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第18話 天才錬金術師、3人目の友が出来る

 ガルラの錬金剣術に感化されたアルカディアはやる気になっていた。自分のまだ知らぬ戦い方を知り、知的好奇心が溢れたのだ。


 ガルラの放った薄く伸ばされた銀色の刃は形を戻し、籠手(ガントレット)におさまっている。彼自身、顔には出さずとも冷静にアルカディアを見ていた。


(……初見で避けられた。やっぱりあいつ、強いッ)


 再び距離を詰めるべく走り出すガルラ。

 遠距離攻撃もしてくる事が分かったアルカディアだったが、走るガルラから距離を取ることはせず、もう一度接近戦を試みる。


(危険だけど、錬金剣術を知るには致し方ない。次はどう出てくるか……)


 ガルラの間合いに入ったアルカディアは、錬素による身体強化を発動。体術による攻撃を仕掛けるようだ。

 だが、リーチで勝るガルラが刃付き籠手を横薙ぎに振るう。


 薄皮一枚、髪の毛は犠牲になったがアルカディアは下へ屈むことでこれを回避する。

 強化された身体で流れるように体勢を起こすと、右脚で強烈な蹴りを放つ。


「……ッ」


 これを予期していたのか、ガルラは焦る事なく空いた腕で防御する。ヒットした瞬間、腕に流れる痛みで顔を歪ませるが吹き飛ばされることはなかった。


 アルカディアの錬素による身体強化は極みの域に達していると言える。同じ身体強化でも、扱いの差で上回ることが出来ている。


 次も攻撃が入れ替わり、ガルラが狙い澄ましたかのように刃の切っ先を向け刺突を繰り出す。

 アルカディアは左脚を起点に反対方向へ身体を捻り、刃は空を切る。


「チィッ、なら――」


 ガルラはそう吐き捨て、先程と同じく一歩半後ろへ退がる。


「!! (きた……)」


 待ってましたとばかりにアルカディアは眉を吊り上げると、今度は一歩半分開いた距離を詰めるべく、さらに足を踏み出す。


(さあ、今度は詰めたぞ……どう出る?)


 ガルラは距離を詰められたことなどお構いなしに、両手を合わせ、手合わせ錬成の構えを見せる。


(手を合わせた、今度はどんな形状で――)


 その構えを見せられたことで、アルカディアの意識は先程の攻撃へと傾く。そのせいか、反射的に身体は後ろへ寄った姿勢へなってしまった。


 一方のガルラの手は刃に伸びるかと思われたが、それ以降動きはなく代わりに脚が動いていた。

 アルカディアは視界の端にその回転する脚を捉えていたが、反応は遅れる。


(しまった……)


 ――ダアアンッ!!とガルラの(かかと)蹴りがアルカディアの横っ腹に命中した。

 回転による勢いを加えた蹴りだったが、アルカディアの身体は少し揺れただけで足跡がずれることはない。


(!? なんだこいつの身体は、まるで鋼鉄の壁みたいな――)


 あまり感情を見せることのなかったガルラだが、初めてその顔に驚愕の文字が浮かぶ。


(これでダメなら――)


 悔しさを滲ませ、ヤケクソ気味に手を合わせ刃に触れる。すると、刃は鎌のような形をに姿を変える。

 ブォン、と風切り音が聞こえるが肝心の刃はアルカディアには届かない。


 遂には二歩三歩と距離を取られる。


 中距離気味の間で、アルカディアは錬金剣術の大まかな戦い方にアタリをつけていた。


(錬金剣術……確かに面白い技術だ。何も知らないと初見殺しされるし、仮に避けれても大きな隙を生んでしまう。それに――逆に距離を詰めれば、こちら側が選択を迫られることになる。遠距離攻撃として刃を伸ばしてくるのか、それともそれはブラフで、本命は別の攻撃方法なのか。相手の出方次第で攻撃方法を変化させる……これが恐らく錬金剣術の基本だろうな)


 6歳とは思えない観察眼でしっかりと分析してみせたアルカディア。模擬戦を終わらせるべく、動き出す。

 手合わせ錬成用の手袋を持って来なかったアルカディアは、模擬戦前に急遽自身の手の甲に錬成陣を描き込んでいた。


 傷などが残ることはないが、数日経たないと消えないのが難点だ。


 ――パンッと乾いた音の後、アルカディアの両手が地面へ置かれ、バジジと雷が迸る。

 錬金術の合図を察したガルラはバックステップでさらに距離を取る。


 錬成陣から錬成されたのは、3、4度目のお披露目となるアルカディア十八番の鋼鉄の壁だ。


(壁は防御に使えるし、相手の視界を遮ることにも使える。その上、攻撃にも転用できる素材にもなり得る。こんな便利な錬金術他にないだろ……)


