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第1話 天才錬金術師、転生する

「……それで、一体なんの用でしょうか?」


 とある場所、とある建物にある薄暗い一室に一人の男が呼ばれていた。髪は短く適度に乱れている。

 男は内心、面倒くさいと思っていたがそれを表に出すことはない。


 表に出せば、要らぬ争いに発展することが明白だからだ。


 対して男を呼び出した長髪の男は取り繕った笑みを浮かべながら言う。


「何度も言わせないでください、アルカディア君。以前話した件についてですよ」


 アルカディアと呼ばれた短髪の男は即座に顔を顰める。


「……その件に関しては丁重に断ったはずです」


「本当に、それが答えですか?」


「ええ、答えは変わりませんよ」


 アルカディアが毅然とした態度でそう言い放つと、長髪の男――アレクシスが残念そうな顔をする。

 それを見てアルカディアは黙って背を向け、部屋を出て行こうとする。


 ――だが、その時パンッと乾いた音が静寂を切り裂いた。


 聞き覚えのある音を耳にしたアルカディアは焦ったように後ろを振り向く。

 そしてその瞳に映ったのは、先程とは打って変わり邪悪に顔を染めた長髪男が両の手のひらを合わせる光景だった。


「――ッ!!」


「……ふふ」


 合わさった手のひらから、バジジジと僅かな雷がほと走る。


(錬金術……)


 アルカディアが呟くと同時に、足元の床に眩い紫色の錬成陣が浮かび上がる。

 それはすでに構築された錬成陣で、あらかじめこの地点に備えられていたものだ。


 周囲の床がベコリと凹み、錬成陣から黒光りする鎖が飛び出してくる。

 鎖は瞬く間にアルカディアの四肢を拘束し、床へ縛り付けた。


「ぐっ……(こっちに錬成させないために両腕を硬く縛りあげてる……錬成陣を見る限り、かなりの時間と錬素を費やしてるな)」


 計画的なものだ、とアルカディアを思う。

 キッ、とアレクシスを睨みつけわなわなと怒りに震えながら拳を握り締める。


「アルカディア君が悪いんですよ。私の誘いを断ったりするから」


「……そんな計画に乗るわけがないだろう。それに、錬師(メイオール)はそんなことを望んではいない……ッ」


 アルカディアが言う錬師(メイオール)とはアレクシスとアルカディアの師だ。

 錬金術を確固たるものとし、数々の功績を残してきた。

 そして二人は錬師(メイオール)から全てを学んだ。


 ――それはひとえに、人々の安寧と国の発展のためだ。


 一週間前に老衰で亡くなった錬師(メイオール)もそれを望んでいた。


 だが、一番弟子のアレクシスはあろうことかその錬金術を用いて国の実権を乗っ取り、周囲の国々へ侵略戦争を行う計画を立てていた。


錬師(メイオール)はこうなることを予測して……)


 アルカディアは過去の錬師(メイオール)との最後の会話を思い出していた。


 ――『……アルカディアよ、アレクシスと力を合わせなさい。敵対することはあってはならん』

『はい、錬師(メイオール)

『……ぅむ。じゃが、わしには気掛かりなことがある。――アレクシスのことじゃ』

『兄弟子、ですか?』

『あれは、賢く聡明なやつじゃ。それゆえに、間違った方向へ進むかもしれん。……錬金術は強力な力じゃ、大きすぎる力はやがて人の意思精神さえも呑み込む。そうならんためにも――頼んだぞ』


錬師(メイオール)が生きてる時では考えられなかった。まさか、兄弟子が……でも今なら分かる。錬師(メイオール)は鎖だったんだ、その鎖から解き放たれた兄弟子は――止まらない)


 錬師(メイオール)亡き今、アレクシスを止められるのはアルカディアしかいない。

 だからこそ、彼は動く。


 体内の器官から錬金術を行使するのに必要な【錬素】を体内へ流していく。

 

