表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幼馴染とか、約束とか

作者: 坂口もぐら



「ゆーくん、荷物ここ置いて」


比奈の支持でオレは両手のレジ袋を台所の片隅に下ろした。

右手が5キロのあきたこまち、左手は卵やら野菜やらお肉やら。

スーパーで比奈が買い込んだ一週間分の食材だ。


「これオレがいなかったら運べなかったんじゃないか」

「だから、ゆーくんいるから買い込んだだよ」

「おい」


比奈は昔オレの家の隣に住んでいた4つ年下の、まぁ幼馴染だ。

母親同士の仲良かったことから割りと親しくしていた。

5年前に親の仕事の都合で一度この町を離れていた彼女だが、この春に戻ってきた。

両親はあと半年ほど向こうに残る必要があるらしく、

それまで仮住まいのマンションから高校に通うことになったらしい。


「で、なんでわざわざメールしてまで荷物もち?」

「え?男手必要なときはすぐに呼べっていったのゆーくんじゃん」

「いや言ったけど・・・」


へんな虫が付かないように。

オレがダイニングの椅子に腰を下ろすと、比奈が冷たい麦茶を出してくれた。


「まぁまぁ、おいしいカレー作るから待ってて」

「ああ」


買ってきたものを冷蔵庫に片付けながらそういうと、

そのまま流しで買ってきたじゃがいもを洗い始めた。

出された麦茶を飲みながらオレはその背中を眺めていた。

すっかり変わったなと思う。

成長期なのだからあたり前だ。

身長も伸びたし、髪も長くなってキレイになった。

それに胸も・・・エプロンを押し上げるふくらみが不意にこちらを向いた。

オレは慌てて手元のスマホに視線を落とす。

ニュースアプリを眺めつつその実まったく頭に入ってこない。

換気扇の回る音と、トントンと小気味よく野菜を切る包丁の音

それに比奈の鼻歌を心地よく感じていた。


***


「はらすいたなー」

「ごめんなさいってば~」


1時間半後、オレたちは空腹だった。

炊飯器のスイッチを入れ忘れるという定番の失敗をやらかしたせいだ。

カレーが鍋の中で泣いている。

臨戦態勢だった胃袋にクッキーと紅茶を流し込みごまかしていると

比奈がもじもじと落ち着かない様子でボソリと呟いた。


「あのね、ゆーくんに聞きたいことあるんだけど」

「なに?」

「・・・・・・・・約束のことなんだけど。覚えてる?」


うつむく彼女の目元は前髪に隠れ見えないが、頬が赤く染まっている。

オレの脳裏に古い記憶がよみがえる。


(おーきくなったら、ゆーくんのおよめさんになってあげる!)


自分によく懐いてくれた隣の家の小さな女の子との約束。

それはたぶん「およめさん」への憧れから出た言葉。

いずれ比奈の思い出にも残ることはなく消えてしまうんだろうと思っていた。

期待してはいけないと。

でも、比奈はそれを大事に想い続けてくれた。

それがとてもうれしかった。


「もちろん、忘れたりしないよ」

「ほんと?」

「ああっ」


顔を上げた比奈子がうれしそうに微笑む。

あまりに可愛くて、昔のように頭をなでる。


「良かった・・・準備もできてるんだよ」


・・・準備?

疑問に思っていると、比奈はオレの手を引いて扉の先、比奈の寝室へ連れて行く。

たくさん並んだぬいぐるみ、机、本棚、ベッド・・・

心の準備、そうか・・・

オレは強くなりすぎないように比奈を抱きしめる。


「ゆーくん?んっっ!」


顔を上げた比奈と唇を重ね、そっとベッドに押し倒す。


「ボクも比奈にことずっと好きだったよ」

「へっ?」

「比奈はまだ15だし早いと思ってたけど、比奈が望んでくれるなら・・・」


オレはブラウスの上から比奈の胸に触れる。

着やせするタイプなのか手のひらに想像以上の量感が伝わる。

胸を揉まれて、顔を真っ赤にする比奈。かわいい。


「はわわ・・・」

「結婚とか後のことはこれからゆっくり決めていこう」

「ふぇ?けっこんっ!?」

「・・・」


何かかみ合ってない気がする。すごく。

しばし見つめ合い、膠着状態だったが、不意に比奈が何かに気づいた様子で声を漏らす。


「あっ・・・そっち」

「なに?」


ばつが悪そうに比奈が思いっきり視線を逸らす。

それからにへらと作り笑顔を見せたあと、何か覚悟したように眼を閉じた。


「どうぞ」

「?」


オレは不信におもいつつも、お許しが出たようなので愛撫を再開しようとしたとき、

ピーーーーーッ!

炊飯器の電子音が鳴り響いた。

呼応するようにオレの腹の虫がぐるるるるっと唸りを上げた。


「・・・ご飯のあとにしよっか」

「お、おお」


ご飯とお風呂のあとにした。


***


「わぁ──────ん!やっぱりこの子かわいいっ!!」


翌日、オレは再び比奈の家に訪れていた。

クマともネコともつかないへんてこなキャラクターのぬいぐるみを携えて。

それは今の比奈でもなんとか抱えることができるサイズで

昔の比奈なら回した手が届かないだろうというほど巨大なものだ。

けっこうな値段の代物だが、彼女が引越しをする少し前、

次の誕生日にプレゼントすると約束させられたものだ。


「郵送してくれるんじゃないかって楽しみにしてたのに」

「引越し先住所聞いてなかったんだ」


予約購入していたのだが、贈る相手がいなくなり納戸に押し込んだまますっかり忘れていた。

住所は母に聞けば、分かったかも知れないが期待されているとは思ってなかった。

なにはともあれ捨てずにおいて良かったが。

比奈は抱いていたぬいぐるみをおもむろにチェストの上に載せる。


「うん、やっぱりここがシックリくるわ」


”準備”しておいた居場所に彼を置きご満悦の様子。

が、再び抱き上げるとベッドの上でうれしそうにごろごろ転げまわる。

まるで小学生の頃に比奈を見ているような気分だった。


「昨日はあんなに大人っぽく見えたのに」

「えー、ゆーくんだって昨日は・・・、ぷぷでも早とちりのところは昔と一緒だね」

「それをいーなーっ!」


すごくまずい弱みを握られた気がする。

これ一生言われ続けるかも知れない。



おしまい。






「幼馴染」と「再会」と「約束」、ラブコメものの定番ネタ。ほんの少しひねりを入れましたが。えっちシーンはばっさり割愛。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