episode 08 ニヴルヘイム
地面という地面、 全てが氷で出来ていた。
しかし不思議と寒さを感じない。
触ってみるとそれでも冷たい氷…。
そんな矛盾で出来た世界にやって来た美紅と綵。
彼女達は今、 ニヴルヘイムにいる…。
〜 ニ ヴ ル ヘ イ ム 〜
N i f l h e i m r
−ラピュラリス−
氷界ニヴルヘイム
2人は辿り着くとすぐに見つけた。
【巨大な大木】とジェラスから聞いていたが
どうしたら木がこれほど成長するのかと思うぐらいの
巨大さだった…。
大木の幹はまだ先にあるにも関わらず
葉は2人の頭上を覆っている。
葉の隙間から空が見えるがまるで網だ。
それに氷で透けているので地面の中が覗けるのだが
凄まじいまでの巨大な根っこが
この世界全てに張り巡らされている。
「今……思えばさぁ美紅」
「ん〜?」
そんな地面を眺めながら大木の幹を目指す2人
会話は移動しながら続く。
「あたし達地球で唯一生き残った…人間なんだよね…?」
「……そっか。 みんな変わっちゃったからね…」
「な、 なんかさぁ、 あたし達って
運がいいのか悪いのか…わかんないよね」
「…だね」
「そりゃね…助かって変な化け物にならなくてすんだけどさ
この状況も素直によかったって思えないじゃん?」
「まぁ……ね」
「…地球に帰りたいな」
「…でも、 化け物いるんだよ?」
「そうだけど……このニブ? なんだっけ?」
「ニヴルヘイムー」
「あ、 それそれ。 とかさ、 さっきの神様のとことか
ちょー綺麗だけど…なんかさ…」
「うん……綵っちの言いたい事わかるよ」
「はぁ〜あ…マック行きたい」
「あ、 あんたね…。
ダイエット中だからって
この前誘った時断ったじゃぁん!!」
「こんな事になるんだったら行けばよかったよぉ…」
地球からやって来てどれくらい経ったのだろうか…。
一日、 一週間…それはわからない。
【時】が存在しないので感覚でしか掴めないが
綵は既に限界がきている様だ。
地球そのものにホームシックを抱く
その気持ちは彼女達2人にしかわからないだろう。
「…綵っち頑張ろ☆
あたし達超能力使えるようになったじゃん!」
「それっていい事〜?」
「い、 いい事かはわかんないけど…
絶対経験できない事できたでしょ?」
「あ、 あんたいつからそんなポジティブ人間になったのよ」
「まぁだからさ! 頑張っていこうよ!
それに2人いれば寂しくないじゃん!
最強コンビだよ☆」
「そか…、 そ〜だよねぇ!!
な〜にブルー入ってんだろーね☆
あはははは!!!!!!!」
「(ふぅ…やっと立ち直ったか…。
綵っち…人が落ち込んでる時は気にしないのに
自分ん時だけ深刻になるんだからぁ…もぅ)」
元気を取り戻したところで大木へと向かう。
あれだけ悩んでいた綵の立ち直りは早かった。
「てか…ちょーでかくない?」
「でかいでかい…。 見た事ないもん…」
「あ…泉が見えてきたぁ。 あそこだよね?」
「そ! 走る?」
すると驚きながら急に立ち止まった綵。
「…美紅っち、 それ意味わかって言ってる?
高校ん時にクラストップの実力を持った
月島綵菜に挑むって事だよ?」
「高校の時でしょ? 何年も前じゃん!
それになんか調子いいんだー♪♪」
そういいながら両足を軽くついて跳ねると
それを見た綵の闘争本能に火がついた。
軽くムッとしながら走る準備を整える。
「言っとくけどあたし、 マジでやるから!」
「いいよ!! あたしもマジだから!!」
氷の世界ニヴルヘイム。
こんな地で徒競走が行われようとしていた。
異世界での徒競走…間違いなく人類史上初となる。
「いい?」
「いいよ」
「よ〜い………。
どぉ〜ん!!」
スタートと共に一気に差を広げる綵。
大木まではおよそ200mといったところ。
美紅が段々と綵から離れて行く。
「はぁはぁはぁ…ほ…ほら…はぁはぁ…
だか…ら……はぁはぁ…言ったん…だよ…」
「はぁはぁはぁ…(は、 はや〜!!)」
綵は残り100mを切った。
美紅はまだ追いつけない。
「はぁはぁ…(ん? …待てよ……)」
「み…みくー!! はぁはぁはぁ…
そ〜んなんじゃ勝てないよ〜」
綵が振り返りながら走っている時だった。
いきなり美紅のスピードが増し、 追いついて来たのだった。
「う、 うそぉ…!?
