6.女神の国
「な、なんでまた俺を神の遣いだなんて思うんだ? このナリだぜ?」
俺は正直に疑問を口にした。
神の遣い、つまりは天使だ。この世界ではどうなってるか知らないが、少なくともモヒカンマッチョな天使がメジャーな世界は無いだろう。
対してセイン・ライクレイは自信たっぷりに胸を張って答える。この場所に来てから鎧を脱いでいるので、ご立派な胸部が大層自己主張していらっしゃる。鎧のラインは誤魔化しではなかった。
「私は光の神殿で学び、神殿騎士として勤めておりました。それで、その、カーン殿からは神聖な気配を感じるのです。大きな儀式をして神の奇跡を目の当たりにした時のような……」
マジかよ。見る人が見れば俺の身体はそんなことになってんのか。
「まあまあ、どおりでセインの態度がおかしいわけですわ! 敬語なんて本当に珍しいと思っていたんですのよ!」
「姉上。やめてください……は、恥ずかしいではないですか」
なるほどな。俺を相手に丁寧な態度だったのは、ちゃんと理由があったのか。シーニャの方は天然なんだろうけど。
ま、バレてるなら無理に隠す必要もないか。
「セインの言うとおりだ。俺は、とある神から遣わされてこの世界に来た。女神に会うためにな」
「やはり……。いつか、貴方のような方が来ると思っていました。女神が直接国を統治するなど、異常なことですから」
この世界の人間にとっても女神の存在は異常事態らしい。あの神様、何をやらかして出て行かれたんだろう。
「女神がいるのは、あの光の柱のある場所であってるか?」
「ええ、ある日突然、女神が降臨して以来、あの辺りは『女神の国』と呼ばれております」
「詳しく話を聞いていいか?」
俺の頼みに答え、二人は簡潔にこの世界で起きたことを教えてくれた。
女神の降臨は、本当に突然だった。
二年前のある日、平原の小国に光の柱と共に女神は降り立った。
周囲と小競り合いを繰り返していたその国はしばらくの混乱の後、女神を支配者として受け入れた。
そこから『女神の国』の快進撃が始まった。従うものは受け入れ、従わないものとは戦いが起きた。
女神の加護を受けた軍隊は強力で、平原一帯が『女神の国』となるのに一年もかからなかった。
現在は情勢も落ち着き、女神によって平原は統治されているらしい。治安も回復しており、人々は神のいる生活に慣れ始めている。元々この世界で信仰されていた神の神殿などは大分迷惑を被っているらしいが。
「正直、私達もこの程度のことしか把握しておりません」
「いや、よくわかった。それにしても2年前か……」
神様、嫁さんに逃げられて2年も放置してたのか? いや、神様は時間の感覚がおかしいのかもしれない。今度確認してみるか。
「わたくし達の故郷も、今では女神の国の中ですわ。両親が殺されたのも女神降臨の混乱の最中だったのでうやむやになっているようですの」
「姉上、私達の事情は……」
「いいえ、セイン。この出会いを逃してはいけませんわ」
咎める妹に対して、シーニャは首を振った。
居住まいを正し、真っ直ぐに俺を見つめて言う。
「お願いいたします、カーン様。どうかわたくし達の復讐のお手伝いをしてくださいませんか? 都合の良いことを言っているのは承知しておりますの。もちろん、お礼は致します」
さて来た。どうしたもんか。この姉妹の用意できる報酬次第だな。いや、いっそ俺の目的の手伝いをして貰うのもいいか。現地の案内人は必要だ。
「礼か。具体的にはどんなもんだ?」
俺が聞くと、何故かシーニャは顔を赤らめて、もじもじし始めた。
「報酬は……わたくしの身体ですわ。正直、自信はありますの。カーン様のあふれ出んばかりの情欲を思う様ぶつけてくださいましっ! 学園で見た、あの本のように!!」
「………………」
