英雄
準備を始めて1週間が経った。今日はビクトルが帰ってくる日だ。
邪魔にならないように俺たちは部屋にこもって作戦の確認をしている。
「俺たちは《天領の民》を直接ぶっ叩く、つまり未知の敵に突撃するわけだ。」
「なんか作戦はあるんでしょうね?」
「あるにはあります。メインアタッカーはもちろんユニさんメイリア。2人に地形破壊と邪魔者を排除してもらいます。ド派手に暴れては間に俺が速度バフをかけた勇者様が裏口から入って地下に行ってもらいます。」
「なぜ地下に?」
勇者様の質問に俺は地図を指さす。
そこには皇国の地下にある巨大な空洞が描かれていた。
「地下は龍脈・・・端的に言うと自然の魔力の塊に近く魔法実験に都合が良いんです。」
「そして結界や隠蔽がし易い、ですよね?」
モニカにセリフを取られる。キメたかった・・・!
「地下に行くのは俺、勇者様、モニカ、セイカさん、レティシィさん。」
「えー私じゃないの?」
メイリアが不満をこぼす。
「メイリアの方がレティシィさんよりも火力高いし魔力も魔法も多いけど咄嗟の機転や小回りの効く立ち回りをできるのはレティシィさんなんだ。メイリアは派手に暴れて敵を殲滅するのに向いてる。」
この説明で納得してくれたようで何も言わなくなった。
メイリアは火力ゴリ押しタイプだからなぁ。
「残りのメンバーは城の上部に向かってくれ。多分そこに皇族がふんぞり返ってる。いなくても何かしらの証拠あると思う。小回りの効いて頭の回転も速いメンバーだから任せられることだ。
作戦も粗方決まったところで扉が豪快に開いた。
「君たちが勇者パーティか!!父上から聞いたぞ!!」
こいつがビクトルか・・・
「だが納得いかん!私が《天領の民》を叩く!」
功名心あってプライド高いタイプかぁ・・・
「初めまして、ビクトル様。私が作戦を考えた者です。」
「君か。よく考えられた作戦だが納得できん!!」
「よく聞いてください。」
「なんだ?」
こう言うタイプは功名心とプライドを満たす気持ちよくなれる言葉をかけるのが1番だ。
「作戦に参加する兵士はほとんど志願兵の市民とこの国の兵士です。」
「そうだな。」
「その市民たちがこの国の『退魔の英雄』であるビクトル様と戦うことが大きな意味があるのです。」
「意味?」
「ビクトル様は御自覚がないかも知れませんがこの国の『英雄』であるビクトル様が指揮を取るのと他所の国の『勇者』が指揮を取るのでは士気の上がり方が比ではありません。」
「むむ・・・」
「『勇者』が身を顧みず相手の親玉を倒す中、『英雄』が身を挺して市民を、国民を守るために尽力する。神話のようではありませんか!」
「確かに・・・」
「私は思うのです・・・不安な中『英雄』ビクトル様の激励は何より力になるのではないかと!!」
「それもそうだ!!君の作戦に賛成だ!!」
「ありがとうございます!私の方で激励に使えそうな言葉を見繕っておきます。」
「うむ!!気に入ったぞ!!」
計画通り・・・まぁほとんど本心だけど。
「ユウさん冒険者やってなかったら多分詐欺師してましたよね・・・」
モニカの呟きが虚空に消えた。




