彼女はいきなり転入生
結局デートはまともに出来かった日から特に何もなく只学校に行き、授業を受ける何気ない日々を送ってから約一週間経過しようと今週最後の登校を迎えていました。
そして、今日も変わらず教室に入ってに友達に会えば楽しく話題をしゃべりながらHRを待っている生徒を僕はぼーっと眺めていました。
「暇」
「蓮地が悪いんじゃ」
「やっぱりそうですよね」
「これ相当落ち込んでる?まさか限界?あの蓮地が!?」
「樹は僕を何だと思ってるの」
「他人恋愛脳」
「あのね。僕は恋人に発展する迄の経験しかないの。まあそれで検索したんだけど」
「ほぉ、それで」
何故ここで興味を引かれたの樹。
あれから江菜さんとは音信不通。
やっぱり怒ってるのかなと思い『彼女 仲直り 謝り方』で検索した所。
『電話する』
番号知らない、COMINEの電話機能でも出ないので却下
『懸命に謝る』
会えないから却下
『自宅に直接会いに行く』
住所が分からない却下
「個人差がありすぎて分からない」
江菜さんいま何をしているのでしょうか、元気にやっているでしょうか。
蒿田さんが江菜さんのスマホで連絡してもいい筈なのにそれもない、心配になる気持ちが募る一方です。
「はあ」
「まっ、蓮地にとって江菜ちゃんは《《大切な一人》》になったわけだ。一人に」
「理解してて二回言ってくるから嫌みにしか聞こえないんですけども」
「嫌みで言ってる」
こいつ。
でも樹の言う通り。
江菜さんの事は《《彼女》》と頭の中で理解してます。
けど、樹や雪達と同じで、離れたくない《《大切な存在》》で友人とか幼馴染の境界線上の一人。
それでも、ううん、だからこそ心配なんです。
その反面で僕は不安な気持ちに駆られています。
江菜さんは本当に疲れたから帰ろうと思ったのでしょうか。
―緊張の張り詰め過ぎで帰ったのかもしれません。でも何処かで僕が傷付けてしまうことを言ったんじゃないのかなって―
キーンコーンカーンコーン
「まあどうするかはまた後でな」
「うん…雪?」
「…へ、へい!何?」
あはは、何、そのアニメに出てきそうな居酒屋の店主みたいな返事。
「……何かあったなら相談乗るよ」
「大丈夫。蓮は江菜の事を考える。じゃ」
さっきから黙り混んでたのを気にしない方が難しいよ。
雪も江菜さんの事を心配しているのかな。
こういう話の時とか言いたい事言って弄ってくる雪が悩まないっていったらそれは偏見。だけど珍しいのは本当。
暫くしてガラガラと二組の教卓側の扉が空き、既にずれそう丸いフレーム眼鏡をかけた女性担任が教壇に立ちました。
「はーい。ちゅうもくで〜〜す。突然ですが転入生をご紹介します」
身長は普通だけど精神がロリっぽい口調の先生の一言は当然クラスの皆に「この時期に?」「女子がいいなあ」「樹君レベルのイケメン希望」「精神ロリ良いかも」
最後の一つ余計ですけどクラスの皆が騒ぎ始めました。
「はーい。まだ話の途中ですよぉ」
そう言って先生は咳払いを一回してから話し始めました。
「なんと皆驚き!あの有名なお嬢様高校白海女学園からの転入せーい」
「おお!」と女子も歓喜を上げて廊下まで響き渡りました。
女子確定です。
白海女学園は全国でも有数のお嬢様学校の一つで偏差値も確か実乃鐘より高い学校です。
でも、どの学校も登校が始まってから平均的に二週間。
一体どんな事情で来たんだろう。
考えていると先生は扉を開けて廊下で待っている転入生の女子に声をかけると転入生の女子が教室へと姿を現しました。
「………ぁ」
「それじゃあ自己紹介をよろしくね」
「はい。葉上江菜と申します。皆様、一年間よろしくお願い致します」
実乃鐘高校の制服を身に纏った江菜さんがニコッと微笑んで終わるとクラスから大歓声が上がりました。
殆ど男。
僕はいきなり過ぎて呆けるしかありませんでした。
何故かと言いますと僕の彼女が今度はいきなり転入してきたからです。
◇◇◇
「葉上さん、白海女学園ってどんなとこ」
「私達女子には憧れみたいな所だから気になるよね」
「「ねぇ!!」
「俺らにも質問させろ!」
「うっさい。どうせ好きな食べもの〜とか何でしょ」
わぁ酷い。
一時間目が終わり休み時間に入った瞬間、クラスほぼ全員が江菜さんの席に向かい転入生展開の質問タイム。
既に別クラスでも白海女学園からの急な転入生の噂話で持ちきりだったそうで、見に来る人が絶えません。
しかし、二組の独占状態で見に行っても一目見ることさえできないと教室へ戻っていきました。
ドンマイ?
