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Lily paTch  作者: nns
二学期 スタートダッシュ
176/239

169話 なお、見かけと口調によらず結構なおばあちゃんだったとする

 私は手のひらを目の前にかざした。

 そこに彼女が乗れるようにという配慮のつもりで。

 なんとなく人差し指を曲げて、それを水平になるように手首を傾け、乗りやすくしてみる。


「キキ! 今度こそ来て!」


 しかし、変化はない。妙なポースで過ごす5秒はあまりにも長かった。

 私が諦めて手を下ろそうとすると、ラーフルが歓喜の声を上げた。


「わー!」


 見ると、鬼瓦先生まで目を輝かせている。二人共、私を見ていた。

 これで「わぁ〜! ここまでやってアームズに許してもらえない愚図がいる〜!」と

 いう意味なら私は暴れるだろうが、二人のことだ、そんなことはないだろう。

 一緒にいるのが家森さんと井森さんだったらそう解釈して暴れてた。


 二人の視線を辿ってみる。

 そこには鮮やかな色の、ピンクグレープフルーツみたいな色をした鳥が肩に乗ってた。


「キキ!」

「……あーしのこと呼ぶの遅過ぎじゃん?」

「ごめんって! 色々あって……!」

「まーわかるけどさ」


 彼女はふてくされた様子で私を軽く睨みつけている。

 来てくれたのは本当に嬉しい。嬉しいんだけどね。


 手を用意して待ってたんだからそっちに来て。

 これじゃ私が華麗なダンスの最中に肩に鳥飛んで来た美少女みたいじゃん。


「お前がキキか。俺は札井の教官の鬼瓦だ」

「へー! めっちゃ怖い顔してんね! そっちのは?」

「ぼくはラーフル! よろしくね! キキ!」


 さすが、生体アームズとその使い手である。二人はすぐにキキと打ち解けた。

 ラーフルの頭に止まったり、先生の指に止まったり、

 彼女は一人と一匹を気に入ったようである。

 楽しげな三人を見ると、私まで和んでくる。


 様子を見ていると、「あ、そうそう」なんて言ってキキが私の頭の上に飛んできた。

 ピタッ! という音を立てて頭上に着地すると、なんだか頭が痒くなってきた。


 うん?

 痒い。違う、痛い。え、ちょっと待って。痛い痛い!

 めっちゃ痛い!


「痛いんだけど!?」

「あーしを放置した罰ね」


 キキは私の頭頂部にぐいぐいと爪をめり込ませて力を入れている。

 私が悪かったけどそういうのやめない!?


