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ロスト・ワンズ-異世界の王と人類最強の守護者-  作者: 皐月零御
1章:脅威の再来
3/7

3話

「それで、暴動はどうやって収束されたんだ?一部の報道機関では一般人に魔法が使用されたとされているが?」

「何だとぉ!それはあり得んだろ!スクープ目当ての記者が書いたデマだ!」

「ふむふむ。そうやって怒鳴っているってことは、事実のようだな」

「はぁ?何言ってんだテメェ!」


 リーンに標準搭載されている自動翻訳機能により、彼らの声は日本語に翻訳されていく。


 アメリカ、ニューヨークにある国際魔獣対策連合《UBN》の大会議室では魔獣を討伐する守護者ガーディアンと呼ばれる者たちが集まり、とある会議が行われていた。


 円卓に座る彼らは、国を代表するほど力を持つ守護者ばかり。


 しかし、彼らの殆どがホログラムで実体を持たない。実際にこの場に来ているのは極少数だ。ここに来るまでの交通費は支給されるが、自分の居ない間に自国で万が一があった時の対処に困るというのが実情だろう。


「……そんなどうでもいい話は止めないか!」


 議長である日本代表の名賀なが古都美ことみは論点のズレに苦言を呈した。


 実際にこの場に来ている彼女は、【東洋の魔女】と恐れられるほどの実力を持つ。


 見た目は中学生ながらもれっきとした大人だ。しかも、ベツレムという魔獣討伐を目的とする民間組織を率いている。


 古都美は、これだから会議は嫌いだと心の中で呟く。長々と意味のない討論を重ねる時間が勿体ない。


 さらに古都美を苛立たせているのは、議長という役職だった。


 当初は公平性を保つため、会議を開くたびに議長を変更するという決まりだったのだが、なぜか古都美がいつも議長をやることになっていた。


 地獄とはまさにこのことだと、つくづく感じている。


「いいか?そんな世論の動向なんて、私たち守護者が管理できることじゃない。政治家にでもやらせろ!」


 今日は特に機嫌が悪い。なぜなら、【終わりの始まり】以来の大惨事が起こってしまったからだ。自然と左腕に力が入る。あれから何年も経っているのに、完治していない傷跡が疼くのだ。


「事の重大さに気づいていない馬鹿のために、もう一度説明する」


 先程の騒いでいた2人を軽く睨んでため息を吐いた。あの2人は会議の度に喧嘩をしている。両国は国交が上手くいっておらず政治の世界でも仲が悪いことは有名だった。政治は極力持ち込まないというこの会議においてもこのざまだ。


 会議を円滑に進めるためにも2人を出禁にしてやりたい。


「先日、フランスで巨大な魔獣の出現を確認した。脅威度は巨人級クラス・ジャイアント。最高級である壊滅級クラス・デストロイの一歩手前だ。前回巨人級が確認されたのは5年前にアルプス山脈付近。……その前は【終わりの始まり】の時で――《《世界中》》、だ」


 円卓の面々にようやく険しい雰囲気が流れる。


――ここまで説明しないと状況が分からない阿呆どもめ!


 この円卓に座る者の殆どがこの世に生まれる前――今からおよそ50年前――に起きた災厄、【終わりの始まり】。それが起こった時期には世界人口がおよそ3割も減ったと言われている。また、人が減っただけでなく数多くの土地も失った。