江菜さんの席は扉側。僕は外窓側と反対。
席の配列としては名前がハ行なので基本は隣。
でも精神ロリ先生が「今いる席が暫く君達の席ですよぉ」と言った結果、席は自由に近い状態となりバラバラな配置です。
「止めにいかないの?」
そう言って樹が遠慮なしに僕の席の机に座る。
「今入ってもややこしくなるだけでしょ」
「蓮地は秘密派なんだ」
「知らないよ。人と場合による」
付き合ったら、付き合うことになった時友達に打ち明けるのに悩む人は少なくないでしょう。
秘密にするカップルは付き合い始めたことで生じる恋愛話への抵抗感、隠してる罪悪感等がある。
もう一つは周囲からの冷やかしや弄られる事が嫌だからというのがありました。
秘密にしない場合。堂々としてればデートに行きやすい、スッキリした気分になる。でも、別れたときに広まるのではということで悩んでいる人もいた。
依頼者にどう付き合っていきたいかは聞く。
けどそれだけ。
その先は依頼者次第。
成就した時に一度相談されましたが対処はしませんでした。
この先は付き合った二人の問題。
だから人と場合。また時にもよります。
「堂々としたいか、周囲の目を気にしながらしたいか」みたいなことは言いましたが。
で、この相談をされた時に樹がいた。
今は喧嘩?なのか分かりませんが状況的にどちらでもなく第三の選択肢『時』だと思います。
それに
「雪が順番に質問させてるし」
「雪も大変だな」
「クラス委員長だから仕方ないんじゃ」
「そういう意…まあいいや」
「気になる言い方」
「俺の考えすぎ。それはそれとしてズバッと言う雪にピッタリな委員職だよね」
クラス委員長は皆のプリントを回収したり、職員室まで持っていったり、学校行事に関わったり、HRを仕切るところもあるそうです。そして、殆どの学生がやりたくない委員職。
それを雪は率先して立候補した。
「『立候補するので男子は凉衣君か春咲君のどちらかを推薦します』って言って…って蓮地もクラス委員長じゃないか!」
「成長したんだね、感情昂っても口の悪さが無い」
「まあね。って話を逸らしてんじゃねぇ」
「せっかく誉めたのに」
「いいから行け、ボケ」
いっそ口調を矯正してあげた方が良いんじゃないかな、なんて考えていてじっとしてたらまたぼろ出しそうだし行くしかないよね。
「あの、《《葉上さん》》」
呼び掛けた瞬間クラスメイトの男子と女子から鋭い眼差しが襲いかかる。
止めようかな。
「何でしょうか?」
反応あり、いや無視はさすがにこの学校で最初はないですよね。応えてくれるか心配で変に安堵してしまった。
「…昼休み、時間貰って大丈夫ですか?学校…案内させてもらえればと思って」
「構いませんよ」
良かった。普通に対応してくれた。
「雪も良いかな?」
「いいよ、ぷふ」
何で笑ったの?
昼休み話ができればと考えているとチャイムがなってしまいました。
そのせいでクラスメイトから「時間返せ」「後でも良かったでしょ」等を怒りの視線を浴びました。
付き合ってる事絶対言わない。怖いから
◇◇◇
昼休み。予定通り江菜校内を案内。
当然、一年生教室のある廊下では注目を浴びるのは必然。
そんな気まずい状態で雪が「今日、弁当ないから買ってくる」と言って購買兼食堂に向かって階段を下りていった。
恐らく「喧嘩ならさっさと仲直りしろ」と気を使ってくれているのだろう。
しかし、余計に気まずい状態ではないか。
恐らくというのは見送った際、食堂に向かう雪の後ろ姿が元気が無い様に蓮地には見えた。
その間に江菜と話しをしなければならないと蓮地は不安と緊張を抱きながら一階から食堂、保健室と案内をしていくが説明以外で全く口を開く事がなかった。
おい。
結果沈黙が続いた。
しかし、次の物理実験室に向かう途中で江菜が話しかけた。
「蓮地さん」
先に声を掛けられたことに驚きを感じながら蓮地は江菜の方へとゆっくり振り返る。
江菜が再び口を開く。
小悪魔的、悪戯な笑みを浮かべて。
「まさかとは思いますが、今日まで怒っていると思ってました?」
「……」
「あの…蓮地さん?」
反応が無かった。応答する気配すらない。
只ひたすら機械のように淡々と説明をしながら案内を進めていく。
白海女学園にもあるだろうと思う場所は確認をとって軽い説明をする。
そして、蓮地は次の案内場所へと歩き出し、江菜に話す余地を与えず階段を上っていき図書室、情報室と案内をしていった。
江菜は只、黙って着いていく。
その表情は“やってしまった”感ありまくりな表情だ。
ふと、蓮地は音楽室で足を止め江菜の方へとくるっと振り返った。
「葉上さん」
「はい」
「ホントウニオコッテナインデスカ?」
諦めたいと言ったことで本当は怒っていたのか?