場に沈黙が満ちた。
聞こえるのは森のさざめき。泉の方から吹く風が心地よい。
「…………すまん。こいつは何を言ってるんだ?」
「わかりませんの!? つまりですわね、わたくしの身体を……」
「いや、そこは流石にわかる」
唐突すぎんだろ。今までそういうフリがあったか? 確かに美人だとは思ってたけど、獣のような目で見てるとでも思われてたのか? ……仕方ないかもしれん。モヒカンだからなぁ、今の俺。
自分について思考を巡らせていると、同じように言葉を失っていたセインが慌てて口を開いた。
「……申し訳ありませんっ! 姉上は魔法使いとしてはとても優秀で、魔法学園を主席かつ飛び級で卒業する程なのですが、学園の歪んだ常識に染まっておりまして……」
心底申し訳ないという風に頭を下げるセイン。
対して、心外な様子で姉の方が声を荒げて言う。
「セイン! なんてことをいうんですの! わたくしの学友が製作した本に書いてありましたの! カーン様のような逞しい殿方は、わたくしたちのような乙女を見ると蹂躙せずにむぐっ」
「姉上っ、カーン殿は神の遣いです! そのような情欲など……。いや、そうでなくても淑女として慎むべき発言ですっ」
「もごもご…………」
妹に口をふさがれた姉は、少しして静かになった。別に死んだわけじゃない。
「あー、なんだ。大変だな」
「いえ、これでも魔法使いの中では話の通じる方ですので」
マジかよ。魔法使い恐い。
「報酬はともかく、カーン殿のお力が欲しいのは本当です。正直、私達二人では力不足なところもありまして。できればお力を……」
「条件がある」
「はっ?」
「もごっ」
前向きな態度を見せたら姉のほうが目覚めやがった。
「俺はこの世界に来たばかりで常識に疎い。色々と教えてくれ。それと、力を貸すにしてもできるだけだ。俺が全部やるってのは無しだぜ。それであとは、女神に会う方法も一緒に考えてくれると助かるな」
今の俺には情報が少なすぎる。話した限り二人は悪人ではなさそうに思える。
ただちょっと馬車を襲った復讐の姉妹というだけだ。力を貸すのも、貸して貰うのも悪くない。
「そ、それは勿論……」
「もちろんですわ! よろしくお願いしますわ! カーン様!」
セインの拘束を解いたシーニャが、嬉しそうに俺の手を握ってきた。それも両手で。胸を強調しながら。身体のラインが浮き出るピッチリした服だから嫌でも目に入る。
なんでこんな露出度高い格好なんだろう。これがこの世界の魔法使いの標準スタイルってことは無いと思うが。
「ま、とにかく宜しく頼むぜ」
こうして、この世界にやって来た初日に、俺は旅の仲間に出会ったのだった。
○○○
[カーンのノートへの記述]
馬車を襲っていた美女二人と組むことになりました。
現地の情報を仕入れようと思います。
ところで、僕はどれくらいの強さなんでしょうか? 色々と情報が足りないです。
[神様からの返信]
すいません。「馬車を襲っていた」というのはどういう意味でしょうか? 詳細な記述を求めます。
また、今の貴方の能力をステータス風にまとめました。どうです? 今風でしょう?
ただ、職業が大変なことになっているのが気になります。身も心もモヒカンになりましたか? そちらも詳細な記述を求めます。
【モヒー・カーン】
種族:天使
職業:犯罪者(馬車を襲ったため)
力 :150
魔法:100
速さ:100
防御:200
魔防:150
※ステータスは、一国の上位者でどれか一つが100あれば良い方です。
スキル:
・超成長:物凄く能力値とかが上昇しやすい。
・肉体系魔法の素質(超):肉体系の魔法の素質がある。
・神のご加護(超):神様からの数々のご加護がある。
・投石L1
モ様の種族は冷静に考えた結果こうなりました。




