いや、僕は帰りたいんですけど」


「いいじゃねえか、お前の父ちゃんの旧友だぜ? 仲良くしようと思わねえのか?」


「母上からは見知らぬ人の言うことは聞いちゃダメだって聞いてるんで」


「可愛くねえなぁ、俺はお前のおしめも変えたことあるんだぜ。ちょっとだけだからさ、いいだろ? 帰りは送っていってやるよ」


「……分かりました。少しだけですよ」


 これ以上絡まれるのは面倒だと感じたアルカディアは不貞腐れながらも居残ることにした。

 そんなアルカディアの様子を見てブライトの旧友は優しく微笑んだ。


 そして、やっとこさ自己紹介として名を名乗った。


「俺はサリバ、一応『王国錬金術師』で称号は【金】だ。今は外用の錬金術師をやってる。そんでブライトとは学院時代の友達だ。今もたまに会うことはあるがな」


「どうも、父上の息子のアルカディアです」


「おう、知ってるぜ。錬金術師の金の卵だってブライトが自慢してたわ」


「そうなんですか……まあ錬金術は好きですけど。実力は分かりませんよ?」


「そうか? 俺には分かるぜ、お前は強い。6歳という枠の中じゃトップクラスだろ」


 サリバは至って真剣な顔でそう言った。

 この時アルカディアは自分の心の内を見透かされてるかと思った。


(錬金術という枠の中なら、だろうな……何でもありの戦闘になったら今の俺はあまりにも無力だ)


 錬金術師同士の戦いでも、錬金術の技量だけで勝負は決まらない。剣術や体術など、その他の要素も加わってくる。


 それと、サリバの言った『王国錬金術師』は国家資格である。王国内で錬金術を用いた職に就く者は皆持っていなくてはならない。


 また、称号とは『王国錬金術師』の中での序列を表すものだ。

 錬金術師としての力や功績など、多くの観点から評価され総合的に決まる。


 全部で10あり、上から順に【神金】【アダマンタイト】【オリハルコン】【緋々色金(ヒヒイロカネ)】【白金(プラチナ)】【金】【灰輝石】【金剛石(ダイヤモンド)】【銀】【鋼】となっている。


「それでだ……」


 と、前置きしたサリバはアルカディアにとある提案を持ち掛けてきた。それは6歳の少年にするような提案ではないのだが。


「……アル、俺と戦わねえか?」


「へ……?」


「おいおい……またかよ」


 アルカディアは今日何度目かの間抜けた声を発し、ガルシアはため息を吐きながら頭を抱えている。

 サリバには少しバトルジャンキー的な性格がある。誰彼構わずというわけではないが、アルカディアはサリバのジャンキーセンサーに引っかかってしまったのだろう。


「別に大した意味はないぜ、単純に旧友の息子(せがれ)の実力を知りたいな、と。そう、これは純粋な興味だ」


「うーん……」


「どうせアルも学院に行くんだろ? あそこは学院によっちゃ魔窟だからな。貴族連中がいるならなおさらだ。錬金術師としての力があって困ることはない」


「まあ、学院に関しては選択肢のひとつとして考えてはいますけど……。サリバさんって強いんですか?」


「ん? まぁ一応『王国錬金術師』だし、【金】だしな。腕っぷしには自信はあるかな」


 そう言うサリバはやや謙遜したような様子だったが、滲み出る雰囲気や後半の言葉からは確かな自信が表れていた。

 アルカディアはそれを感じ取り、思考を巡らす。


(戦ってみたい気持ちはある。別に殺し合いをするわけではなないし、この時代のベテランがどれくらいの実力なのか知るいい機会だ。アレクシスもだけど、特に錬師(メイオール)の実力は凄まじかった)