はぁはぁはぁはぁはぁ…」
綵もスピードを上げるが比ではない。
すぐに美紅に抜かれてしまった。
「げっ!! あ、 あんた…はぁはぁ…
な…なん…はやすぎー!!!」
綵があと残り20mという時
美紅は既に着いて待っていた。
そして遅れて着くと氷の地面だというのに
そこへ倒れ込んだ綵。
酸欠状態で倒れた体勢のまま言葉を零す。
「はぁはぁあ…んた…なんでそんな…
は、 はやいの…はぁはぁ」
美紅にはまだ余裕があるのか中腰で言葉を返す。
「綵っち! なんであたし急に速くなったかわかるー?」
「わかるわけない…じゃん…はぁはぁ…しぬぅ…」
「んーっ!!
ほらー! これだよ!! 綵っち☆」
美紅の全身が霊気で包まれている。
霊力を使った事はそれで理解できたが
どうやったのかが知りたい綵。
スタミナが回復して起き上がると
自分も試してみたいのか美紅を問い詰め出した。
「だから…全体に届く…あ! 出来たそれそれ〜☆」
「マジだ…ちょーみなぎる〜!
てかぁ…美紅っち反則じゃぁーん!!!」
「え〜反則って霊力なしって言わなかったじゃん!!」
「霊力なしなんて考えつかないって普通!!」
「ま、 まぁ……。
あ、 誰か来る…」
「誰…?」
泉からこちらへ向かって来たのは
赤い髪の男だった。
たるんだ腹を揺らし走りながら声をかけた。
「よく来たねー!! 美紅ちゃんってのはどっち?」
「は、 はい。 あたしです…」
「じゃあ君がイーヴァのエテリアを宿した女の子で…」
「あ、 ああ綵菜です…」
「綵菜ちゃんね! 2人共よろしく☆
あ! あいつ僕の名前言った?」
「…ハート…さん?」
「え? こ、 この人がぁ!?」
「そう♪ よろしくねぇ綵菜ちゃん!」
「な、 なん…か…ジェラスさんと全然…
か、 感じ違います…よねぇ…」
「あんな暗い奴と一緒にしないでよー。
これからは俺が君達にいろいろ教えるから!」
「あ〜ぁ…ジェラスさぁ〜ん…会いたいよぉ〜」
ハートの案内で泉の前へっやって来た2人。
周りは氷だらけだと言うのにこの泉だけは
凍ってはいなかった。
泉のすぐそばには小さな洞窟の様な
空洞があり地下へと続いていた。
その中に入って地下へと降りて行くハートと美紅達。
「ハートさぁん」
「なにー? どしたー?」
「ハートさんはジェラスさんとどういう関係なんですかぁー?」
「ん? どういう関係?」
「え、 えっとー、 お友達かなぁ…って!!」
「ん〜簡単に言うとそうだねー」
「あのぅ…浄化ってなんなんですか?」
「え!? まさかあいつそんな事も教えないでよこしたのー!?」
「こっち来ればわかるって言ってましたけど…」
「あ…あいつ〜!!
そっかー。 じゃあ、 教えてあげないとね☆」
「は、 はい…」
「(だ、 だめだぁ…全然やるきでない…)」
「今から君達は地球に帰ってもらうんだけどー」
すると綵はさっきまでとは態度が
ガラリと変わりハートの話を熱心に聞き出した。
「え!? 地球にぃー!?
マジですかぁ?? いつですかそれいつ帰れるんですか!!」
「ま、 待って…順番に説明するから」
軽く咳ばらいを済ませると2人に説明を始めた。
「まず、 浄化について言うね!
