22.決意と旅立ち
「おい、二人とも大丈夫か?」
仲良く隣り合って倒れているライクレイ姉妹に声をかける。
見た感じ、外傷はなさそうだ。参った、俺は医者じゃないから容態を把握できないし、回復魔法で手っ取り早く直すこともできない。
「シーニャ! セイン! 無事か!」
見た感じ、呼吸はしている。もし、脳にダメージがあった場合などこのまま目覚めないかも知れない。
一瞬、そんな悪い想像をしてしまったが、すぐに杞憂だとわかった。
「う……う……ん」
「……カーン殿……ここは?」
妙に色っぽい声で目を開けたのはシーニャ。意識を取り戻すなりしっかり質問してきたのはセイン。どちらもいつもどおりだ。
「女神の三騎士とかいうのとやり合った」
「流石はカーン様ですわ。その様子だと、撃退したんですのね」
「私達は不意をつかれ、何もできませんでした……」
起き上がるなり落ち込む二人。あんなのに不意打ちされたならやられても仕方ない。命があっただけ幸いだ。
「二人が無事で良かった。俺達を襲ったフィーティアってやつならあっちに……」
俺がフィーティアの倒れているところを指さした時だった。
いつの間にか、そこに二人の男がいた。
若いのと中年だ。若い方はセインみたいな白い鎧を着ている。中年の方は白い服だ。その服からとんでもない気配がする、下手な鎧よりもヤバそうだ。
「女神の三騎士ってこたぁ、三人いるってことでいいんだよな」
若い方がフィーティアを軽々と持ち上げ、肩に担いだ。
そのまま俺達の方にやってくる。武器を抜く気配は無い、この場でやり合う気は無いと願いたいもんだが……。
「全く……。先走るなと言っておいたのだが……」
「悪い子ではないのですが。久しぶりの実戦で我慢がきかなかったようですね」
俺の耳にそんな呟きが聞こえた。どうやらこの戦闘は向こうの想定外だったらしい。
「トゥルグ・ミロスワだ。女神の三騎士の一人とされている」
「同じく。カイエ・カルンツェルです。以後、お見知りおきを……」
それぞれ軽く一礼した。俺は油断なく斧を持って相手を見る。
まずは、ステータス鑑定だ。
【トゥルグ・ミロスワ】
種族:人間(上位種)
職業:女神の騎士
力 :160(480)
魔法:108(324)
速さ:180(540)
防御:192(576)
魔防:260(780)
スキル:
・女神の加護(ステータスを3倍する)
・失われた王国の剣技L10
備考:古代に滅びた大王国の王族の生き残り。
【カイエ・カルンツェル】
種族:人間
職業:女神の騎士
力 :123(246)
魔法:50(100)
速さ:60(120)
防御:88(176)
魔防:67(134)
スキル:
・女神の加護(弱)(ステータスを2倍する)
・一般防御魔法全般L4:結界に代表される防御魔法(下級)を使える。
・一般援護魔法全般L4:回復、能力強化などの援護魔法(下級)を使える。
・神聖魔法L5:神より賜る奇跡の魔法。光の至高神の神聖魔法を使える。
・神の加護L2:世界を作りし光の神から、たまに啓示がもたらされるなどの弱い祝福。
・光神騎士団剣術L10
・光神騎士団槍術L7
備考:元光神の聖騎士。光の神から啓示を受けて女神の騎士となった。
やべぇ。勝てねぇぞ。なんだ人間の上位種って。そんなのいるのかよ。
こいつは交渉か妖精の魔法で切り抜けるしか無いな……。
俺がそう考えた時、セインが声を上げた。
「カイエ先輩! カイエ先輩ではありませんか!」
「君は……セイン・ライクレイなのか? なぜこんなところに、神殿はどうした?」
驚いた、若い方はセインの知り合いらしい。
「知り合いか?」
やはり驚いた様子のトゥルグが問いかけた。
「はい。光神の神殿の先輩後輩です。優秀な聖騎士だったのですが、なぜこんなところに」
「それは私の台詞です! 光神の聖騎士である先輩がなぜ女神の三騎士などやっているのですか!」
「……私にも事情があるんだよ」
「それは私も同じです……」
二人の関係性はわからないが、驚きの邂逅ではあったらしい。