 数瞬、合間を置きアルカディアは答えを出した。


「分かりました。僕の方からもお願いします」


「よし、決まりだな。というわけで旦那、地下借りるぜ」


「はぁぁぁ……好きにしろ。あんまり汚くするなよ」


「わーってるって」


 立ち上がったサリバに着いていく形で、二人は地下へと向かった。



 ◇◇◇



 ガルシアの工房の地下には、素材などを保管しておく倉庫が置いてある。倉庫を置いていても埋まらないほどに地下は広かった。


 所々地面が凹んでいたり、一つだけ大きなクレーターがある。ここを戦いの場として使うのは初めてではないことも分かる。


「……懐かしいなぁ。おいアル、あのクレーターはブライトがやったものだぜ」


「え!? あれを父上がですか……」


「ああ、お前の父ちゃん。見かけによらず結構強いんだぜ」


 確かにブライトの見た目は強そうには見えない。

 だが若くして地区主の錬金術師兵団の部隊長になった男だ。弱いはずはないのだが、家での強さはリーゼが上のためアルカディアにはそっちの印象の方が強かった。


「んじゃ、やるか」


「はい」


 アルカディアとサリバが互いに位置につく。

 いつの間にかガルシアも来ており、鼻息荒くしながら腕を組んで見守っている。


 アルカディアはポケットから取り出した錬成陣入りの手袋をはめ準備完了。

 対するサリバは腰に下げた袋から一つの防具を取り出した。


 アルカディアはそれを見て目を細める。


(なんだあれ……籠手(ガントレット)か? もしかしてサリバさんって拳で戦う武闘派なのかな……)


「準備オーケーだ、いけるか?」


「はいっ」


 そして、どこからともなく戦いが始まった。


 先手を打ったのはアルカディアだ。パンッと手のひらを打ち合わせ地面に手を置く。バジジと雷が走ると、サリバの目の前の地面から凹みながら鋼鉄の壁が錬成される。


「おおっ」


 サリバは4メートル四方の鋼鉄の壁の出現に小さく驚きの声をあげる。

 その隙にアルカディアは体内に錬素を巡らせ、細胞活性化を行い身体を強化する。


(よし)


 アルカディアは地を蹴り駆け出す。

 だが、その瞬間鋼鉄の壁が破片となって吹き飛ばされた。


「――ッ」


 サリバが片手を前方に突き出していた。


(あれは……"分解"か。あの籠手(ガントレット)に仕込まれていた錬成陣だな)


「今度はこっちからいくぜ」


 サリバが獰猛な獣みたくニヤリとすると突進してきた。右手を背中に回すと、隠し持っていた剣を引き抜き構える。


(おいおい、拳じゃないのかよ。ってことはあの籠手(ガントレット)はブラフか?)


 そんなことを考えていると、サリバが高速で接近してくる。

 アルカディアは再び手のひらを合わせ鋼鉄の壁を錬成する。今度は自身のすぐ前に出す。


 その壁に両手を置き、錬成陣を描く。

 その速度は速くみるみるうちに円ができ、構築式が刻まれていく。


 錬金術において速度を速める方法は大きく二つある。

 一つは構築式を簡略化し、速度を速める。だがこれでは錬成陣が薄くなってしまい質が落ちる。


 二つ目は錬素をどれだけ巧みに扱い、素早く"流す"ことができるか。錬素の扱いが下手な者と上手い者の間には明確な差が出る。


 そういう意味だと、アルカディアの錬素の扱いは極上だった。

 それは兄弟子アレクシスも認めており、錬師(メイオール)にも届くかという程だった。


 今回の場合、アルカディアはいつもより少しだけ構築式を簡略化したが、質はそこまで落ちていない。


(……いけっ)


 鋼鉄の壁から錬成された同じく鋼鉄の突起物は何重にも重なり、サリバに襲いかかった。


「へへっ、やるじゃねえか(……円を描いてからの錬成陣完成までが恐ろしく速い。"理解"が出来てることもそうだが、錬素の扱いが上手すぎんだな。こりゃ金の卵どころじゃねえ……白金(プラチナ)の卵だぜッ)」


 サリバは剣を強く握り直すと、襲いかかる鋼鉄の群れをバッサバッサと斬り裂いていく。鋼鉄がスパンスパンと斬れていく様は圧巻の一言だ。


(う、嘘だろ……あの剣、とてつもない斬れ味だ)


 アルカディアはそんな様子を見ながら呆気に取られていた。

 が、この状況を見過ごすなんてことはしない。


 得意の体術戦に持ち込むべく接近を試みるが、サリバは数歩後退すると、再び両の手のひらを打ち鳴らした。

 そしてそのいく先は地面へと向かっていく。


(え、まさか地面を分解するつもりなのか……)


 走るのをやめ、立ち止まるアルカディア。

 地面にはと走る雷と同時に鋼に錬成された土がアルカディアと同じく複数の突起物となり四方八方から捕縛にかかる。


 "分解"と思われていた錬成陣なのに、なぜ他の錬金術が発動するのか。アルカディアには理解できず、さらに襲い来る鋼共を砕くことはできずに全身を拘束されてしまった。


「はえ……(錬成陣を描く時間なんてなかった、あれは間違いなく手合わせでの錬成……どうなってんだ?)」


「……どうやら俺の勝ちのようだな」




 この世界、アルカディアの知らないことがまだまだ多くあることを予感させる戦いだった。










 

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