「セルジュ=ロベール、例の巨人級について詳しく説明してくれ」


 フランスの代表であるセルジュは、古都美の中で爽やかな好青年のイメージが強い。癖の強い円卓の中では随一の常識人だ。


「了解です古都美。確認された魔獣ですが、場所はマルセイユの沖合。大きさは巨人級の名にふさわしい100mは超えているのでは、と予想されています」

「『予想されます』って、そんなデカいなら大きさぐらい計れンだろ」


 金髪の黒いサングラスを掛けたアメリカの代表、ウォーカー・ベリーが尋ねる。


「沖合、と言いました」

「……なるほど。ソイツは泳いでるし水中だし測れねえってわけだな」

「その通りです。運悪く魔獣の近くを通った漁船がいくつかあり、死者3名、負傷者1名の被害がでました」

「巨人級のわりに最低限の被害ってトコだな」

「確かに、政府の発表でも最低限の被害と言っていました。――しかし……」

「気持ちは分かるぜ、兄ちゃん。どうして守護者の俺が彼らを助けられなかったのかってな」

「…………」

「でもよぉ、過ぎたことはどうしようもねぇ。過去は変えられねぇんだよ。兄ちゃんはまだ若い。先のことを考えな」

「…………はい。ありがとうございます」

「まっ、気にすんな」


 ウォーカーがにっ、と笑顔を作る。それにつられてセルジュも笑顔になった。古都美はそれを見て「相変わらず胡散臭い野郎だな」と小声で呟く。


 ウォーカーは一瞬、彼女に視線を送ったように見えたが、サングラスのせいで良くは分からなかった。


「ったく、どーして雰囲気を湿らせるんだか……。さて、これ以上の犠牲者を出さないために、この会議が存在するんだ」


 古都美は机をドン!と叩いて立ち上がる。


「国が違えども、世界の危機。この事態にUBNからの派遣部隊をフランスに送ろうと思う。相手は巨人級、精鋭が集うことを期待する」


 古都美は円卓の面々をゆっくりと見渡してから大声で叫んだ。


「――派遣を了承できる国の挙手を求める!」


     *


「――んんんんんんんんんぐがあああああああああぁぁぁああああっ!!!!!!!!!しっねええええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 各国の代表者たちが円卓の間から全員退出してから数分後、古都美は叫びながら思い切り扉を開けて出て来た。


 古都美の秘書である大田原おおたわらあやは思わず耳を塞いだ。辺りの警備員も驚いて耳を塞いでいる。


「しっ、静かにしてください!……落ち着いてください、学園長!」

「あああ、イライラする!」

「どうなされたんですか?」

「……簡単に言うと、私が鬼ごっこをしようと友達を誘う」

「あの、それって――」

「とりあえず話を聞けって。それで、鬼を誰にしようかって話になるじゃん。そしたら『おまえがやろうって言ったんだから、おまえが鬼やれよ』ってみんなに言われたんだ」

「………まぁ、何となく、分かったような」

「いいさぁー、別にぃ。私の苦労なんてぇ、おまえには分からないよぉー」

「あなたって人は、すぐにそうやって拗ねるんですから」


 古都美は「拗ねてねぇし!」と口を尖らせると、施設の出口に向かって歩き始めた。


 大田原は眼鏡のフレームを持ち上げてから彼女の後に続く。


「それでー、この後の予定は?」

「2時間後に帰国の便が出るので、それまでの予定は特にありません。しかし先程、邦衛から話がしたいとの連絡が入っています。どういたしますか?」

「どうせ例の件だろう。結果は来ているから話でもするか」

「了解です。――では、電話を繋ぎます」


     *


 邦衛たちは部屋に入ったものの、そこには学園長の姿はなかった。どうやら出張中らしい。古都美に電話をしても出なかったので、秘書の大田原に電話をするとUBNの会議中とのことだった。仕方が無いのでここでしばらく待っていることにした。


 しばらくすると、リーンが軽快なリズムを奏でた。メールを知らせる着信音だ。


「ユージ、メールが届きましたよ」

「見せてくれ」

「了解っ!」


 リーンを取り出すと、ディスプレイにはすでにメールの文面が表示されていた。


『学園長の了承が取れました。今からそちらと電話を繋ぎます』


 邦衛はリーンをしまうと学園長の椅子に視線を向けた。そこには、いつの間にか学園長である古都美が座っていた。もちろん、本物の古都美ではない。ホログラムで作られた実体のない姿だ。


『やあ、ユージ。久しぶりだな』

「久しぶりです、古都美さん」

『学園長と呼べ』

「学園長の仕事をさぼっているあなたが学園長ですか」

『うるせえな!ベツレムとしての仕事の方が色々と忙しいんだよ!……それで、どんな要件なんだ?』

「……僕の聞きたいこと、わかってますよね?」

『……千代女ちよめ先生だろ』

「はい」


 千代女は、邦衛と古都美の師匠と言える存在だ。


 【終わりの始まり】に出現した魔獣を、たった1人で倒した少女は実在していた。


 しかし、ベツレムを率いていた彼女は、彼女は5年前に突然失踪。特に親しい関係だった邦衛は、彼女のことを探すために世界を飛び回っていた。

 