知り合いがいるから少しは交渉しやすくなったと思いたいが……。
「モヒー・カーン殿だな?」
改めてトゥルグが俺に向かって言ってきた。その視線は俺の本質を見極めようとしているかのように鋭い。
「ああ、俺がモヒー・カーンだ。悪いが、いきなり襲いかかってきたのはそっちだ。謝罪はしねぇぜ」
「確かに、この襲撃はこちらの落ち度だな。もっと友好的に始めたかったが……」
しばし悩んだ様子でトゥルグは言う。
「モヒー・カーン殿。卿は女神に会うためにやってきた神の使徒ということで間違いないな?」
「……だったらどうする気だ?」
斧を持つ手に力を込める。爆炎でめくらましをして隠れ身で逃げる。それしかねぇか。
「そう緊張しないで欲しい。手負いの獣とやり合う危険は犯したくはない。だが、伝えておかねばならないことがある」
俺は視線だけで先を促す。
「もし、卿が女神をこの世界から連れ去ろうとするならば、我らはそこに立ちはだかり、最悪、卿を殺さねばならん。大人しく、神のもとに帰って欲しい」
「嫌だと言ったら?」
「卿は悪人ではなさそうだ。ヴルミナの街での評判も良い。できれば、殺したくはないな」
そう言って、トゥルグはきびすを返した。慌ててカイエもそれに続く。フィーティアは完全に荷物と化している。
「今日のところはフィーティアの不手際の詫びに撤退させて貰う。よく考えて欲しい」
去り際、こちらを振り返り、トゥルグは言った。。
「セイン、その方と共にいるのはやめた方がいい。たとえそれが君の運命だとしてもだ」
カイエがそう言い残すと、女神の三騎士は一瞬でこの場から消え去った。
「魔法か……」
「恐らく、移動の魔法ですわね……」
ずっと黙っていたシーニャが言った。外傷はないが、彼女は疲労が濃い。喋るので精一杯に見える。
「色々と言いたいことはあるが、とにかく、街に戻ろう。話は後だ」
二人は反対しなかった。
その後、俺達は何とかバギーで街まで戻り、身も心もボロボロの状態で宿に帰った。
○○○
疲れた時の話し合いというのは大抵ろくな結論が出ない。
俺達は『木陰の安らぎ亭』に戻ると、可能な限りの治療をした後、ゆっくり休養をとった。
正直、ライクレイ姉妹はその日は話せる状況じゃなかった。サチェレが心配していたが、説明できるような出来事じゃない。
そして翌日の午後、宿の俺の部屋にシーニャとセインの姿があった。
二人とも怪我はもうないが、まだ顔に疲労の色がある。
「大丈夫なのか?」
「怪我の方は大丈夫ですわ」
「まだ疲れが残ってはいますけれどね」
室内は狭い。俺がベッドに腰掛け、セインとシーニャが持ち込んだ椅子に座ると部屋はいっぱいだ。
「さて、わかってると思うが。昨日のことについて話し合いたい」
姉妹が揃って頷く。二人とも緊張している。もしかしたら、俺が言おうとしていることがわかっているからかもしれない。
「俺達三人の旅は、この街で終わりにしねぇか」
「………………」
「……それはっ! ……しかし……」
二人とも驚きは無いが、落胆はした。
「……理由を聞いても。よろしいですの?」
わかっているだろうに、シーニャが聞いてきた。俺の口から聞いて確認したいってことだろうな。
「危険だからだ。俺と一緒にいれば、あの女神の三騎士とやらと戦うことになる。二人とも、復讐どころじゃなくなっちまう」
女神の三騎士は加護の力で規格外の力を備えている。この二人が相手をするには分が悪すぎる。
シーニャとセイン、二人の目的はあくまで両親の敵討ちだ。俺が引き寄せる強敵と戦わせるわけにはいかない。
「……それだけですの?」
「? 理由としては十分だと思うぞ。二人とも、あれと戦ったんだろう」
不意打ちを受けたとはいえ、二人はフィーティア相手に歯が立たなかった。奴らの実力は身をもって知ったはずだ。
「ええ、恐ろしい敵でした。油断していたとはいえ、わたくしとセインが二人まとめてやられてしまうとは思いませんでしたわ」
「魔剣技というのを初めてみましたが、ああも強力だとは……」
