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Voice -君の声だけが聴こえる-  作者: 貴堂水樹


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2-7

「え、いない?」


 放課後。

 神宮司隆裕のホームルームの前で、詠斗はそう声を上げた。


「うん、今日は休み。何か用事?」

「あ、いや……なんでもない。ありがとう」


 一年の時に同じクラスだった女子に尋ねた結果、神宮司は今日学校を休んでいるらしい。せっかくのチャンスを無駄にしたことで、詠斗はすっかり肩を落としてしまった。



 屋上へと続く扉の前に立つと、すぐに美由紀の声が聴こえてきた。


『あら、おひとりじゃないですか』

「えぇ、神宮司は今日学校を欠席しているんだそうです」

『そうでしたか。それは残念でしたね』


 本当に残念だった。これで美由紀の証言が取れれば傑に連絡して事件は解決したも同然だと思っていたのに。美由紀を襲ったのが神宮司だと確定しているわけではないけれど。


『どうして休まれたんでしょうね?』


 えっ、と詠斗はやや驚いたように声を上げる。


『そのジングウジさんという方、警察に疑われているんでしょう? 仲田さんを殺したんじゃないかって。そんなタイミングで欠席だなんて、何か勘繰りたくなりません?』

「……やましいことがあるから、姿を見せられないってことですか?」

『そう思われても仕方がない行動だと思いませんか?……まぁ、単純に体調不良で寝込んでいらっしゃる可能性もありますけれど』


 確かに、美由紀の言うことにも一理ある。秘密を抱えて雲隠れしているのだとすれば、事態を重く受け止めなければならない。

 詠斗は携帯を取り出し、傑にメッセージを送った。もしかしたら警察で取り調べを受けているのかもしれないと思ったからだ。

 すぐに返って来たメッセージには【こちらに引っ張ってはいない。自宅へ連絡を入れてみる、少し時間をくれ】とあった。

 五分ほどが経って、もう一度傑から連絡が入る。【神宮司隆裕は体調不良で自宅にいるようだ】との返事だった。


「家にいるみたいですね」


 そう美由紀に伝えると、『そうですか』と細い声が返って来た。詠斗もまた一つ息をつく。


『……写真』

「え?」

『写真で確認してみるというのはどうでしょう?』


 なるほど、その手があったか。――しかし。


「神宮司と一緒に写ってる写真なんて、そう都合よく持ってませんよ」

『クラス写真はどうですか?』

「あぁ、そうか。俺の手元になくても、先生なら持ってるかも」


 行きましょう、と声をかけ、詠斗は職員室へと向かった。美由紀がついてきてくれているのかどうか判断のしようもなかったが、きっと一緒に来てくれているはずだと信じていた。



   *



 一年の時の担任だった化学教諭が運良く昨年度の体育祭の時の集合写真を持っていて、一時的に借りることができた。人目につかないようもう一度屋上入り口の前に戻り、美由紀に話しかけてみる。


「こいつが神宮司隆裕……の、はずです」


 指でその人物を示す。窓は閉まっているはずのなのに、詠斗の髪が揺れて右耳の補聴器が顔を覗かせた。


『どうしてそう自信なさげなんですか』

「人の顔と名前を覚えるのが苦手で」

『一年間同じクラスで過ごしてきた方なんでしょう?』

「他のヤツらとは極力関わらないようにしてましたから」

『それにしたってひどすぎます』


 うぅ、と詠斗は顔を歪めた。他のヤツらにどう思われていても構わないが、美由紀に言われると胸が痛むのは何故だろう。


「……で、どうなんです? 先輩を襲ったの、こいつでした?」


 無理やり話を事件のことに持っていくと、『うーん』と美由紀のうなり声が降ってきた。


『やっぱり写真じゃわかりづらいですね。直接ご本人に会ってみないと』

「じゃあ、また明日改めてってことにしましょうか。この大雨の中、わざわざ神宮司を訪ねるのはさすがに嫌だし」

『私は構いませんよ? 濡れませんから』

「あ、やっぱり幽霊だと雨に打たれても濡れないんですね。……というか、そもそも先輩って学校ここか自宅か事件現場にしか現れることができないんでしたっけ」

『あなたについていくことができれば、どこへでも行ける気がします』

「できるようになったんですか?」

『試してみます? それじゃ、手始めにあなたのおうちのお部屋まで』

「ちょっ、やめてくださいよ! 俺の部屋に入っていいのは……っ」


 言いかけて、詠斗は咄嗟に口をつぐんだ。ふふっ、と美由紀の笑い声が聴こえてくる。


『紗友ちゃんだけ、ですか?』


 図星丸出しの顔で俯くと、もう一度美由紀の笑い声が降ってきた。


『妬けちゃいますね』


 そう言った美由紀の真意を、詠斗はどう受け止めてよいのかわからなかった。

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