森の外へ
とある館にて。
「…っ、これは…!?」
「どうかされましたか?」
「…魔眼が…発現しおった」
「なっ!?…確かに潰したはず…」
「私にも分からんが、何かがあの呪いを消したんじゃろうな…」
「いったい、何が…」
「まあ、不幸中の幸いというべきか、まだステージ1の状態のようじゃ。しかし、何が起きるか分からんから、いつでも動けるように準備しておけ」
「はっ」
*—*—*—*—*
魔眼の能力を確認した日の夜。
僕は、久々にベッドで眠っていた。
いつも通り寝床を二人で探していたところ、エレノアが「完全再現でベッドを作ることはできないの?」と言った。
言われてみれば確かにそうだ。
というわけで、二人分のベッドを作り、僕は早々に片方のベッドに入ったのだが…なぜかエレノアが僕の方のベッドに入ってきた。
「えっと…エリーの分のベッドは向こうにあるんだけど…」
「え?別にいいじゃない、こっちで寝ても。ダメなの?」
「いや、二人だとこのベッドは狭すぎるし、何より色々な観点から見てそれはまずい」
「え〜、やだ〜クロードが隣にいないと眠れないぃ〜」
「落ち着け、ってかそんなキャラじゃないでしょ」
「でも真面目な話、精霊魔法は精霊との繋がりの深さが強さに大きく影響するわ。深ければ深いほどいいのよ。」
「それは知らなかった…」
「そう、一番いいのは粘膜接触ね」
そういうものだったのか…。
………。
…今、なんて?
「えっと、聞き間違いかな?粘膜接触?」
「そ。簡単に言えば◯◯◯よ」
「簡単に言わなくてもいい!」
「別に今日これからでも…」
「…そんな真っ赤な顔で言われても…」
………。
そんなわけで、流石にそっちの方はしなかったけど、寝る前にキスだけして、今日は寝ることにした。
…隣にエレノアを置いて。
*—*—*—*—*
翌日。
朝起きて、いつも通り取ってあった食糧を出し、朝ごはんを食べていると、
「それで、いつ街の方に行くの?」
開口一番、エレノアがそう言った。
「どうした、いきなり?」
「え?いや、クロードってもともとは街の方に住んでいたんじゃないの?っていうか、そもそもなんでこの森に?」
なんできたか。
…辛い思い出が思い起こされた。
しかし、なぜだろう。
「…まあ、言いたくないなら無理にとは…」
「…きいて、くれるか?」
エレノアには話したいと思った。
僕は、家のこと、追い出された経緯、出会うまでの森での生活、全てをエレノアに話した。
「そっか、そんなことが…。…嫌なこと思い出させて悪かったわね」
「…いや、こちらこそごめん…」
沈黙。
「それで、いつ街に行くの?」
………。
「どうしたらその流れになるのか…」
「だって、もう森での生活は飽きたの。人間の街ってのも興味あるし、ね?私のためだと思って」
「エリーのためって言ってもなぁ…」
「それに、魔法が使えるなら何の問題もないでしょう?何も家に戻る必要はないわけだし、なんとでもなるわ。……多分」
「なんてめちゃくちゃな…」
…でも確かに、この先ずっと森の中で過ごすのは嫌だし、いつか森を出たいとは思っていた。
もしかすると、いい機会なのかもしれない。
「…わかった。行こう、街へ」
*—*—*—*—*
その次の日の早朝。
僕とエレノアは、森の外、丘の上に立っていた。
「…こんなところにいたんだな、僕は」
近くに見える街は王都から少し離れたラクズという街。
魔眼のお陰で、離れたこの丘の上からでも人々の様子まで細かに見える。
…この半年で、僕も変わった。
背も前よりは伸びたし、髪の毛も長くなり、ストレスからか一部は白くなっていた。
そして、今はエレノアがいる。
「…ありがとな」
「へ?なんて?」
「…なんでもない」
気恥ずかしさを隠しながら、森の外に連れ出してくれた礼を小さく言い、さっさと歩き始めた。
二年ぶりの街。
目指すのは、ラクズ。
ここからようやく、少年の物語が、幕を開ける。
もうすでに毎日更新が危うい…。