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5.ライクレイ姉妹

 馬をバギーで追いかけるのは簡単だった。というか、最初はバギーのエンジン音に馬が驚いてそちらの対処に難儀した。魔力で動いてるのにガソリンエンジンめいた音を出すのはどういうことだ?


 ともあれ、俺達は街道をしばらく進み、木々が見え始めたところで道を外れた。

 その後、殆ど道なき道を進み、森の中に入り、小さな泉のほとりに出た。

 泉のほとりには大きめのテントのようなものが見えた。


「ここは?」

「私達の拠点です。ここなら落ちついて話せますから」

「そちらで少々お待ちくださいませ。すぐにお茶の用意を致しますわ」


 焚き火の跡を囲むように置かれた丸太を指し示すと、魔法使いはその側にある簡単なコンロのような場所に向かった。薪を用意し、例の杖を軽く振ると火花が散って、一気に火がついた。便利だ。

 騎士のほうが水をくんだケトルをもってきてコンロの上に置く。


 しばらくして、お茶が用意されたので、俺達は丸太を椅子代わりにして話し合いを始めた。


「そういえば、私達はまだ名前を名乗ってもいませんでしたね」

「本当ですわ。助けて頂いたというのになんという失礼を……。シーニャ・ライクレイと申します。以後、お見知りおきを」

「妹のセイン・ライクレイです。カーン殿、ご助力感謝致します」


 金髪と銀髪の姉妹はそれぞれ名乗った後、それぞれ丁寧に礼をした。どちらもしっかりと作法を学んだ所作に見える。なんか、気後れするな。


「お、おう。それでなんだが……」

「ご安心を。ここはわたくしが魔法で隠蔽した隠れ家。ゆっくり事情をお話致しますわ」


 カップに入ったお茶を飲みながら、シーニャが言う。中身はハーブティーだ。何のハーブだかわからないが、清涼感のある香りがする。


「で、なんで馬車を襲ってたんだ? 美人さんが二人して」

「まあ、美人だなんて……。本当のことですけれど」

「…………」


 俺が絶句するとセインが呆れたようにため息をついた。


「まったく姉上は……。申し訳ありません、姉上はその手の冗談が通じないのです」

「いや、冗談ではないんだが」


 この二人が美人なのは間違いない。

 俺が真顔で言うと、セインは一瞬顔を赤らめた後、咳払いした。


「…………っとにかく、事情をご説明します。恐らく、カーン殿は我々を馬車を襲った盗賊の類いと勘違いしているのでしょう?」

「ま、まあ……な」


 しっかりと自分たちのやったことを認識していらっしゃる。


「まあまあ、これは大変ですわ! わたくし達の大義をしっかりとご説明せねば!」


 露出の高い服装でくねくねしながら、シーニャが背中のマントに手を入れた。どうやらそこにポケットがあるらしい。

 シーニャが取り出したのは、先ほどの強盗行為で入手したアクセサリだった。


「これは我がライクレイ家の秘宝『妖精の曙光』ですの。あの馬車の荷物に混ぜてどこぞの商人に密輸されておりましたの」

「ほう、なんでお二人の家の秘宝が密輸など?」


 セインが「半年ほどの前のことになります」と前置きして話しを始める。


「元々、私も姉上も、家の外でそれぞれ職についていたのです。そして、家にいなかったばかりに…………」


 そこでセインは拳を握りしめ、言葉を失ってしまった。閉じた目には涙すら浮かんでいる。

 姉のシーニャが、静かな語り口で話を繋ぐ。


「……わたくし達の両親は使用人の裏切りにあい、殺害されましたの。使用人同士で仲間を募って、旅先で殺害。そのまま仲間も殺して仇討ちを自分の手柄にしましたの。周到に計画されていたようですわ」


 これはまたなかなかの悪事だ。


「使用人が信頼されていたこと、わたくしとセインが国から離れた場所で職を見つけていたこと。それらが重なり知らせが届くのが遅れ、そのまま乗っ取りですの……」

「私と姉上が気づいた時には全て手遅れでした。どうにか姿を隠しながら情報を集め、復讐の機会を窺っていたところに、我が家の秘宝が密かに売りに出されたことを知り、その……」

「輸送している馬車を襲ったのですわ! 護衛が思ったよりも手強くて、これは人死にが出るかも、と思ったところでカーン様がご登場くださったのです! まるで物語のように!」

「お、おう。いいところに出くわしちまったようだな。まあ、話はわかったぜ」


 俺がそういうと、再び二人は頭を下げた。


「改めまして。モヒー・カーン様。わたくし達の窮地をお救いくださったことをお礼申し上げますわ。本当に、感謝しています」

「おかげで、私達の目的も果たすことができる」

「目的?」


 答えは想像がつくし、ここで問いかければ後戻りできない程この姉妹の事情に踏み込んでしまう。

 そうわかっていても聞かずにいられなかった。


「勿論、復讐ですわ。父と母の敵を討つため、この『妖精の曙光』がどうしても必要だったんですの」

「そうか……」

「そこで、お願いがあるのですが……」


 改まった口調でシーニャが話すのをセインが手で制した。


「その話の前に、私からも聞きたいことがあります。カーン殿、貴方は人間ではありませんね? 神から遣わされた存在なのでは?」


 ……おいおい、これはいきなり話が早すぎじゃねぇか?

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