契約、そして
「ねぇ、あなたその目…」
突然聞こえた声に驚いて、僕は弾かれるように振り返った。
しかしそこには誰もいない。
辺りを見回すと、近くの木の枝に少女が座っているのが少し見えた。
その少女は、僕が見ていることに気がつくと、枝から飛び降りてこちらへ歩いてきた。
「…この目がどうかしたの?」
「うん、それって魔封じの呪いでしょう?」
「魔封じの…呪い?」
全く聞いたことがない。
「それってどういう…?」
「魔封じの呪いは名前の通り、魔力を封じる、いや、封じ込めるといった方が正しいのかな。魔力が体から全く放出されなくなる、しかも体の魔力許容量をどんどん狭めていく呪いだよ。あなた随分前から呪いにかかっているようだけど…」
「もうどのくらい経ったのかわからないな」
「その状態だと、軽く二年くらいはその状態だったんじゃない?」
「…そんなにか。それで、僕は後どれくらい持つんだ?」
「この状態でも魔力の供給がノンストップで続けられている…しかもかなりの純度で。これじゃあ…あと持って一週間ってところでしょうね」
ノンストップで魔力がで続けているのは知らなかった。
「……そうか。ありがとう」
そう言って、僕はその場から立ち去ろうと少女に背を向けた。
しかし、
「でも、その目を治せれば普通以上に長生きできるでしょうね」
そう言われて、僕は振り向かざるを得なかった。
なんだかんだあっても僕は結局人間で、生に縋り付く生き物なのだ。
「この目を治すだって?そんなことが可能なのか?」
「私ならできる」
「…方法を聞かせてもらおうか」
「方法は簡単。私と契約する。それだけ」
「……そんなことで治るのか?」
「そこは私を信じて」
「出会って一時間も立たない少女を信じろと言われてもなぁ…」
「………」
「…分かった、じゃあお願いするよ」
「…いいの?」
「ああ、どうせこのままでいてもそのうち死ぬんだろう?だったら賭けてやろうじゃないか。それで、契約ってどうするんだ?」
「…方法は簡単。…………」
「…ん?どうした?方法を教えてくれ」
「…それは……その………」
「……?」
「私と……………キ………キ、キス………するだけ………」
………。
顔を真っ赤にして俯く少女。
「…お前って案外初心なのな」
「しょ、しょうがないでしょ!?というか、あなたがその若さっていうか幼さで大人びすぎてるの!!」
「はいはい」
*—*—*—*—*
「さて、じゃあ頼む」
「…私からするの?」
「あいにく経験がないもんでな」
「そりゃそうでしょうね…っていうか、それは私も同じよ!!まったく…」
「早くしろ」
「…偉っそーに…じゃあ目を閉じて」
言われた通り目を閉じる。
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土に膝をつける音がした頃には、もうお互いの吐息が聞こえるくらいの距離まで近付いていた。
顔が近づき、微かに感じる女性特有の甘い香りは、高熱でクラクラしていた頭をさらにグラグラさせる。
頬を優しく撫でる吐息は生暖かく、少し震えている。それはきっと僕もそうなのだろう。
何せファーストキスだ。
…こんな形で迎えることになるとは思わなかったが。
と、瞬間、唇に温かいものが触れた。
…これが、キス。
なんてことを思っていると、口の中にニュルリと何かが入ってくるのを感じた。
「〜〜〜〜!?」
思わず目を開ける。
向こうはまだ目を閉じて、拙いテクニックを存分に発揮し、必死に頑張っていた。
舌と唾と唇が絡まり合い、どこが境目だかも分からなくなってくる。
…紛れもなくディープキス。
齢6歳、いや、二年経ったから8歳なのかな?
少しどころではなく刺激が強すぎた初めてのチュウは、そんなくだらないことを考えたところで記憶が途切れた。
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*—*—*—*—*
「……はっ!?」
しばらくして、目を覚ますと、その横に少女が座っていた。
心なしか体調はいい。
というか、すこぶるいい。
「やっと目覚ましたのね。自分の顔見てみなさい」
そう言われ、手前にある湖面を覗き込むようにして自分の顔を見る。
…右目は、元の色に戻っていた。
「…これは、お前が直してくれたのか?」
「そうよー、かなり強力な呪いだったけどね…あなた魔力があり得ないほどあるから、解除にはそんなに手間取らなかったわ。まあ、それなりに疲れたけど…」
「…そうか」
辺りを見回すと、もう夕方。
こんな時間まで寝ていたのか。
そう考えた瞬間、最新の記憶が呼び戻される。
僕は思わずボフっと音がなりそうなくらいの勢いで赤面した。
「…あなたも人のこと言えないわね」
「うるさい。というか、あそこまでする必要あったのか?」
「仮契約なら触れるだけでもいいんだけど、本契約ともなるとね…粘膜接触は必須なの」
「それならそうと先に言っておいてくれ…っていうか待て、本契約ってどういう…」
「仕方ないでしょ、そうしないとあなたの魔力は使えないんだもの。じゃないと呪いは解けなかったよ」
そう言われてはなんとも言えない。
「…そうだ、その、魔封じの…呪い?とやらが取れたなら、僕はもう魔法が使えるのか?」
「うん、使えるはずだよ?魔力循環は少なくともできるはず」
言われてやってみる。
その瞬間、身体中に温かいものが巡り、巡り、巡り巡って力が溢れた。
今までの苦労が嘘のようだった。
「…すごい。わかってはいたけど、ここまでとは…」
なんだか分からないが、少女もかなり驚いているようだった。
「これならすぐに初球魔法…いや、なんならロストマジックまでいけるかも…!」
「…冗談だろ?」
ロストマジック…この世界で遥か昔に存在していて、今はもう失われてしまった魔法の総称である。
今まで何もできなかった僕が…ロストマジック?
…ワクワクしてきた。
それこそ半年ぶりの感覚だ。
「まあなんにせよ、これから長い付き合いになるわけだし!これからよろしく!」
「…まだ名前を聞いていないんだが」
「ああ、そうだね、いつまでもお前って言われるのもアレだし…私はエレノア、こう見えても光の精霊よ」
…まじか。
光の精霊といえば、精霊の中でも上位の力を有した精霊だったはず。
「…契約って聞いた時点でまさかとは思っていたが、本当に精霊だったとは…僕はクロード。家名はもう捨てた。クロードと呼び捨てにしてくれて構わない。よろしく、エレノア」
「エリーって呼んで。なんかその方が慣れてるし。よろしく、クロード」
「じゃあよろしく、エリー」
クロード、8歳。
精霊と契約。
初めて友達ができました。
やはり展開が早い…。
そしてシーン毎の描写が非常に薄っぺらい…。
小説というのはやはり難しいものですね(@_@)
次回、魔眼発現。