三話 主人公と友達になりました
「あ、イティシア様!」
リベルタは一つ上の学年だ。イティシアとは違って屋敷が近いため、家から通っている。
「あの、大丈夫なのですか?迎えに来てお時間などは」
「婚約者がいる者たちは一緒に入場する決まりなのです」
「そうなのですね」
確かに皆男女で歩いている。
「では、お嬢様。私はこれで」
使用人棟という棟があり、そこに使用人たちは住み込みで学院の仕事を手伝うらしい。
「はい」
「ふう」
「緊張しますか?」
「ええ」
こんなに大きい建物にたくさんの人は本当に緊張する。
「ではてを握っていましょうか?」
リベルタはぎゅっと手を握る。
何こんな子供に欲情しているんだ私。何歳は年が離れていると思っているんだ。
今の自分は九歳なのになぜか前世の法と前世の年齢を重ねてしまう。これじゃ犯罪だと考えてしまう。
でも、緊張が無くなり、安心する。
「お願いします」
「はい」
入学式会場に向かっている途中に視線を感じた。やっぱりこれはリベルタに向けての視線だよね。やっぱりモテるのかな。
入学式会場に着くと乙女ゲームで見た顔がちらほらいた。主人公に皇太子。騎士団長の息子に宰相の息子。それに獣人。悪役令嬢など。
って、やっぱりなんか豪華だよね。
「今年は豪華だね」
やっぱりこれが普通だよね。絶対豪華だよね。
「皇位継承者たちがたくさんいる」
え、そっち。確かに多いかも。皇太子セラストニと騎士団長の息子のディアストは従弟だ。それに、第二皇子もいる。
「ええ。そうですね」
入学式が終わり、リベルタとは離れ、一年生の教室へと向かった。
まずは人脈づくりが大事だと思い、私は隣の席の女の子に声をかけた。
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、私はエリアンネ・メンティアです」
「では、エリアンネ嬢とお呼びしても?」
「はい」
「私はイティシア・センストビアです。私のことはイティシアとお呼びください」
「では、イティシア嬢ですね」
「ええ」
まずは一人。でも、このエリアンネ嬢。どこかで聞いた名前。エリアンネ……エリアンネって主人公の名前じゃない。
エリアンネは入学当初、平民という理由で皆から居ない者扱いされてきた。そんなところを攻略キャラたちが助けて行くっていう話なんだけど。
エリアンネは男爵家の養子に入って貴族ってなったのよね。それで他の貴族からは嫌われているのよね。
私、仲良くなっていいのかな。まあいっか。
授業が始まる前になるとエリアンネ嬢を探した。
「エリアンネ嬢。横座ってもよろしくて」
「ええ」
少しおどおどしながらエリアンネが言う。
最初の授業は適正検査だった。
私は魔法を教えるリアナです。これからあなた方に適性検査をしてもらいます」
魔法の授業は外でやるため、予め、魔法をやるための服に着替えていた。私はエリアンネに一緒に行こうと誘い、外へと向かった。
「では番号順にやってもらうぞ」
次々に皆が披露している中、エリアンネだけ、ずば抜けた魔法を披露した。すべての魔法の適正ありという快挙で先生は興奮しているようだった。
ああ、納得した気がする。男爵がエリアンネを養子にしたの。
乙女ゲームではエリアンネが男爵の養子になった理由が書かれていなかった。エリアンネが男爵のところに来る前は孤児だったため、両親は居なかった。
男爵は強い魔法師を輩出する家系だ。だが、男爵には子供がいない。だから魔法に長けているエリアンネを養子にしたのだろう。
それから一層彼女と貴族たちとの間は広くなっていくばかりだった。
皆、イレギュラーを好まないのは同じなのだろう。すべての魔法を使えるということを先生は喜んでいたが、彼らにとっては平民が魔法を使えるなんてと思っているところだろう。
魔法が使えるのは貴族だけだ。そして平民の彼女は魔法を使える。それは貴族の血が平民と混ざったことを表す。その血を彼らは嫌っているのだ。
だが、そのすべてが貴族ではない。それに、そう思うのも仕方がない。周りの者にそう教えられてきたのだから。血などと思わない貴族は表立って行動できなかった。自分がエリアンネのようになるのを恐れたからだ。
私は周りの目などとどうでもよかった。彼女が今ここに存在していて悲しんでいる。それだけで十分で関わらないと考えていたが、こんな彼女を放っておけない。
「エリアンネ嬢。私とお友達になって下さらない?」
皆、こちらを見ているがそれを気にする必要はない。
「はい」
涙を流してエリアンネ嬢は言う。
「それほど嬉しかったのですか?」
「ええ」
私はエリアンネ嬢にハンカチを差し出した。
私が欲しい友達は薄っぺらい笑いをして相手の考えを読み取って話す友達ではない。本心で話し合える友達だ。エリアンネ嬢のような。
「私、ロマンス小説が一番好きなのです。エリアンネ嬢はどのジャンルが好きですか?」
「私もロマンス小説が一番好きです。私、王子様のような方のお嫁さんになるのが夢なんです。こんなの夢物語と言われるかもしれませんが」
何を言っているんだ。これから現実になるよと言いたい。本当に王子様とも結婚するかもしれない。
こうして私たちはロマンス小説を語り合う友達となったのであった。