それとも鈴奈のスキンシップが原因?それはないだろ。
とはいえ、蓮地は悩んだ。
あのデートでの事は自分の発言が悪いのは明白だった。
そして、この約一週間、連絡も出会うことも出来ない状態だった。
それが突然自分の学校に転入。
更にそこに怒ってすらいなかった、只の早とちりだったと分かり思考を停止させてしまった。
「怒っておりません」
「あの時の鈴とのスキンシップでとかもないですか?」
「それくらいで怒る事はありませんよ。ですが」
すると江菜は笑顔という名の表情のままほんの少し頬を膨らませ、右手で蓮地の右頬を抓りむにむにと引っ張る。
「やっぱ、りぃ…怒って、るぅ…じゃないですか止めてください!」
「と、突然の…む、無視で不安にさせたのですからと、当然です」
江菜は蓮地の言葉が時々引っ張る事で妙に伸びるのが面白かったようで体がぷるぷると震えていた。
江菜は更に抓っている頬とは別の頬も抓る。蓮地の両頬はつり合い状態になった。
「|おわいふぉふぁないへふは《おあいこじゃないですか》」
「それはそうですが…ぷふ」
むぅと思案しながら抓る事を止めない江菜は一方で蓮地の顔で楽しんでいる。
この時蓮地には江菜がSっ気女王様に見えていた。
だから蓮地は逆を選択した。同じSでは反発するだけだからだ。
「江菜ひゃん」
「何ですか?」
「ちょっと癖になりひょう」
冗談である理解も信頼もする江菜ではあるもドン引きせずにいられなかった。
パッと手を離された蓮地の頬は見事に綺麗な赤みを帯びている。
「いてて、冗談です」
「少し本気に感じましたが」
「江菜さんが弄るので僕も良いかなぁって」
「も、もう二度と致しません」
そっぽを向いた表情は不機嫌だったが声色は楽しそうで頬も少し赤くなっていた。
「それで、江菜さんは今まで何をしてたんですか?」
頬を擦りながらゆっくり蓮地は話し出す。
結局連絡も会いに来なかったのは何だったのだろうか。
「特にありません」
「……」
何も反応がなく答えない蓮地にもう一度同じ事を少し楽しそうに言った。
「特にありませんよ」
「ないの!?」
今度は答えるのに一秒も掛からない反応で答えた。
別に会いに来ないのは分かるとしてもメッセージの無既読が何故だろうと考えている時を同じくして江菜もどう答えるか思案していた。
「あえて答えを出すなら。荒療治でしょうか?」
恋愛感情の荒療治でそこまでやるものなの?
やはり怒っているというサインなのでは?
しかし、怒っているなら現在も無視されているだろう。
だが今は楽しくしている印象が強く本気で怒りなど一ミリも感じない。
「そうですか。まあ、おかげ江菜さんを大切な一人として思っているのが分かりましたからいいです」
「大切な、《《一人》》ですか?」
目を細めた江菜から冷たい視線が向けられる。
「はい。…今は、です。」
一瞬動揺隠せずおどおどした蓮地を江菜は可愛いと思いながらクスッと笑った。
やはり女王の素質があるのだろうか。
惚れさせ惚れるという事で付き合う事になった日の気持ちを改めて蓮地はこの一週間で再確認できた。
だが正直わからなくはなっていた。
交際期間二週間。
江菜といるときの日数はほんの2日半。
その間真剣に自身の中に存在しない“恋愛感情”に向き合う事になったのは江菜がきっかけで、最初は嬉しかったが、その先どうすれば、どうしたらいいか分からなくなったことが確認できた。
だから諦めたい気持ちに気づき駆られ不安定になったのだろうという事を確認できた。
この期間で気持ちの整理ができた。
《《確りとした答え》》はでないままだったが《《あの後の気持ちを再確認》》出来た。
「それで諦めないという気持ちはお変わりありませんか?」
人の気持ちは余程強くない限り1日や2日で冷めることもある。三日坊主といった具合に。
「もしかしてその為に」
ニコッと笑いかける江菜の笑顔は「さあどうでしょう」と蓮地は言っている気がした。
「……それで……あの、なぜ家に来てくださら無かったのですか?」
「え?」
「お、怒っているとお思いになっていたのなら謝罪をしに会いに来るという事を考えなかったのですか?」
恐らくそういう前提で話しているのだろう。が、蓮地は知らない。
蓮地は正直に言った。
「あの江菜さん。僕、江菜さん家知りませんけど」
「・・・え?」
ショッピングモールでの鈴奈との話し合い。
男達の余計なナンパといざこざ。