浄化って言うのはマリスナディアの魂紛で変わった人間…
僕達は【ダスト】って呼んでるんだけど
ダスト達をある武器を使ってやっつけて欲しいんだよねー」
「…どんな武器なんですか?」
「それはねー、 あ、 着いたからとりあえず入って!」
地下の一番奥には部屋がありその中に入ると
部屋の真ん中に宙に浮いている握り拳ほどの
玉があるが、 それだけで他は何もなかった。
「まずは、 君達に武器を作ってもらわないとダメなんだー。
浄化の話は後でいい…?」
「は、 はい全然…」
「武器を作るってどうするんですかぁ?」
「はいこれ!
それに霊力を送って作ってもらうんだけどー」
するとハートは銀色の腕輪を2人に手渡した。
「え、 普通にこれ…腕に付けるんですか?」
美紅が腕にはめると腕輪が丁度いい辺りまで縮小した。
綵にも同じ現象が起こっている。
「縮んだぁ…」
「うん、 もう取れないからね」
「え?」
「じゃあ作り方言うねー!!
君達はもうジェラスに霊力教わったみたいだから
すぐわかると思うんだけどゆっくり説明するからね!
まずイメージでどんな武器にするか想像してみて!」
「イメージで…」
「へへ、 あたしはもう決まったぁ〜」
「はやっ………う〜ん、
これしか思い浮かばない」
「イメージ出来た?
じゃあ腕輪に霊力送ってみて!!」
2人は霊力を腕に集中させた。
青白い霊気が段々と腕に集まると腕輪に変化が起きた。
「腕輪がぁ…」
「光…った」
「そうそう!! やっぱコツ掴んでるから早いねぇ♪
じゃ次、 イメージした武器の名前を決めて呼ぶんだ!
あ、 物質化も一緒にね!!」
「名前…ですか?」
「えーなんにしよー」
2人は考え込んでしまった。
「それがイメージした武器を認識する為のものになるから
決めたらもう変えられないから注意してね!!」
「うーん…ますます考えちゃうなぁ…」
「決まらないなら僕が決めてあげるよ?
どうしよっか?」
「あたしぃ、 じゃあお願いしよっかなぁ〜」
「ほんとー!?
じゃあちょっとイメージ見るねー♪♪」
そう言うと綵の腕輪に手をかざした。
「…なるほど〜。 カッコイイ武器だねぇ
ん〜、 じゃこれで……」
「な、 なんなんですかその…ゲツ」
「待って待って!! 呼び出す時に言わないとさー!!!」
「は、 はぁ…」
「…じゃ綵菜ちゃんやってみて!!」
「(…名前を言いながら霊力だね…名前を言いながら…)
げ…、
月影刃!!!」
すると綵の腕輪が強い光を放ち光から刀が現れた。
いつの間にか手に握っていた。
「あぁ!! 出て来たぁー」
「刀だー」
「カッコイイよね〜♪♪
美紅ちゃんは?」
「てかちょーかるいんだけど〜!!」
綵は少し素振りをしてみた。
その素振りなのだが、 かなりしっかりと
力強く振り下ろしている。
「そか、 綵ずっと剣道やってたもんね」
「よっ! ほっ! そっ☆
だから刀〜」
「ほら! 美紅ちゃんも決めないと〜」
「じゃあ、 あたしも決めて下さい」
「お〜☆ じゃあ腕かして…。
う〜ん♪ ナイスナイス〜カッコイイじゃないの〜♪♪♪
しかも2つ? 大丈夫? 霊力いるよ?」
ハートはそう言いながら霊数を調べ始めた。
美紅の霊数は23。
この数字が果たして吉と出るのか…。
「う〜ん…ギリギリだねほんと…。
多分その武器は21ぐらいになるから
武器出すとかなり辛くなるよ?」
「そうなんですか…」
「あ!! じゃあ提案なんだけど
威力ちょっと落としてみよっか♪」
「……こんな感じですか〜?」
イメージを変えてみる美紅。
「15ならいけるいける♪♪
じゃ、 こんなので…」
「……え、 な、 なんですかそれ…」
「いいからいいから!!
さ、 美紅ちゃん♪」
「は…はい」
果たして美紅がイメージする武器とは
一体どんな武器なのだろうか…。
感想待ってま〜す♪♪♪