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episode.02 #挨拶



流石は王子。顔パスでスムーズに王宮に入れた。


一緒について歩いているエルザは奇妙な覆面を付けているせいか、それとも王子に荷物持ちなどさせているせいか、かなりギョッとした目で見られた。


おそらく両方の理由だろうが。


肩身の狭いエルザはなんとか荷物を取り返せないかとアルノルトに声をかけた。


「あのぉ、アルノルト様…」


「アルで良いって」


「いや、そういう訳には……」


「アール、ほら言ってみて」


「……………アル、様」


「うん、何?」


王子スマイルこわぁ…。この顔で世の女性たちをイチコロにしてきましたと顔面が語っている。


「荷物、ホントに自分で持てます」


「気にしないで」


気にするわボケナスー!


結局、国王陛下を前にしてもエルザは自分の荷物を取り返す事が出来なかった。


「よくぞ来てくれた、魔獣師よ。名をエルザと言ったな」


「はい」


一旦荷物の事は忘れて、エルザは頭を下げる事にした。


「クリストフより、優秀な人材だと報告を受けておる。期待しているぞ」


「はい、ご期待に添えるよう善処致します」


「…はい。では仕事の話しはおしまいネ。それで、魔獣は連れてきているんだよネ?」


「…え?」


国王はたった二言の挨拶の後、人が変わったようだった。


折角ダンディーな面持ちなのに、口調はまるでオネェ…。


周りの使用人も途端にガックリと肩を落としていた。


魔獣が好きだという時点で物好きだとは思っていたが、やはり根っからの変人か。


そういえば手紙の雰囲気も確かこんな感じだった。


「1匹、保護区に…」


連れてきてますけど、と言うエルザの声は言葉にならず、国王の花々しいオーラに飲み込まれた。


本当に花が咲いて見えるのだから不思議だ。


「後で見に行ってもいいカナ?私は魔獣が大好きでネ、あのフォルムとかかっこいいよネ〜!」


ネー!と言われても…。


戸惑うエルザに助け舟を出してくれたのは未だ荷物を持ち続けているアルだった。


「持ちます」と言う使用人を数人断っているのをエルザは横目で見ていた。


荷物持ちが好きなのか?


やはり変人からは変人が産まれると言うことか?


「父上、エルザも疲れているでしょうからその話しはまた後日で。僕が部屋に案内しておきます」


誰のせいで疲れてると思ってんねん、と口にしなかった自分を褒めたい。


兄や村長が相手なら確実に喋っていた。


「おお、そうだな、では後日。部屋は別館に用意してある。案内はお前に任せよう」


アルは満足そうに笑っていた。


その場にいた数人のメイド達がその表情に見惚れているようだったが、エルザだけは「まだこの変人王子と一緒に居なければいけないか」と肩を落とした。


陛下と別れてこれからしばらく寝泊まりする部屋に案内してもらう道中、拗ねたような口調で先に口を開いたのはアルだった。


「君、僕の顔タイプじゃない?」


「整った顔立ちだな、とは思います」


「そっかー…それは残念だな」


「………」


私は何も言っていないからな。それに、さほど残念とも思っていないような態度だ。


「失礼を承知で申し上げると、世の中の全ての女性があなたに一目惚れするとは限らないと思います」


「それは分かっているけど、僕が唯一そうであって欲しいと願った人がそうじゃ無かったからショックを受けてるんだよ」


「…あの、助けた事を恩に思って結婚だなんて言っているなら、そんな事は気にしなくて良いですよ。それが仕事なので」


言われてみると確かに2年前、王都で起きた魔獣被害の対応をしていたエルザは、最後まで都民の避難を行なっていた為に逃げ遅れていた青年を馬から自分の乗る調教した魔獣に引き上げて助けていた。


結果、乗っていた馬を見殺しにする形になったのを覚えていたので思い出す事ができた。


「そんなんじゃないよ。あの時の君は、凄くかっこよかったから」


「それは恋ではなく憧れとかじゃないですか?」


魔獣師に憧れるなんて随分珍しいが、魔獣大好きな国王の元で育ったのであればあり得なくはない。


「きっかけはそうかもしれないけど、憧れて好きになる事だってあるよ」


僕みたいにね、と言うアルの言葉はどうも現実味が無い。


なんと言っても、あの時エルザはアルに顔を見られていない。その証拠にアルがエルザをエルザと判断したのは仮面の模様だった。


顔も知らない相手に恋だなんて、あり得るのだろうか。


「はい、ここだよ」


渡り廊下を渡った先がエルザに部屋が用意されているという別館だった。


エルザ用の部屋の他にいくつか部屋がある。


「従業員用ですか?」


「まあ、そんなところ。側近とかメイド長とか、割と重役のね。」


へぇ、と呑気にも思っていたエルザは次の瞬間に目を疑った。


「……………広い」


「好きに使って。基本的に食事は各自、食材は定期的に配送が来る事になってる。ま、父上の呼び出しがあるかもしれないけれどね」


言葉通り、住む所と食べるものには困らなそうだった。


あっけに取られていると、アルの視線が自分に向けられている事に気づいた。


「仮面、取らないの?」


「人前では」


どの口が言ってんだ!と自分に突っこみたかった。アルには顔を見られると言う失態を既に犯している。


「僕はもう、君の素顔を知っているのに?」


ほら見たことか。まあ、そう言うわな。


「忘れてください。」


「2年、恋焦がれた相手の顔を忘れろって言うの?」


そっと仮面に触れるアルの手の温度が高い事は、エルザには伝わらない。


だが、そんな悲しそうな目で見られると、こちらが悪い事を言っているような気になってくる。


「あなたは国の王子なのですから、決められた相手がいるのでは?」


一国を担う立場にあれば、婚姻でさえ政治が絡むだろうに。


「いないよ?僕、3番目だし」


「……………」


エルザは逃げ道を断たれたような、そんな気がした。





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