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Lily paTch  作者: nns
インターバル
52/239

50話 なお、かっこいいものに嫉妬しがちとする


 4人がダイブしてから2〜3分後、やっと通信が確立されて、モニターに彼らの様子が映し出された。

 壁のようなバグがゆっくりと押し迫っている。

 あまり多くは言及しないけど、バッタンという音を立てて倒れてきそう。

 動きも遅いし、これは急いでるデバッカーには放置されるわ。

 私は心のどこかでそう納得して、成り行きを見守った。


 -え、えっと、俺はどうしたらいい?

 -また指示待ち?

 -え、いや……


 八木君は木曽さんに咎められてすぐに黙ってしまう。

 なんでこの二人はペア組んだんだよ、相性最悪じゃねーか。

 私よりはクラスメートと交流している志音にダメ元で聞いてみる。


「あー。なんか中学が一緒だったらしいぞ、あの二人」

「あー……」


 当時のことを思い出す。

 確かに、私も同じ中学出身の子がいないことを悔しがったな。

『悪いヤツではないし、余るのも嫌だし』。

 二人の思考が手に取るように読み取れる。


 入学して2ヶ月くらい経つし、二人にもそれぞれ友達ができただろう。

 そしてそんなペアは彼らだけではないだろう。

 相方交換システムを希望する人が一定数いてもおかしくないな。


 -乙さん、鳥調さん。ここは私が先行して

 -意味の無いことは止めた方がいい

 -は、はぁ……?


 ぴしゃりと言い放つ鳥調さん、そこにしびれない憧れない。失礼過ぎるわ。

 あれじゃ険悪なムードを加速させるだけじゃないか。

 菜華の言い分には私も賛成だけど、それにしても言い方ってものがある。


「お前、どう思った?」

「何が?」

「だから、菜華の言ったことだよ」

「あぁ、私だったら菜華達に任せて何もしないかな」

「……だよなぁ」

「ま、八木君と木曽さんはまだ菜華達のアームズを知らないんでしょ? 無理もないと思うけど」

「仲間同士で情報共有しないでどうすんだよ。ダイブする前の鬼瓦の話で、

 得意な攻撃範囲は判ってるかもしれないけど、それだけだろ。

 あたしならまずそれを晒し合ってから作戦立てるけどな」


 志音の言うことは一理ある。

 何も知らないんじゃ背中を預けられない。背中を預けられないなら一緒にいる意味は無い。

 そう考えると、そもそも八木君達が眼中に無いような態度の菜華も問題に思えてきた。

 いや、あいつは問題しかないか。そもそも知恵しか眼中になさそうだし。


 -おいおい、なに喧嘩してんだよ。お前らは何ができるんだ? あたしらは音で攻撃すんだ

 -俺と木曽は刀が武器なんだ……

 -なるほどな。あいつは石で出来てそうだから相性は最悪かもな

 -あぁ……

 -幸い、アイツはとろくさい。アイツが迫ってくるスピードに合わせて後退しながら

 あたしらが攻撃をしかけるから、二人は周囲に異変が無いか見張っててくれ

 -わ、わかった!


 私は小刻みに震えながら口元を手で押さえていた。

 知恵……? どうしてそんなに出来る子風なの……?

 世界が破滅する映像を見せられているような気持ちでモニターを見つめていると志音の声がした。


「いや、勉強できないだけで元々こういうとこあったろ……」

「確かに思った以上に鋭いなとは思ったよ? でも、こんな、”指揮官として優秀”みたいな特性……ズルいよ……」

「何がズルいのか全く分からんが、とりあえずこれでなんとかなりそうだな」


 モニターの中で、知恵はノートパソコンを、菜華はギターを呼び出していた。

 初めて見る二人のアームズに、八木君達はかなり動揺している。

 おそらく想像していた武器と形状が異なるせいだと思う。それもそうだ。

 音で攻撃する。

 この条件だけを聞かされてギターを思い浮かべる奴がいたら、とんだひねくれ者だろう。


 -ちょっ!? ギター!?

 -知恵、解析が出来たら教えて

 -おう。この間みたいに楽譜で出力した方がいいか?

 -そうして

 -弱点は1秒に2回切り替わる。単音じゃなくて和音だな

 -BPM120。余裕


 なんの話かは分からないが余裕らしい。

 八木君達は完全に取り残されているけど、安心して欲しい。

 こちら側は私達以外の全員が、あなた方と同じようなリアクションをしている。


「鳥調さんってそういうキャラだったんだ……」

「ぼーっとしてるだけじゃなかったんだね……」


 家森&井森ペアすら驚きつつ失礼な発言をしている。

 普段どれだけヤバい奴でも芸術的な才能があると、それっぽく見えるから菜華はズルいと思う。

 なんていうの、「うわこいつヤバ……あ、アーティストか。じゃあしょうがないね」みたいな。

 そういう空気あるよね。


 -いつでもいいぞ、好きにしてくれ

 -えっ……?

 -あたしをじゃねぇよ! 早くギター弾け!


