episode 11 管理人
突如2人の前に現れた白髪の老婆。
驚く事に彼女の目は両目とも失明していた。
ならば何故2人を見る事ができるのだろうか…。
そして彼女は2人の秘密を知っていた。
美紅と綵は老婆に連れられて二階建ての
小さなアパート前まで来ていた。
アパートの壁は所々にひび割れがあり家の扉は
茶色い鉄製の扉。
その扉を開けて中に入って行く老婆の後を2人も続く。
「おじゃま…します」
「(え…? 何もない…)」
中は6畳の部屋が2つ、 タンスや机などの
家具は無く黒いレザーのソファーが一つあるだけ。
キッチンからも生活感が感じられない。
本当に何もなかった。
老婆はゆっくりとソファーに腰を下ろした。
「さて…じゃあ改めて自己紹介しようか」
〜 管理人 〜
Soul manager
−アパート−
2010.7.4
am9:07
「私はネル。
ダストブレーカーを管理する者…。
つまりあんた達の管理人だよ」
「は、 はぁ」
「ネルさんの事は聞いてませんけど…」
「あんた達ハートに言われて来たんだろう?」
「はい。 そうです」
「はぁ…全く」
「?」
ネルは溜め息をついた後しばらくして再び話し始めた。
「よく聞きなさい。
ダストはあんた達の手には負えない」
「え…でもあたし達…」
「確かに霊数を見るとそれなりにはやっていける。
でもダストは元は人間なんだよ。
…私が何を言いたいかわかるかい?」
「………」 「………」
「ダストは色んな種類がいる。
中には人間を装っているのもいてるんだよ。
例えば命乞いするダストを
あんた達は浄化…つまり殺さなければならない。
人間を殺すと言っても過言じゃない…。
事実本当に人間だからね」
「でもあたし達が戦ったのは
化け物だったですけどぉ…?」
「あんなのはダストの初期段階に過ぎない。
言っただろう? ダストには色んな種類がいると
人間と変わらないダストをあんた達はやれるのかい?」
「そ…それは……」
「あんた達がダストブレーカーになるには
まだまだ早過ぎる…」
2人は黙り込んでしまった。
ネルは彼女達の顔をじっと見つめると
両手を差し出してこう告げた。
「あんた達の霊力を全て私に渡すと
普通の魂に戻り天界へと導かれてそこで
幸せに過ごす事ができる。
強制はしないがあんた達の為に言ってるんだよ」
「で…でも地球が…」
「ダストの事なら心配はいらんよ。
ジェラス達ならきっとやってくれる。
あんた達は自分の事だけを考えるんだ」
ネルの言う事は正しいかも知れない。
自分達は命乞いをしている人間が目の前にいたら
例えそれがダストであったとしても
果たして浄化する事ができるのだろうか。
いや、 2人ともできるならこんな事やりたくはない。
「人間と言う生き物は決して強くはない。
皆誰もが平和を願い生きているんだ。
ダストブレーカーとは常に恐怖に怯え
恐怖と闘い、 そして恐怖を知る…。
あんた達にはそれだけの器が整ってるのかい?」
「…本当にやめてもいいんですか?」
「…それは自分に問い掛けなさい。
決めるのはあんただよ」
「あ、 あたしっ!」
話の途中で綵が言葉を発した。
「あたし…渡します。
こんな事しなくていいなら…したくない…」
「……あんたはどうするんだい?」
「あたしは……このままでいいです。
ダストをこのままほっといて…
地球の皆があんな化け物になったままで…
自分だけ幸せに過ごすなんて」
「美紅…」
「その事なら心配はいらんよ。
ジェラス達が何とかしてくれる」
「そうだよ美紅
ジェラスさんの霊数知ってるでしょ?