 そんなことをして3年が経ったある日、古都美は邦衛を呼び戻して三嶺学園に入学させた。もちろん邦衛は拒否したが、ベツレムが千代女を捜索することで合意。

 

 時は過ぎて、はや2年。邦衛は今まで千代女の捜査報告を待っていたのだ。結果は何となくわかっている。


『千代女先生が姿を消してから、もう5年が経った。どうやって探しても見つからない。残念だが、報告できることは何もない』

「……そうですか」

『手がかりも一切――いや、何か知っている人物がいるな』

「ラル、ですか」

「お呼びですか?」


 邦衛のリーンに搭載された人工知能、ラルヴァンダード。彼女は千代女が作り上げた人工知能なのだ。


 千代女が失踪する少し前、「人工知能を作ったから、あげるね」と言われて、リーンにデータを保存した。


「何回も聞いたけど、ラルは師匠がどこに行ったのか知らないんだよな?」

「はい。マスターからは何も聞かされていません。何かあったとすれば、マスターが居なくなってから、命令受諾の最優先順位はマスターからユージになっています」

『そうなると、やはりアイツしかないな』


 古都美は腕を組んで目を伏せた。


「アイツって誰ですか?」

『それじゃあここで問題だ!』


 突然声を高くして邦衛を指差した。


「は?」

『魔獣は世界各国どんな場所にでも現れる危険性がある。しかし、例外が一か所だけある。それはどこでしょうか?』

「あの――」

『はーい!時間切れ!正解は私が創立させた三嶺学園でした!』


 そこまで言うと、古都美の声のトーンは元に戻った。


『……ここに魔獣が出現するこは100%ありえない』

「ちょっと待ってください!それはおかしい。そんなことが出来たら世界中に――」

『ユージの言う通りだが、実際にはそんな都合よく事は運ばないんだよなぁ。……アイベム・イオ・シーンって名前に聞き覚えはあるか?』

「どこかで聞いたことがあるような、無いような……」


 脳内の記憶を辿っていくもどこで聞いたのかはよく分からない。ただ、絶対にどこかで聞いたことがあるという自信はあった。


『このドアホ!同じ部隊の所属なんだから覚えておけ!』

「……ああ、そういえばそうでしたね。でも仕方が無いですよね?一回も会ったことが無いんだから」


 邦衛はベツレムに所属する守護者で、零部隊という部隊に配属されている。特殊零は少数精鋭の部隊で、邦衛を含め5人で成り立っていた。しかし、実質的に活動していたのは4人。


 そのために零部隊は4人だと認知して、名前だけのアイベムに関しては邦衛の中ですっかりと忘れていたのだ。


「それでアイベムってやつがどうしたんです?」

『彼女なら先生の居場所を知っているかもしれない』


 その言葉に邦衛は学園長の机に迫った。


「彼女は今どこに!?」

『分からない』

「なぜです?と言うかそもそも、どうして彼女は零部隊に顔を出さないんですか?」

『それは――』


 そこで古都美の口は動きを止めた。それと同時に古都美のホログラムが乱れ始め、ぶつりと光が消えてしまった。


 どうしたのだろうかと思い、古都美に電話をしてみるが応答は無い。大田原も繋がらない。


「なんだか嫌な予感がするな。ラル、ボスたちに何かあったのか調べられるか?」

「了解です!」


 自分でも何か情報は無いかベツレムのアメリカ支部に連絡するも、状況を掴めない。しばらくして、ラルが情報を入手したようだ。


「今入った情報なんですけど、ニューヨークのUBN本部で何かが起きたみたいです」

「何かってなんだ?」

「情報が錯綜していて詳しいことはまだ分かりませんが、何かが起こったことは事実です。それと、周辺で電波障害が起きているようなんです。連絡が取れないのはそのせいかもしれません」

「……生徒会長と連絡を取ってくれ。ボスと大田原さんの安否が確認できるまでベツレムの指揮を彼女に任せよう」

「お任せくださいっ!」


 邦衛は大急ぎで学園長室を後にした。

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