 公衆の面前で何をしてるんだアイツらは。いやアイツは。

 つまらないとでも言うように口を尖らせながら、菜華はディスプレイを眺めながらギターを奏でた。

 四人は後ろに下がりながらバグと睨み合っている。


 -グゥ………………? グゥ………


 効いている、気がする。

 しかし、それにしては反応が鈍かった。


「多分、菜華と知恵のアームズのレベルが低いんだろ」

「え?」

「あいつらは確かに強いと思う。だけど、まだ実習を何回かやって

 数回しかリンクを繋いでないだろ? ダメージがほとんど通ってない状態なんだと思うぞ」

「あぁ……」


 音色の強さとかパソコンの強さとか、あまりピンとこなかったけど、

 とにかく攻撃力が弱いというのは致命的だ。


 -ちっ。あいつ固ぇな

 -出力あげられる?

 -このままじゃ無理だ。でも、枠は2個だろ? もう一つの枠を使って

 -それは良くない。知恵のアームズは多彩だし。いざという時に防御とかにも使える

 -じゃあどうすんだよ


 菜華はケーブル付きの小さな箱のようなものを呼び出すと、木曽さんに持たせた。

 彼女はその箱を手のひらに置いたまま、菜華と箱とを交互に見ている。


 -え? え?

 -持っていて


 配線をいじりながら、菜華は言う。

 パソコンから伸びたケーブルは、小さな箱を介してから

 ギターに繋がるようにセッティングされた。


 -知恵。もういいよ

 -おう、好きな時に始めろ

 -えっ……?

 -いちいちそういうリアクションすんな!


 菜華はがっかりしながら、バグの状態を確かめるようにギターを弾いていく。

 間に繋いだ箱がなんなのか、私には分からないが、バグの反応的に変化は無さそうだ。

 多少動きは鈍くなってはいるが、このダメージでデリートを目指すのは現実的じゃないだろう。


 -まぁ、このまま1時間くらい弾き続けたら少しかは削れるかもな

 -で、でもそれじゃ!

 -わぁーってるって。あたしも楽器のことはよく知らねーんだ。とりあえず菜華を信じようぜ


 取り乱す木曽さんを宥めて知恵は菜華を見た。

 張りつめた空気に耐えきれなくなったのか、はじかれたように口を開いた人物がいた。


 -鳥調さん! あの、俺、何かしようか!?

 -そう。じゃあ……

 -うん!

 -黙ってて


 八木君ってバカなんだな。

 そのやり取りは私が前にやらかして、チビらされてるんだよ。

 本腰を入れてギターを弾く前の菜華には触っちゃいけない。

 これはお腹を空かせた猛獣の前に、体中に肉を括り付けて踊り出るくらい阿呆な行為なのだ。


 -木曽さん。そのスイッチ押して

 -えっ、と、こうかな?


 カチッと小気味良い音が静かに響く。

 わざわざアームズとして呼び出しているんだから、きっと木曽さんがいまスイッチを

 押した箱に、何か秘密があるんだ。

 気になったものの、それ以上私が考えを巡らすことは無かった。


 -オーバードライブ

「!?」


 モニター越しにも分かる、音が明らかに大きくなっている。

 みんなは画面を食い入るように見つめていたが、私はそれどころではなかった。

 感心、驚嘆、羨望、違う。私が感じていたのは怒り。


 ねぇなに?

 菜華だけは信じてたんだけど?

 オーバードライブって何? 今までで一番必殺技っぽい感じじゃん。ズルいじゃん。

 っていうかそれ技名でしょ? わざわざ考えたの? っていうか考えたんでしょ?

 私が「志音も言うことだし、まきびしちゃんを大事に育てて行こう」って決めた矢先に何?

 こんな、ただでさえ派手できらびやかでカッコいいアームズ使ってる奴が?

 おぉばぁどらいぶぅ?

 ちょっと本当にいい加減にしてほしい。


「札井、考えてることは大体分かる。その、周りに惑わされんなっていうか……な?」

「あ?」

「お前いますごい顔してるぞ」

「だったらなんだよ! あぁ!?」

「と、とりあえず落ち着けって!」


 モニター越しに響くギターの音色をバックに、志音に取り押さえられる。

 私が正気を取り戻す頃には、4人の前に立ちはだかる巨大な壁は消えていた。

 多分そんなに錯乱していた訳じゃないと思う。

 それだけ早く、おぉばぁどら……ぐっ……カッコよすぎて

 これ以上考えたくもない、別名を考えよう。


 あの技は、個人的に”にぎやかわいわいぽんぽこぽん”と名付けることにする。

 菜華の【必殺:にぎやかわいわいぽんぽこぽん】が決まってバグを倒したのだ。


 木曽さんは知恵と菜華に、興奮気味にお礼を言っている。

 八木君は黙れと言われたのがよほどおそろしかったようで、

 少し離れたところで沈黙を貫いていた。

 誰か、彼に「もう喋っていいんだよ」って教えてあげて欲しい。

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