一話 乙女ゲームのモブです
今、私は知らない屋敷にいて、知らない恰好で知らない顔だ。
この状況、つまり。
「転生!」
そう叫んだら廊下の方から足音が聞こえた。
「お嬢様!どうされましたか?」
この人は私の侍女のフェティアってなんで名前が分かるの?というか今この体に関することが頭に流れてくる。
私は平凡な伯爵家に生まれた娘だ。そして婚約者がいる。名はリベルタ・ルトリアル。公爵家の長男だ。平凡な伯爵家の娘がどうして公爵家の長男と婚約することになったのか。その理由は伯爵家と公爵家の仲が良かったからという理由らしい。
私は九歳の誕生日が来たばかりだ。そしてもうすぐ学院に行く。そしてその名はベルアバ学院。この名を思い出した途端、私は前世で遊んでいた乙女ゲームを思い出した。その乙女ゲームはベルアバ学院で繰り広げられる乙女ゲームだ。こういう転生したとき大体悪役令嬢に転生という小説をよく見るが、私が転生したのはどうやら乙女ゲームには名前も出てこないモブだった。乙女ゲームだけど結構危ない展開もあるから主要キャラに転生しなくてよかったと思っている。
そして、私には今大変なことが起ころうとしている。
「イティシア。リベルタ様が来てくださいましたよ」
お母様が呼んでくれるがどうにも気乗りがしない。リベルタは乙女ゲームの攻略キャラではないが、暴君キャラなのだ。何でもそれは婚約者のせいだとか。って、その婚約者が私なんですけどね。
「こんにちは。リベルタ様」
作法は体が覚えていたおかげで新たに学ぶ必要はなかった。良かった。作法とか絶対難しいだろうし。
「ええ、こんにちは」
今の段階では暴君という感じではない。ほわほわとした雰囲気だ。
「あ」
猫だ。猫!私が大好きな。そう思ったら体が自然に動いていて、私の手は猫を捕えていた。
「すみません」
私は恥ずかしくて顔を真っ赤にして言った。
「そういう一面もあるんですね」
リベルタは笑って言う。少し堅い感じだったので和んでよかった。
「やっと本心で笑ってくれた」
「え」
「そりゃあ、ずっと営業で笑っているみたいな笑い方をされたら心配になるじゃないですか」
リベルタはぽかんとした顔をしている。
「すみません」
相手は公爵家だ。私は無礼をしてはいけない立場だと気づき、私はリベルタに向けて謝った。
「あなたが謝る必要はありません。私の態度が無礼でした。謝るのはこちらの方です」
「リベルタ様、下の者に頭を下げてはいけません」
私は上司が頭を下げるところ何て見たくないし。
「許して下さるんですか?」
「許すも何も別に怒っていませんし」
私は笑って流す。そういえばこうやって笑えたのはいつぶりだろう。本当に久しぶりだ。
「ええ、そうですね」
話しているうちに一気に距離が縮まった気がする。
「この婚約はね、親たちが決めたものです」
「ええ」
「だから僕あまり気乗りしなくて。何で親が決めた人と結婚しなくちゃいけないんだろって。でも、婚約者があなたでよかったです。これから楽しくなりそうですから」
「私もリベルタ様が婚約者でよかったです。とっても怖い人だったら私こうやって笑えてなかったと思いますから」
風が吹いたときにふと思った。家族はどうしているだろう。私が居なくなったことどう思っているだろう。
「イティシア様。どうされましたか?」
「いえ、何でもないです」
きっと転生したって言っても信じてもらえない。頭が狂ったと思われるだろう。でも、子供なら夢とごっちゃになったと片付けられるかもしれない。
「リベルタ様は転生って信じますか?」
「星の旅人のことですか?」
「星の旅人って何ですか?」
乙女ゲームにはそんなの出てこなかった。
「星の旅人は異世界から転生、もしくは転移して来た者たちの総称です」
ここには異世界から来た人もいるのかな。日本から来た人も。
「それです。私が星の旅人だったらどうしますか?」
「まずは神殿に報告しなきゃですね」
「いえ、そういうわけではなく……今まで通り接してくれますか?」
「ええ」
リベルタには言ってもいいのではないかと思った。
「リベルタ様。私は転生者です。そして、この世界のことも知ってます」
「え?」
少し間が開いた後、リベルタは事態を理解して私のことを何度見もしていた。
「つまり、イティシア様は星の旅人でもあり預言者ということですか?」
「預言者?」
「この世界のことについて知っている者たちのことですよ」
「あ、でも一部のことしか知らないですよ」
「それでも十分凄いです!何か話してくださいませんか?」
リベルタは思った以上にこの話題に食いついていた。私が何か話す度に反応してくれるのが可愛くてふふっと笑ってしまった。
「あ、もうこんな時間ですね。ではこれで失礼します」
リベルタ様は簡単なお辞儀をすると護衛と一緒に馬車へと行った。
「リベルタ様とのお茶会は楽しかった?」
「ええ、とっても」
不思議とお母様とお父様のことはちゃんとお母様とお父様として見られた。なんだか二人の両親がいるのが変な感じだ。
「そう、ならよかったよ」
優しそうな顔をする二人に幸せをふと感じた。そして、ここはゲームの世界なのかそれとも違う世界なのかを考えた。
次の日、私が目を覚まして用意を済ませると侍女にお客様が来ていると伝えがあった。
さっそく私はお客様を待たせている部屋へと向かった。
「こんにちは。イティシア様ですか?」
「はい」
「あの、どちら様ですか?」
「ああ、まだ名前を言っていませんでしたね。私は神殿から来たユーストといいます」