 鋼鉄の壁は一重ではなく四重五重も錬成され、ガルラの道を塞ぐ。おまけにアルカディアが何をしようとしているのかが分からない。


(そういう場合、動けないだろうな……)


 アルカディアはガルラの行動を予測しながら、両手を鋼鉄の壁へ添える。ヒンヤリと冷たい壁が一層緊張感を増させる。

 巧みに扱われた錬素はあっという間に錬成陣を完成させ、発動まで到達する。


(……喰らえ)


 ――バジジジ、ジジジと鋼鉄に流れた雷をきっかけに、鋼鉄の壁が竜の頭を模したものに錬成され、勢いよく飛び出した。初めの一頭を皮切りに、最終的には十数頭が前方からガルラを襲う。


「!? キッ……」


 ドンと両手を地面に置いたガルラは急いで錬成陣の完成を目指す。その間にも、鋼鉄の竜は空を喰らいながら接近してくる。

 アルカディアほどではないが、ガルラも錬金術の技術は高い方だ。


 ――と言っても、それは現代基準の話だ。錬金術創世の古代で生きた天才に届くものではない。


 間一髪のところで、ガルラは防御となる鋼鉄の壁を完成させた。外見は何も変わらない鋼鉄の壁だ。


 ……ただ、急拵えかつ速度を重視した錬成陣から錬成される鋼鉄の質は――――脆い。


 鋼鉄の竜と壁が衝突した瞬間、壁は竜の(アギト)に噛み砕かれるようにして、崩れ去った。


「…………」


 言葉をなくしたガルラはそのまま呆然と立ち尽くしていたが、背後から気配を感じ気を引き締めた――


「――ふんっ」


 鋼鉄の竜群を遮蔽物として、密かに接近していたアルカディアは拳でガルラの頬を打ち抜いた。


「ぶっ……」


 口の中が切れ、血を流し膝をついたガルラを見て、審判役のフランマは声を上げた。


「勝負ありッ、勝者、アルカディア!!」


「おおおお……!!」


「あいつ、あんな強かったの……!!」


 模擬戦を見ていたファリアとキースが揃って驚きの声を発する。

 勝負を終えたアルカディアはガルラの下まで行くと、膝をつき? 同じ目線で手を差し出した。


「……? 何お前まで膝ついてんだよ」


「? だってそうしないと上から目線みたいでしょ」


「……ふん、それがお前、なんだな」


 唇を尖らせたガルラもアルカディアの手を取り、二人は握手を交わした。

 その様子をフランマは目を輝かせて見ていた。


「うんうん。あれが、青春だねえ……」


 その発言を聞いたファリアとキースは真顔でそっと距離を取ったのだった。

 一息吐いたアルカディアはガルラから呼ばれ足を止める。


「おい、お前……アルカディア、でいいんだよな?」


「うん。気軽にアルって呼んでよ、僕もガルラって呼ぶから」


「……そうか、覚えたからな。アル、この借りは必ず返す。どんな形でもな」


 家の再興を目指す錬金剣術の使い手、ガルラがアルカディアの新たな友人となった瞬間だった。



 ◇◇◇



 日差しが強く暑い日のこと、学院入学に向け少しづつ勉強をしていたアルカディアは、アルバイト先のガルシアから呼び出しを受けていた。


(何の呼び出しか……不備でもあったのかな……)


「ちょっと早いけど、行くか。……母上、アダマース家へ行ってきます」


「あら、また行くの? 昨日も行ってたじゃない」


「あ、えーと……一緒に勉強の約束を……」


「そう。気を付けていってくるのよ。そ、れ、と……ファリアちゃんと仲良くね」


 リーゼから意味ありげな発言をされ、アルカディアは反抗期気味に反論する。


「……母上。()()()()のではないので、勘違いしないで下さい。行ってきます」


「むー、素直じゃないんだから。行ってらっしゃい」


 母親も頬を膨らませて反抗の態度を取るが、とんでもない勘違いをしているリーゼなのだった。


 家を出たアルカディアはガルシアの工房へ向かった。

 最近、サリバ達に会っておらず、もしやという思いがアルカディアにはあった。


 工房へ着くと、慣れた様子で中へ入る。そこには、


「あれ、マキナさんにセキエイさん。珍しいですね、お二人がここにいるなんて」


「ふふふ、ここにはお世話になってるからね〜」


「おう、来たかアル。これで、全員揃ったな」


「?」


 アルカディアは首を傾げる。


(一体何をするつもりなんだ……)


 丸テーブルをドンッと叩いたガルシアは、いつもより声を張り上げて言った。


「とりあえず先に言っとく……俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()!!」












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