子爵家/D級昇格!?
目深にフードを被った女の子がカッシュの腕を捻じ曲げて地面に押し付けていた。
「やっと見つけた。」
知らない女の子の体の向き的に俺に言ってるよな・・・
誰だこの女? こんな知り合いはいないぞ? 俺は記憶を探るがやはり思い出せない。
「君は一体?」
女の子は答えず、無言でカッシュを押さえつけている手に力を込める。
「ぐぁ!ちょっ待って!痛い痛い!」
「・・・・・。」
フードを被っているため表情は見えないが明らかに怒っている様子だった。
カッシュは必死にも許しを懇願するがその願いは聞き入れられない。
「謝罪をする相手は私ではありません。」
「なんで・・・!俺があんなカスに!!・・・痛い痛い!!!!」
ギリギリとさらに力を込めて押さえつけ始めた。
「ごめんなさいごめんなさい!!許してくれー!!」
「話進まんからそいつ置いといてさ、話してくれないかな?」
流石に見かねて割って入った。
すると女の子はカッシュを解放した。
解放されたカッシュは腕を抱えながらよろよろと立ち去っていく。
「私はリエル。バルザード子爵家長女リーシャ様のメイドです。」
「はぁ、そのメイド様が一冒険者に何の用でしょうか?」
マジで心当たりがない。
「リーシャ様と子爵様がドラゴンの討伐で活躍した冒険者のお話を聞きたいから連れて来いと仰っ
たので。」
あぁ~なるほどね。
そういうことか。
「えっと・・・俺は冒険者だけどE級なんですけど・・・」
「存じております。」
流石に調べてるか・・・
「では何故E級の私なのでしょうか。勇者様に聞けば良いものを・・・」
「勇者様にはもう既に話を通しております。そして断られました。」
断られた? まぁ無理もないか。あの人たち忙しそうだし。
でもなぁ。緊張するなぁ。
「もちろん報酬も支払います。」
「うーん、分かりました。」
「では、参りましょう。馬車を手配してあります。」
そう言うとスタスタと歩き出すリエルさん。
慌てて追いかけると御者が乗れというジェスチャーをしていた。
どうやら俺が来るまで待機していたようだ。
俺が乗るとすぐに馬を走らせ始める。
道中会話はなく気まずかった。
ここが子爵様の屋敷か・・・デケェな。
王城には流石に負けてるけどかなり大きい屋敷だ。
門番に止められたがリエルさんの一言であっさり通された。
そのまま応接室へと案内される。
そこには小さな女の子がいた。
「リーシャ様。冒険者パーティ《勇気の恩寵》の皆様をお連れしました。」
促されソファーに腰掛ける。
それにしても・・・小さいな。
10歳くらいだろうか。
「えーっと・・・はじめましてリーシャ様。冒険者のユウと申します。」
挨拶をして頭を下げる。
しかし返事はない。
あれ?聞こえなかったのか? もう一度名を名乗るがやはり反応がない。
顔を上げると少女の目線の高さに自分の目線を合わすためにしゃがみこんでいた。
「あの・・・はじめ、まして。」
はっはー。なるほど人見知りか。それなら仕方ない。
そこから俺は緊急クエストの時の話をした。事細かくなるべく情景を思い浮かべやすいように話し
た。話終わる頃には心を開いてくれて笑顔を見せてくれるようになった。
それから色々な質問を受けた。
主に俺の仲間についてだったが。
最後の方は仲間自慢をするだけで終わってしまった気がするが楽しかったから良しとしよう。
そんなこんなで時間は過ぎていき夕方になってしまった。
「それではこの辺で終わりにしましょう。」
「はい!とても楽しい時間でした!」
元気よく答えてくれる。
「失礼します。子爵様がお呼びです。」
1番の難関だ・・・機嫌を損ねたら何されるか。
リエルさんに先導されて子爵様の部屋へと向かう。
「子爵様。リエルです。例の冒険者を連れてきました。」
中から入れという言葉が聞こえる。
扉が開かれ入るように言われる。
「失礼しま・・・す?」
部屋に入るとそこには見知らぬ女性が座っていた。
「は、はじめまして。冒険者のユウです。」
俺に続いてモニカたちが自己紹介をする。
「ふむ、話は聞いているぞ。ドラゴン討伐で大活躍したとか。」
「いえ、それほどでもありません。」
謙遜しながら答える。
「謙虚なのは良いことだ。だが事実としてお前はドラゴンを倒したんだろ?」
「いえ、トドメを刺したのは勇者様です。私は僭越ながら支援魔法をかけさせていただいただけで
す。」
子爵って言うから意地の悪そうなおっさんかと思ったらすげぇ豪快な女の人だった。
「ふむ。気に入ったぞ。確か君はE級だったな。」
「は、はい。」
「ドラゴン討伐での立役者がE級のままなのはいただけない。。冒険者協会に掛け合ってD級に上げ
てもらおう。」
「え!?」
「なんだ?不満か?」
「いえ・・・」
正直嬉しい。だけど素直に喜べない。他の人たちも頑張ってたのに俺だけズルしてるみたいだ。
「勇者を直接強化し、トドメに大きく貢献した。となればこれくらいは妥当であろう。お前のこれ
からの活躍期待しているぞ。」
「ありがとうございます。」
こうして俺は晴れてD級冒険者になった。
「今日はお疲れさまでした。」
「あぁ。うん。心労がやばかった。」帰り道馬車の中で思わず本音が漏れてしまう。
「確かにあの威圧感はすごかったわねぇ。」
「私も怖かってです。」
まるで獰猛なモンスターと密室で一対一をする時のような緊張感があった。
「でもこれで私たちも一人前ですね。」
「そうだなぁ。もうE級の初心者じゃないもんなぁ。」
見習い扱いのF級からランク上がってE級は駆け出しの初心者扱い。そしてD級になれば一人前の冒
険者として扱われる。C級は小さな町の主戦力扱い。B級は王国軍の一般兵レベルそしてA級は精鋭
中の精鋭。王国軍の上級兵に匹敵する。全冒険者の中でA級は2人しかいない。そして勇者のように
聖剣などの特殊な武器選ばれた者がなるS級がある。俺が目指すのはもちろんA級。でも1人じゃ意
味がない。パーティでA級を目指す。それが俺の夢だ。
「明日は何をしようかな。」
「また依頼受けましょうよ。」
「うーん・・・いや待てよ。そろそろ装備買い替えようと思ってたんだった。」
「そういえばユウさん防具つけてませんよね?」
「うん。大抵後衛で動き回ってるから重いと疲れるからね。元々遅い足がさらに遅くなるし。」
じゃあ明日は全員で買い物だな。