 錬素には錬金術の源となる他、細胞を活性化させ身体そのものを強化することもできる。


 現在、アルカディアを縛り付けている鎖も強化された身体であれば抜けられるだろう。

 アルカディアはそう考えていた。


 一気に全身に力を入れ、鎖を解くべく身体を震わせるアルカディア。


「――ッ、ぅう……(何でだ、ピクリとも動かない)」


 アルカディアは驚きで目を丸くする。

 今ある金属や鉱石を錬成して鎖としていても、身体強化を施したアルカディアなら抜ける筈だった。


 その様子を見て、兄弟子のアレクシスはふふふと笑う。


「何を驚いているんですか? まさか、あなたを縛るのに何も工夫をしないとでも思ったんですか? ……あなたは私よりも錬素の扱いが上手ですからね。当然、新たに錬成した特別製の合金を使っていますよ。あぁ、あなたは知るはずもないでしょう。錬師(メイオール)ですら知らないですからね。どうですか? 気に入っていただけましたか、私の努力の結晶を――」


「特別製の、合金だと…………は、はは、ハハハハハハ」


 呆然と呟いた後、アルカディアは壊れたように笑い声をあげる。


(俺は馬鹿だな、何も分かっちゃいなかった。錬師(メイオール)からの忠告を聞きながらも、心のどこかではありえない、と思い……仮にそうであったとしても、何とかなるだろうと思っていたんだ。――ハハ、俺の方が力を過信して、力に溺れていた、そうだったんだな)


 そう思うと、呆れて笑い声しか出ない。


 アルカディアがひとしきり笑い終わるのを見計らって、アレクシスが口を開く。


「さて、これが最後です。アルカディア君、私の計画に協力してくれますね……?」


「……断る、錬師(メイオール)の意思に反するくらいなら、死んだ方がましだ」


「――そうですか、……残念です」


 アレクシスはそう言うと、おもむろにポケットから革の手袋を取り出し着ける。革の手袋には小さな錬成陣が刻まれている。


 パンッと再び渇いた音がしたのち、アレクシスは近くの金属片に触れる。

 

 すると、金属片がみるみる形を変えていき、やがて短剣となった。


 短剣の柄を握ったアレクシスは、ゆっくりとアルカディアへ近付き、――容赦なく急所へ突き刺した。

 

 噴き出す血が部屋中へ飛び散っていく。


 そして、ごぽりとアルカディアの口から血が出てくる。

 短剣は突き刺されたままで、アレクシスはスッと横を通り過ぎると、部屋から出て行った。


「はぁ、はぁ…………メイ、オール……」


 それが、アルカディアの最後の言葉となった。



 ◇◇◇



「……(ん、んん……)」


 アルカディアは目を開けれることに気付いた。薄く開かれた目に差し込む光が眩しく、ギュッと目を瞑ってしまう。


 次いで、耳かあることにも気付く。何やら言葉が耳に入ってきているが、何を言っているのかは分からない。


「――!!――――」


「――て、――――」


 アルカディアは身体を動かそうとするが、上手く力が入らない。

 心なしか、手足も短くなっているような、何とも不思議な感覚に襲われ続けた。

 

 それから少しして、アルカディアの視界が開いていき、聴覚も戻ってきた。傍で話されている言葉も理解できるようになってきた。


(ん? なんだ、何て言ってるんだ?)


「おお……この子が俺たちの息子か。よく頑張ったな、リーゼ」


「ふふ、そうね。この子が私たちの息子なのね……」


 アルカディアの視界に入ってきたのは、男女二人だった。

 

 短く綺麗に切り揃えられた髪の男に、柔和な笑みを浮かべアルカディアを眺める薄茶色の髪をした女性。


(……この女性が、リーゼというのだろうか。それに……息子とは? 俺のことか? って状況的にそれしか考えられないよな……。つまり……俺は赤子になってしまったわけ、か……。っていうか、俺――死んだよな?)


 何が何だか分からないまま、目の前にある事実を飲み込んだアルカディアは、両親と思われる二人に交互に抱かれ揺られながら難しい顔をするのだった。







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