「じゃあ、わかっただろう。女神の三騎士は元々達人だった上に、女神の加護で強化されてる。普通の人間が太刀打ちできる相手じゃあ……」
ここまで旅をしてきた仲間だ。ちゃんと説明した上で解散したい。そう思った俺の話はシーニャによって遮られた。
「嫌ですわ。そんなことで、カーン様と離れるわけにはいきませんですの」
「姉上、何を?」
「どういうことだ?」
シーニャが冗談を言っているわけではないのは明らかだった。ちょっときつい目つきで、真っ直ぐに、強い意志を持った声音で話を続ける。
「カーン様は、わたくし達と別れた後、あの三騎士をどうにかする方法を模索するつもりですのね?」
「ああ、そうだ」
神様にパワーアップの方法を聞くつもりだ。あの程度の脅迫で俺は生き返りを諦めるつもりは毛頭ない。
「ならば、カーン様は女神の三騎士よりも強くなるということですわね。なおさら離れるわけにはいきませんわ」
「おいおい……」
「カーン様、聞いてくださいませ」
「はい」
俺は居住まいを正した。
「わたくし達の仇は、手練れの戦士団と組んでおりますの。わたくしとセインの二人では太刀打ちできないと諦めるくらいの……」
「会った時に言ってたな。自分たちも危なかったって」
「私達は両親の仇も討てず、自分の身を守るために逃げ出したのです」
無念そうに言うセイン。二人が身の危険を感じるくらいの敵なら懸命な判断だと思う。
「妖精の魔法は、それでもなんとか復讐するために考えた苦肉の策なのですわ」
これも懸命な判断だ。隠れ身の魔法は強力だ。それだけで復讐を果たせるくらいの性能がある。
「何とか妖精の魔法を手に入れることはできました。でも、わたくしもセインも余りに未熟なのを身をもって知るばかりですの。カーン様の力がなければ、わたくし達はここまで順調に来れなかった……」
そう言って、シーニャは俺に頭を下げた。
「もう一度、お願いしますの。わたくし達の力になってくださいまし。カーン様にとって大して利益のある話ではないのはわかっていますの。だから、わたくしを差し出します。敵討ちに手を貸してくださるなら、好きにしてくれて構いません」
「姉上、冗談は……」
諫めようとするセインに対し、シーニャははっきりと答えた。
「冗談ではありませんの。セイン、わたくしは、カーン様に会った時から本気です」
そのまま、シーニャは続けた。いつの間にか彼女は、泣きそうな顔で、しかし決して涙を流すこと無く。
「……優しかったお父様とお母様。娘二人が遠方で暮らすことに反対せず、見守ってくれた。応援してくれた。学園を出て、働き始めて、ようやく恩返しが出来ると思っていたのに。……今度の休みには、わたくしの住む街に来て、ゆっくり過ごすと約束していたのに……」
「…………」
「姉上……」
シーニャ・ライクレイは凄腕の魔法使いだが。戦いではなく、研究が主体の魔法使いだ。
彼女のこれまでの人生全てを投げ捨てる覚悟をさせる出来事さえなけなければ、今でも幸せな研究生活を送っていただろう。
「わたくしは決めたのです。お父様とお母様の仇を討てるなら、自分などどうなってもいいと。身体を差し出すくらいで仇が討てるなら、いくらでも……」
「それ以上言わなくていい。見ろ、セインが泣いてるぞ」
シーニャの隣で、独白を聞いたセインが涙を流していた。まるで姉の代わりに涙を流すかのように。
「セイン、なんで泣いているんですの?」
「私は恥ずかしい……。姉上の覚悟を見誤っていました……。本当に、未熟者です……」
「いいんですのよ。わたくし、昔からよく『本気で言ってるのか?」って周りにいわれがちですから」
肩を抱き、慰め合う姉妹。
……流石に今のを聞いて、置いていくってのは、俺にはできねぇな。
「わかった。これから先も一緒にいてくれ。……強くなるぞ」
俺の言葉に、姉妹は静かに頷き返した。
二日後、挨拶と準備を済ませた俺達は、ヴルミナの街を後にした。
物語的に、ここから後半戦の突入します。
異世界モヒカン転生は10万字程度で終わる予定です。
宜しければ、今後とも宜しくお願い致します。




