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第3話

震える私を鬼の子達は無理やり立たせ、社の中へと引き入れた。

社の中は目を覆う程眩しい空間が広がっていた。

ボロボロで隙間風だらけの壁や障子などもない。


「──来たか」


物珍しくてキョロキョロしていたら、御簾(みす)の中から声がかかった。


「天神様、連れてきた」

「ちょっと邪魔されたけど」

「お菓子ちょうだい」


私を連れてきた子供達は御簾の中に入っていき、手にお菓子を持って出てきた。

そして、そのまま何処かへ走って行ってしまった。


子供達が言っているのが確かなら、この中の人は天神様だ。


「──さて、玖々莉。君は何故ここに連れてこられたか分かる?」


子供たちが走り去った方を見ていると、後ろから声がかかった。


「……いえ、分かりません……」

「そうだろうね」


ジャラ……


御簾を上げて出てきたのは、煙管を咥えたとても綺麗な男の人だった。

艶っぽく人間離れしたその容姿は、これが神様なんだと思い知らされた。

優しく微笑んでいるが何故だろう、どことなく恐ろしさを感じる……


「君はね、私のお嫁さんに選ばれたんだよ?」


「嬉しいでしょ?」と微笑みながら言われたが、こちらとしたら青天の霹靂。

なぜなら、7歳の時にもう私は見限られたと思っていたから。


それに、嫁だと言われても「今更?」というのが率直な意見。


それなら7歳の時に引き取れば良かったんじゃないの?そうすれば、私はトト様から嫌われることも無かったし、私の中でのトト様は優しいままだった。

村の人達からも奇異の目で見られることも無かった。


そんな事を考えていたら、戸惑いよりも怒りの方が勝った。


「嬉しくありません」


天神様を睨みつけて、ハッキリと言ってやった。

天神様は一瞬蔑むような目をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「それは何故かな?」

「私は7歳の日に天神様へ挨拶に訪れましたが、見初められませんでしたよね?今更──」


ダンッ!!


話の途中なのに天神様は私を押し倒し、鋭い目つきで私を見ていた。


「……君は自分がどういう立場か分かっていないようだね」


先程とは打って変わって冷たい目に冷たい声で言われた。


()()()既に君は私の物になった。この日まで外の世界に置いて置いたのは、君がまだ幼なく親元を引き離すのは可哀想だと思ったから温情かけたつもりなんだけど?」


「まさか、それが裏目に出るとはね」と付け加えられた。


目の前のこの人は、何を言っているのだろう?

幼くて親元を離すのは可哀想?

いやいや、大ちゃんだって華ちゃんだって鈴ちゃんだって他の子達も7歳で幼いのに連れていかれたじゃない。


「……他の子は攫っておいてその言い草なの?」

「他?」

「大ちゃんも華ちゃんも鈴ちゃんも長屋にいた子達は7歳の誕生日を迎えた日、天神様の所から帰ってこなかった!!7歳になっても残ってたのは私だけ!!そのせいで私は奇異の目で見られ好きだったトト様に嫌われた!!」


「全部貴方のせいよ!!」と言いたい事を全て言い切った。

私もみんなと同じように7歳で連れて行ってくれれば良かったのに。そうすれば、こんな感情も持たなかった。大人しく天神様(貴方)のものになっていた。


「天神様は学問の神様なのに、たった一人を特別扱いしたらどうなるか分からなかったの?」


一気に捲し立てて言ってやると、天神様は怪訝な顔をしていた。


「……君は何を言っているのかな?私は君以外の子供に声をかけたことは無い」

「…………え?」


天神様から出てきた言葉は私が予想していたものとは違った。


「この屋敷にその子供達がいるかい?いないでしょう?私は君以外の人間には興味が無いからね」


確かにこの屋敷には子供の鬼はいるが、私の知った顔はいない。


「えっ……じゃあ、みんなは……」


どこに?


「……君はその子供の親から()()でいなくなったって教えられた?」

「えっ?天神様の所でって……」

「はぁぁ~……天神様()の所と言えば境内の中だと思いこむ人間の心理が分からない」


天神様は呆れたように言い切った。


「いいかい?君のいた長屋の人間は、境内横の細道から入ってくる。()()()()つまりは私の領域(テリトリー)外」


天神様はゆっくり分かるように説明してくれているのだろうけど、私には全く訳が分からない。


私の顔を見て「分かっていないようだね」と呟くくらいに呆然としていたんだと思う。


「『とうりゃんせ』という歌を知っているかい?」

「知ってます」

「その歌にあるだろ?『ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ』と」

「細道……」


そこで思い出した。

『我々のようなみすぼらしい者が正面から入るのは天神様に失礼だ。横の細道を使って境内に入るようにしよう』

それが長屋の者達()()()決まりだった。


7歳のあの日は綺麗に着飾った私を見て、両親が今日ぐらいは正面からでもいいだろうと、決まりを破って正面から入った。


「長屋の者らは細道を使ってここへやって来る。普段なら安全な道だ。()()ならな」

「それは……」

「歌にもあるだろ?『この子の七つの お祝いにお札を納めに まいります』これの意味がわかるか?」

「いえ……」

「7つ……七五三の誕生日にお祝いとしてお札を納める。これは、子を()()()。要は供物だね」


『供物』その言葉に驚いた。

そんな馬鹿なことは無い。大ちゃんのトトさんだって、華ちゃんのカカさんだって天神様に見初められたって喜んでいた。

供物の為に連れてきた訳じゃない。


「……君が言いたいことは分かるよ。確かに長屋の人間は供物のつもりで連れてきてはいない。けどね、それは人間が勝手に思ってる都合のいい妄想。現実は残酷なんだよ?」


蔑むような目で言われ、思わず息が止まるかと思った。

自然と身体が震えてくる。


「……み、みんなは……?」


震える声で聞いてみる。


「……あまり聞かない方がいいと思うよ?」


その一言で分かった。

みんなは……もうこの世にいない……

『供物』にされたから……


「……んで……」

「ん?」

「何で!?貴方は神様なんでしょ!?何でそんな酷いことを容認してるの!?そんなの神様失格じゃない!!」


私は天神様の胸ぐらを掴んで叫んでいた。


「神様でも出来ることと出来ないことがある。あそこの細道は鬼門と呼ばれる鬼の通り道なんだよ」

「え?」

「──少し昔話をしようか」

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