67.5話① なお、眠たいとする
ボクは呼び出されている時以外は大体寝てる。
夢を見てる訳じゃないんだけど。
なんていうんだろ、意識はあるんだけど、特にすることもないしシャットアウトしてる感じかな。
優人はよくボクといると昼寝をする。
だから、人間の睡眠の感覚は理解できないけど、いつも真似をするんだ。
じっと待っていて退屈だろうと言う人もいると思う。
でもそんなことないんだよ。優人が起きたらあんな話をしようとか、
これを教えてもらおうとか、色々考えを巡らせているとすぐに優人は目を覚ます。
数時間なんて、ボクにとってはあっという間なんだ。
だけど、今日の優人はちょっといつもと違う。
悲しいとも違う、怒ってるとも違う。
でも、確実に困っているような、複雑な顔をしていた。
「どうしたの?」
「ラーフル、聞いてくれ。札井達と、食事に行くことになった」
「えぇ!?」
ボクは驚いた。
札井はちょっと目つきと口が悪いけど、優しい子だよ。
この間だって、バグをどうにか見逃してあげようとしてた。
その甘さが命取りだって言う人もいそうだけど……
でも、ボクは彼女のそういうところが人間くさくて好きだ。
ちょっとだけ優人に似ているとも思った。
「達っていうのは、あの時にいた4人かな?」
「あぁ。あのときはよく力を貸してくれた。札井達も言っていた、
ラーフルがいないと絶対に解決しなかった、と」
「大袈裟だなぁ〜。でも嬉しいよ。いいなぁ、ボクも一緒に行きたいなぁ」
口にしてからすぐに後悔した。
実現できないわがままを言って、優人を困らせてしまった。
大袈裟かもしれないけど、誤解を受けて嫌われがちな優人にとって
生徒達と実習以外でどこかに行くなんて、夢のような話なんだ。
ボクはそれを楽しんで欲しいと思っていたはずなのに。
余計なこと言っちゃった……。
「すまない……」
「ううん! しかたないよ! 行ってきたらまた教えてね!」
「あぁ。緊張するな……服は、何を着ればいいんだろうか」
「普通でいいんだよ! 優人は心配性だなぁ」
でも優人の不安もわかる。
優人はこの怖い顔のせいで、あまり友達がいなかった。
というか彼に友達がいたら、ボクは生まれていなかった。
優人にとって、またとないチャンスなんだ。
絶対に楽しい思い出にして欲しい。
きっとみんなも楽しみにしているよ、自信を持ってね。
ボクは自分が聞いて欲しかった話も忘れて、この話題に没頭した。
いいんだよ、どうせ大した話じゃないんだ。
睡眠を取ったことの無いボクだけど、これがそういう感じなんじゃないかって思うんだ。
どういうことかっていうとね、つまり最近妙に”眠い”んだ。
ただそれだけなんだから。