「分かったって! 分かったから!」

「もうちょっと定期的に呼べっつーのー。退屈じゃん」

「さっき謝ったじゃん……」

「まぁいいや、エンジンは? 来てんでしょ?」


 きょろきょろと辺りを見渡しているらしい。

 私には彼女の姿を見えないんだけど、頭から伝わってくる感触でなんとなく分かる。


「エンジンの主人は知恵だ。奴はここにはいない」

「なんだぁ。でも、ここ……何?」


 頭の上で声が響く。

 その声は何かを警戒しているようだった。


「ここはバーチャルプライベートという。俺専用の空間だ」

「バーチャルプライベート……? なにそれ? あーしが現役だった頃にはなかったモンだね」


 顔が見えないのがなんとなく嫌だったので、人差し指を水平にしてキキの足元辺りに移動させてみる。

 すると、意図を理解したのか、指の上に乗ってくれた。

 指に乗せてみると、結構重みを感じる。

 手を胸の位置まで持ってくると、彼女の顔を見ながら言った。


「要するにプライベート空間なんだよ。だからバグも出ないし、デッドラインも存在しない」

「デッドライン?」

「え」


 それを知らないなんて、私にはお手上げだ。

 困ったように先生を見ると、彼は何を求められているのかをすぐに察知し、応えてくれた。


「バーチャル空間が発見され、人類がそこに降り立った当初は、デッドラインはなかったんだ。

 デッドラインという概念すらなかった。ロッジが生まれてからそれは認識されるようになり、

 実際にデッドラインが可視化できるようになるのは、ロッジの有用性が認められ、

 研究が少し進んでからのことだ」


 なるほど。

 言われてみれば、デッドラインの円の中心にはロッジがあると習った。

 となれば、それまでは存在しなかったと考えるのが普通だろう。

 でも、ダイブしてすぐにバグと遭遇する可能性があるなんて、毎回毎回そんななら嫌になりそう。


「へぇー。んじゃ昔より安全なんだ」

「そういう話、あの集落ではしなかったの?」

「まーねー。あーしはどうだっていいと思ってるけど、未練たらたらで

 現役時代の話するのを嫌がる奴も多かったし」


 彼女は何かを思い出しながら腕を組んでいる。

 あの集落の長、ゴリ……アーノルドも、やたらにかつての主を慕っていたっけ。

 気安く話したがらない者が一定数いるのもなんとなく頷ける。


 キキは私の手から飛び立つと、数回羽ばたいて肩に移動した。

 指よりも肩の方が好きみたい。


「ま、大体分かったわ。それよりも、実戦での作戦会議とかしよーよ」

「え!? いいよ!?」


 なにそれ絶対楽しい。

 私は目を輝かせて即答した。

 鬼瓦先生とラーフルも、賛成だと言わんばかりに私達を見守っている。


「例えば?」

「例えば……そうそう、アンタ今までどんなアームズ使ってたの?」

「私? まきびしだけど」

「ふざけなくていいから。武器によって作戦なんて変わってくんじゃん?」

「待ってふざけてないから」

「あのねぇ……さっきあーしに謝るのに何か出したじゃん。

 キラカードあげるから! って。あれは何を呼び出してたの?」

「あれは燃えるまきびしだよ」

「そんなもんこの世に存在しねーっつーの」


 キキは悪い奴を見るような目で私を見ている。

 本当のことしか言ってないのに、こんなのひど過ぎる。


 こうなったら実際に見せるしかないだろう。

 私はさきほど呼び出したアームズ、2枠分を占領している炎を纏ったまきびしを呼び出した。

 大量に呼び出されたそれはふわふわと宙を舞っていて、心なしか暖かい。


「わぁ!?」

「ね?」

「わぁ……マジなんだ……あんた、変な奴だとは思ってたけど……」

「事実であったことにショック受けるのはやめろ」


 キキは空中に浮くそれをまじまじと見つめて、どうしようと呟く。

 もしかして、私が素晴らし過ぎて脱帽している……?


「こんなワケわかんないアームズ、見た事ないんだけど……」

「怒るよ。あと普段は燃えてないからね。これはキキのための特別仕様だから」


 思わせぶりな態度からディスるのやめて。落差でダメージでかいから。

 せめて無から燃えているそれを発案したワケではないという弁明をしてみるが、

 なんか無意味な気がしてきた。


「キキ、確かに札井のアームズは妙かもしれないが、これで意外と使えるぞ」

「先生まで妙とか言わないで」

「そうだよ! 変だけど、使い方次第ですっごいんだよ!」

「ラーフルだけは信じてたのに」


 ボロクソに言われてかなり傷付いたけど、二人ともこのアームズは

 弱くないと主張してくれてはいる。しかし、キキはゆっくりと首を振った。

 認めろや。そう言いそうになったが、私よりも早くキキが発言する。


「いや、その逆だっつーの。これ、めちゃくちゃ強いじゃん」

「え……?」

「まきびしって聞いたときは馬鹿じゃないの? って思ったけど……

 考えれば考えるほど、あーしとの相性が良過ぎるヤツね」


 まさかこの流れで褒められるとは思ってなかった。

 肩に視線を向けると、ちょっと悪そうな笑みを浮かべて私を見ている。

 見つめ合う私達を見て、声をあげたのはラーフルだ。


「二人とも、協力できそうで良かったね!」

「俺はラーフル以外にアームズを持たないから、共闘という戦い方はできない。

 よってアドバイスしてやれることもないが……キキなら大丈夫だろう」


 先生にそう言われてはっとした。彼は武器を持たずに、ラーフルを使役している。

 似たような立場になって、初めて分かる彼のすごさ。


 よく考えてみると、バーチャル空間に丸腰で立つなんて、信じられない。

 いくらラーフルが強いと言っても、最低限の自衛の武器はあってもいいと思う。


 でも、きっと先生はそうやってラーフルへの信頼を態度で表しているんだ。

 そしてラーフルもそれを分かっているから、より強くなれる。

 本当にいいコンビだ。


 私は絶対真似したくないけど。

 普通に怖いし。いざって時に自分の手でブチのめせないなんて絶対イヤ。


「時間があるなら、ここで少しコンビネーションの練習をしていけ。

 俺も気付いたことがあったら言うし、参考にさせてもらう」

「それがいいね! ぼくらに手伝ってほしいことがあったら、なんでも言ってね!」


 二人の言葉に甘え、私達はそれから1時間くらい色々と試した。

 おかげで課題も見えてきた。

 キキとラーフルに別れを告げ、リアルに戻ってきた頃には、陽が暮れ始めていた。


 とても有意義な一日を過ごせた気がする。二学期は楽しくなりそうだ。

 私は夕陽を背に歩きながら、僅かに口元を緩ませた。


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