あたし達なんかにはやっぱり出来ないんだって
あんたが特別な何とかでもね」
「綵……」
美紅は綵の顔を見つめた後目線を落とす。
綵の言う事も十分わかっている。
だがどうしても踏ん切りがつかなかった。
ネルの差し出す手を取れば楽になれる。
これから訪れるであろう恐怖は消えて無くなる。
クッキーを持っていて食べようとした時
お腹を空かせた子供がそばで見ていたら
自分の物だからといって食べてしまい満足するのか
それともその子供に渡して苦痛を得るのか…。
その感覚に近い状況だった。
他人なんて所詮は他人。
しかしもしその出来事がきっかけとなり
子供は生き延びられるかもしれない。
ダストを浄化する事は苦痛であるに違いない
まだ体験していないが初めてダストを見た時の
あの恐怖はもう2度と経験したくはない。
それでもその恐怖の先に救える何かがあるなら
自分の行動で救える命があるなら
このままダストブレーカーになるのはそんなに苦痛ではない。
美紅の意志は固かった。
「やっぱりあたしはダストブレーカーとして
このままダストを浄化していきます」
「美紅……」
「綵、 別にあたしが特別だからとか
責任とか…そう言うんじゃないの。
本当に自分の意志だから」
「………そう」
「だから綵は綵の考えで決めてくれていいからね。
別に気を使って残ってくれたりとか
しなくていいんだよ☆
綵の気持ちもわかるし」
「……仕方ないなぁーもう。
ならあたしも残るよ」
「だから気を使…」
「気なんか使ってないよ。
あたしももう少し頑張ってみよーって思っただけ」
「嘘だよ、 だってさっき…」
「嘘じゃないよ美紅。
綵菜は真実を言ってる」
「確かに怖いけどさぁ…
でも…2人なら大丈夫な感じするじゃん?」
「じゃあもう一度だけ聞くよ?
どんな結末が待っていたとしても
あんた達はダストブレーカーとして
歩んでいくんだね?」
ネルの質問に2人はお互いの笑顔を瞳に入れた後
しっかりと頷いた。
するとネルは少し黙り込むと一言告げる。
「2人とも…
合格だよ」
「え? 合格?」
「…合格ってどういう…」
「これはあんた達の意志を試したテストだったのさ
ダストブレーカーは生半可な気持ちじゃできないからね」
「テスト?」
「あんた達はダストブレーカーとして認められた。
これで安心して地球に送れるよ」
ネルは杖を掲げると景色がじんわりと変化していった。
辺りは暗闇で埋め尽くされる。
ここはラピュラリスだったのだ。
「え? じゃあハートさんが間違えて2010年に
送ったのも…全部演技だったのぉ!?」
「どおりで変だと思ったよ。
だってみんな無視しちゃうんだもん」
「そうだよ美紅。
実際にあんた達が地球に戻っても同じ現象になる。
あんた達は霊体だからね。
さっきの地球はシミュレーションとして
忠実に再現してある。
実際に行くとあんた達が体験した事がそのまま
本当に起こるんだ」
「じゃあ戻れても会話できないんですね…」
「肉体を取り戻せば会話は出来るが
今はそれを教えてやる事はできないよ」
「霊力がたくさん必要だからですかぁ?」
「霊力はほとんど必要ない。
肉体を持つと言う事は危険が大きいんだよ
今はまずダストの浄化に慣れる…
それだけを考えなさい」
「…わかりました」
「慣れてからでもいっか☆」
「あと、 ハートに代わって今後は私が
あんた達の面倒を見るからね」
「はい。 よろしくお願いします」
「お願いしまぁーす」
「まずは地球に行ってダストを浄化して来る事。
ダストの初期段階…ダスト1st
通称D1と呼んでいる。
あんた達はD1の浄化とまだダストになっていない
人間の確保、 わかったかい?」
「え? ダストになっていない人がいるんですかぁ?」
「中にはいるんだよ。
魂紛に触れさえしなければね…」
「見つけたらどうすればいいんですかぁ?」
「美紅がその人間に触れると魂紛の影響を
受けなくなるからとりあえず周りのダストを
浄化したら安全な場所へ移動する。
指示はまたその時に出すから」
「わかりました」
「これで本当に本当の地球に帰れるんだね♪」
「…みたいだね!!」
「頑張ろうね! 美紅!!」
「うん♪」