おもちゃの国と少女
遠い遠いよその国。
林檎の雨、降っている。
赤い苺のジャムの海。
泳ぐ人たち溺れてる。
城を守るクルミ割り。
無邪気な顔で笑ってる。
そんな中に一人だけ、
女の子が生まれたの。
「死にたいほどに嫌いなの」
おもちゃたちの生き方が。
平気で息を止めてたり、
意味もないのに笑うこと。
「なんのために生きてるの?」
おもちゃに命なんてない。
『壊れるまで動き続けるの』
おもちゃに心はないってことらしい。
心のないおもちゃには
なにをしても意味はない。
おもちゃに心がないのなら、
作ろう。心のおもちゃ。
「待っていてね、わたしがみんなを
ぜったい素敵な気持ちにしてあげる」
飛び出した、少女を尻目に
今日もおもちゃは動き続けてる。
少女、少女。着いたのは
ドワーフたちが暮らす国。
立派な家に、強い武器。
目がとても眩しいよ。
少女、少女。頭下げ、
おねがいをしてみたんだ。
「心のおもちゃを作りたい。
どうか教えてください」
ドワーフたちは顔合わせ、
赤ひげが前に出た。
「心のおもちゃは無理だけど
教えましょう作りかた」
「心のこもった剣ならば
教えて差し上げましょう」
少女、少女。喜んだ。
習いましょう作りかた。
少しずつ上手くなったの。
だけど心は入らない。
赤ひげは言いました。
「心は技術じゃないんだよ」
少女にはわからない。
赤ひげは知っている。
「大切な人のこと
思い出してごらんなさい」
「わたしの国はわたしだけ。
おもちゃばかりの国なのよ?」
「だけどおもちゃのためなのに
君はここまで来たんだろう?」
少女、少女。考えた。
今までの思い出を。
「わたしに笑顔をくれたのは
いつもおもちゃだったのね」
赤ひげは笑います。
「もう大丈夫。もう一度」
少女、剣を作ります。
心のこもった剣。
赤ひげにお礼を言い、
旅立ちます。次の国。
剣を腰に携えて、
着いたのは森の中。
清い清いこの場所は
エルフたちが暮らしてる。
少女、少女。頭下げ、
おねがいをしてみたんだ。
「心のおもちゃを作りたい。
どうか教えてください」
エルフたちは顔合わせ、
青い眼が手を挙げた。
「子どもの私でよかったら
教えるよ、ペンダント 」
「心のおもちゃじゃないけれど
気持ちを込められるはず」
少女、少女。喜んだ。
習いましょう作りかた。
少しずつ上手くなったの。
だけど気持ちは伝わらない。
青い眼はつぶやいた。
「気持ちは向きをつけないと」
少女にはわからない。
青い眼は知っている。
「これを贈る人にはさ、
いつもなにを思ってた?」
「わたし、みんなと遊んでない。
きっとなにも思ってない」
「だけど、ここまで来たんでしょ?
強い気持ちがあったはず」
少女、少女。考えた。
自分の心に聞いてみた。
「わたしずっと寂しがり。
誰かと一緒にいたかった」
青い眼は微笑んだ。
「もう平気だね、もう一度」
ペンダントを作ります。
気持ちを込めたペンダント。
青い眼にお礼を言い、
旅立ちます。次の国。
ペンダントを首にかけ
着いたのは海の底。
魚たちも踊りだす。
マーメイドたちの国。
少女、少女。頭下げ、
おねがいをしてみたんだ。
「心のおもちゃを作りたい。
どうか教えてください」
人魚たちは顔合わせ、
黄色髪が手を挙げた。
「心を作れはしないけど、
教えましょう。作り方」
「心のおもちゃはないけれど、
織物に思いのせましょう」
少女、少女。喜んだ。
習いましょう、作りかた。
少しずつ上手くなったの。
だけど思いはのらないの。
黄色髪はささやいた。
「思いは言葉にしなきゃダメ」
少女にはわからない。
黄色髪は知っている。
「これを渡して何を伝えるか、
考えて作らなきゃ」
「心もたないおもちゃたちに
言葉は届かないでしょう」
「こんなとこまで来たんだから
ぜったい何かあるはずよ」
少女、少女。考えた。
願い事を口にした。
「一緒に笑って欲しかった。
みんなで素敵な時間すごしたい」
黄色髪は笑顔になる。
「もうできるはず、もう一度」
織物を作ります。
思いをのせた織物を。
黄色髪にお礼を言い、
帰りましょう、おもちゃの国。
織物を手に握りしめて、
着いたの、おもちゃの国に。
どこからも音がしない。
おもちゃたちは動かない。
どうやら壊れてしまったの。
長い時間が過ぎたらしい。
少女、少女。思いつく。
直しましょう、おもちゃたち。
習ったことを元にして、
直して見せてあげましょう。
おもちゃの体をとんてんかん。
おもちゃの頭をチョキペタパン。
長い時間をかけながら、
おもちゃたちを直します。
おもちゃたちは動き出す。
同じ場所で動き出す。
真ん中に少女がいる。
おもちゃたちも集まった。
だけど、少女うごかない。
なぜか、少女うごかない。
おもちゃたち待ち続けてる。
少女が目を覚ますのを。
何日経っても目を覚まさない。
おもちゃたち泣き出した。
不思議とおもちゃ涙ながす。
心がなかったはずなのに。
おもちゃたちは一つずつ、
少女のものを持っていた。
兵隊たちは赤い剣。
ぬいぐるみは青いペンダント。
積み木やボールに、おもちゃ箱も
黄色の織物つけていた。
心に、気持ちに、思いがある
プレゼントを身につけて。
心からの願い事を
祈りながら直された。
おもちゃたちの涙にも
心がこもっているだろう。
心のこもった涙の海。
少女の体は沈んでく。
沈んだ少女の顔はなぜか、
嬉しそうに笑ってた。
読んで下さりありがとうございます。
初投稿で拙いところもあったかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。