二十九話 ついに手に入れた自由
「ユースト。私、ティシィを倒したら外で暮らしていきたいの」
「リアンネも同じようなことを言っていましたね。分かりました。あなた様が望むならそうできるようにしましょう」
「ありがとうございます」
それからは一層能力の向上に努めた。
魔塔からティシィの動向がつかめたということで私たちはティシィをおびき出すための計画を練った。
決行の日、私の周りには聖騎士、騎士、魔法師の精鋭が揃った。
「今回、聖女様を守る者達です」
ユーストが言った。顔なじみの者ばかりでその顔を見ると少し安心した。
私は集中して、目を魔眼に変えた。
「では行きましょうか」
聖女をおとりとし、ティシィを魔法師、騎士、聖騎士が足止め、その隙を聖女が突くということになった。
「聖女よ。やっと会えたな」
黒魔法は聖女の力と反するものなので、私に黒魔法は効かなかった。だが、私はわざと捕まったふりをして相手が油断するように仕向けた。
そこを後ろから魔法師が動きを止め、そこを聖騎士、騎士が傷をつける。
ティシィは聖女の力でなければ倒せないので、その者達は只の足止めだ。
「聖女が居なければ何もできまい」
そう笑いながらティシィは言った。
私は聖女の力を使い、その隙を逃さず、ティシィを一撃で倒した。
その後は覚えていない。聖女の力の使い過ぎで体力が持たz、そのまま眠ってしまったのだ。
目を覚ますとそこは私の寝室で、隣にはリアンネが居た。
「ティシィは」
「消え去りました」
リアンネは安心したように笑って言った。
「どのくらい眠っていたの?」
「一か月程度です」
「随分眠っていたようね」
「そうですね。心配しました。もう目を覚まさないんじゃないかって」
「心配かけてごめんね。リアンネ」
私は泣いていたリアンネの手を握って言った。
それからは早かった。すぐにユーストが平民になれるように手配してくれた。司祭たちは寂しがっていたが、私は荷造りをして早々にユーストが用意してくれた家へ向かった。
一人暮らしとはいかず、聖女なので護衛はついていた。オベリア、フレンディ、スビアン、リベルタがついてきた。
「なぜあなたまでいるんです」
私はリベルタに向かって言った。
「選ばれただけです」
今までと立場が逆転したんだとこう言われると思う。
馬車に揺られること三十分、目的地の私の家へと着いた。
家は大きく、私好みの装飾だった。
私の家の他に家がもう一つあったが、こちらに来る前のユーストの話では護衛達が寝泊りする家だという。
「皆さんはここにどのくらい滞在するのですか?」
「引退するまでですかね」
「すみません」
「なぜ謝るのです?」
「あなた方の自由を奪ってしまうことになるからです」
「私たちはあなたの剣です」
嬉しくなると同時にこのままでいいのだろうかとも思った。
まず家に着いてやったことと言えば、結界を張ったことだ。指定した人物でなければ入れないようにした。
浮遊で周りに何があるのか調べたが特に何もなく、只森が広がっていた。
一応魔物結界も張り、用心した。
それからは自由に過ごした。畑を耕したり、町に行って買い物をしたり、とても楽しかった。騎士たちも魔法師たちも楽しそうにやってくれた。
その場所にも慣れてきた頃、森の中に入って浮遊した時に気になっていた丘に行った。
「リベルタ?」
後ろからの気配に私はそう聞く。
「はい」
当たりだ。気配からも誰か感じられるなんて、変態だな。
「あなた、なんであの日、あんなことしたの?」
「あの日とは」
「一年前よ」
「もう一年ですか」
少し悲しそうな顔をして言った。
「気持ちは変わらないですか?」
「もう少し時間を頂戴」
「はい」
「ねえ、リベルタ。このまま過ごしていたら、どこかで絶対一人になると思うの。私は人間ではなく、聖女という存在だから。だからね、できることなら人間になりたい」
聖女の寿命はざっと二百年程度。その時、きっと皆は居ない。
「あなたが聖女の契りをしてくれると言うのなら、ってそこまで私のこと」
「契りを結びましょう」
ここで言う聖約とは聖女を人間にするためにずっとその者を愛すと神に誓うことだ。
「契りを結んでもヘンリア様への気持ちは変わりません」
「ねえ、リベルタ。私の本当の名を呼んでください」
「イティシア様」
「……ありがとう」
丘から見える太陽はとても綺麗で、木々は太陽で黄色に輝いていた。
「綺麗ね」
「はい」
「そろそろ帰りましょうか。皆、心配しているだろうし」
私は立ち上がり、スカートについた草をはいた。
その日は畑仕事をしても集中できなかった。
「ヘンリア様?何か悩み事ですか?」
「へ」
オベリアが私に聞いた。だが、私は上の空で何を言ったのか聞き取れず変な声を出す。
「あ、リベルタのことですか?」
「なぜ、それを」
「ヘンリア様がそんな顔をするのはリベルタの前だけなので」
「そうですか?」
「お気づきではなかったのですね。ヘンリア様。ご自分の気持ちには正直になってくださいね」
オベリアが言った。