蓮地が交際に対して利用しているのではと思いに駆られて恋愛に向き合う事を諦めてたった数日で関係が終わろうとしていた事などで、江菜はこのままデートを続けて良いものかと思った。
本当はあのデートで色々甘えようと思っていた。
しかしデート途中に色々ありそれ所ではなかった。
蓮地自身の知らない焦る部分があったから諦めるという気持ちが早々に出たのかもしれない。
一度整理させる必要があると思って江菜は帰ろうと言った。
そして、江菜はその間暫く会わず連絡も取らないことにした。
そうすること心配もしくはやはり怒ってるのではと錯覚してもらい、自宅に来てもらう予定だった。
そのあと二人きりになって甘えたいだけ甘えられるかも知れない、もしかしたら少しは恋愛の種が出来るか、芽生えるのではと思った。
しかし、3日経っても一向に来ない。
江菜だって自分の自宅を蓮地が知らないのは重々承知。
しかし、連絡を取って来てくれたとしても望んだ状況になる可能性が低いからだ。
連絡をとらないからこそ怒ってるかも?と印象付けが出来て一人で来てくれる可能性がある。
だから住所を父親の一成を通して蓮地の父親の春咲季吹に葉上宅の住所を教えてくれている筈だった。
しかし、運悪く季吹のいるゲーム班は製作中ゲームのベータ版を製作中なのだが予定がズレて少々デスマーチに入っていた。
連絡する暇すら無かった。
その為蓮地は住所を知る事が無かった。
それを当然知らない江菜は。
自ら会わない態度を取っているのに会いに行くなど以ってのほか。
「それは女子的にはNO」らしいので会いに行くに行けなかった。
そして、二日前。
枕に顔を埋め呻いてた時。
とにかく会いたい、会いたくて堪らなくなった。
そのうち蓮地なら父親に連絡して住所を聞いて訪ねてくれるかもしれない。だが、そのうちでは気持ちは収まらなくなっていた。
そして、江菜は気持ちを優先した行動にでた。
それが実乃鐘高校への転入だった。本来なら時間がかかるのだが理事長が叔父だ。そこはどうにかなった。
事前に転入手続きをしていた為来るしかなかった仕方ないと自分を納得させた。
この時の江菜は会いたい気持ち一辺倒で会うための口実が頭の中にそれ以外無かったのだと納得してほしい。
また、何故会いに来てくれなかったのかを会って聞きたかった。
※自分のミス
そして、早速理事長の叔父に頼んで転入手続きを済ませ試験を受けた。
そして今現在江菜はその事に気づいて音楽室前で顔を茹でタコのようにしてしゃがみ顔をスカートに埋めていた。
「ぅぅ…失態です、もう少し考えるべきでした」
「江菜さんそこまでのこ…」
「私にとってはそこまでの事なのです!!」
この変わった恋人関係は自分達だけかもしれないと改めて蓮地は思った。
実際そうであろう。
またこの時しっかりしているけど何処か抜けていて江菜を可愛いと思っていたりする。
「……残りの校内の案内はまた今度にしましょうか」
「…はい」
「じゃあお昼行きましょう。それで弁当のおかず少しいりますか」
「!…是非!」
先程まで羞恥で顔を埋めていたのが嘘のように立ち上がり目をキラキラ輝かせながら蓮地の顔のすぐ側まで寄ってきた。
蓮地が顔を赤くしたことで江菜は我に戻り数歩引き、顔に再び熱を籠らせて表情が見えないように俯いて蓮地の赤くなった顔を嬉しそうに見る。
「で、では屋上への案内、お願い致します」
「ご案内致します」
蓮地はダンスに誘うように手を差し出して江菜は手を取り快く誘いを受けた。
端から見れば仲の良いカップルにもしかしたら見えるかもしれない。
だが一人は恋情皆無でもう一人は恋情絶大と先が長い感じの二人である。
「そうです!帰りに買い食いをしてみたいです」
「大丈夫ですか?」
女性としてもそうだし親が気にするのでは。
「私、それほどお嬢様ではありませんよ」
「本当ですか?」
「ゲームは嗜み以上です」
驚き。プレイ時間のレベルはどれくらいなのだろうかと蓮地は思った。
「ですので、必ず蓮地さんを攻略してみせます」
江菜は小悪魔みたいな笑みを向けた。
「そう簡単にはいかないと思いますよ」
一人の男子は恋愛感情を得る為にまた一人の女子はそんな男子を惚れさせる為と互いに利用し利用される、今はまだ二人の関係はそれでいいのかもしれない。
「江菜さん、改めて宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願い致します」
これはこれで特別な存在だとこの女子も男子も気づいていない。




