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20.祝勝会

「カンパーイ!!」


 木陰の休息亭の酒場で俺はカインズとその部下二人と祝杯をあげていた。

 山賊退治が順調に推移している祝いの席だ。俺は状態異常無効なので酔わないのだが、こういうのは雰囲気が大事だと思う。


「いやー、カーンの旦那のおかげで治安がめまぐるしく良くなってますよー」

「ほんとほんと。まさか二ヶ月で凶暴な山賊団を殆ど壊滅させちまうなんて、信じられませんよ!」

「この前の剛剣のロッグの報告書読みました! 俺も現場に行きたかったッス! あ、あと弟がサインくださいって言ってます!」


 部下の一人が色紙を取り出してきたので、俺はスラスラとサインをする。サインは断らない主義だ。あと、天使の能力のおかげで読み書きは問題ない。


「確かに派手に暴れちゃあいるが。俺一人の力で山賊を狩れてるわけじゃねぇんだけどなぁ」


 役所で山賊退治の依頼を受けて二ヶ月あまり、俺達は他の傭兵達やヴルミナの兵士と連携して次々と山賊団を潰していた。

 最初は馬車の護衛をしておびき寄せたり、噂を元に山中を偵察したり大変だったが、仕事が進むにつれて精度の高い情報が集まり、仲間達との連携も強まったおかげで、最近は大分捗るようになった。


「基本は俺が魔法の援護を受けて突っ込んで。ライクレイ姉妹が魔法で隠れて潜入。後ろに控えた仲間がダメ押しして終了。仲間あってこその成功だ。俺の力じゃねぇ」


 つまるところ、山賊のアジトを見つけだし、俺のチートな実力と数の暴力で蹂躙していったわけだ。バギーの移動速度と妖精の隠れ身の魔法が随分役に立ってくれた。

 ちなみに、バギーに関しては「なんか凄い魔法の馬」ということでみんな納得してくれた。


 なんでも、シーニャのような優秀な魔法使いは珍しいらしく、魔法の道具に関する人々の知識も非常に曖昧としたものらしい。


「それにな、現場に出るだけが戦いじゃない。カインズ、お前と部下の情報収集と事前の準備が無ければ、もっと苦戦してたと思うぜ」

「カーンの旦那……」


 感極まったように涙目になるカインズ。隣の部下二人など既に泣いている。

 実際、カインズは有能だった。情報を集め、精査してこっちに渡すし、戦いに出る際の支援物資は十分整っている。何より、報酬が問題なく支払われている。


「とにかく、俺達は全員、いい仕事をしたってことだ」

「ええ、本当に……。俺もようやく街に貢献できたと思います……」

「うぅ……兄貴、良かったなぁ……」

「これでサチェレちゃんが振り向いてくれればなぁ……」

「それを言うなよ……」


 そんなわけのわからない雰囲気のまま、俺達は飲み続けた。親父さんも嫌な顔をしていない。山賊が減った影響はわかりやすく表出し、街へやってくる人が増えている。この宿も、客がちょっとだけ増えた。

 

 そのまましばらく飲み続け、泥酔したカインズの口からその発言が出た。

 

「それで、カーンの旦那。あの二人とはどうなってんですか?」

「なんのことだ?」

「イヤだなぁ。シーニャさんとセインさんのことですよ。ヤリまくってんでしょう? そうなんでしょう!」


 こいつ、酔っ払ってとんでもないこと言い出しやがった。

 俺は杯のエールを飲み干して、落ちついて言葉を選んで言った。


「なんでそう思うんだ?」

「いや。だっていつもカーンの旦那と一緒だし」

「宿も一緒ッスよね。この街に来る前も一緒だったッス」

「……確かに、そういう風に見られても仕方ねぇかもしれねぇな」


 そういうのを考えたことがないと言うと嘘になるが。俺は天使。欲望は制御できる。それに、そもそもこの世界の住民じゃないし、モヒカンだしで、二人にとって、そういった感情の対象外だと思っている。


「あの二人はあくまで仕事の相棒だ」

「え……そうなんですか」

「意外と真面目ッス……」


 部下二人が驚きの目で見ていた。俺をどんな人間だと思ってたんだ。いや、そこは見た目どおりに解釈してたわけか。こいつら悪くないな。


「なるほど。カーンの旦那は、あの二人を大切に思ってるわけですね。わかります。わかりますとも……」


 俺もサチェレが大事ですから、と聞いてもいないことを言い出すカインズ。なんだこの状況は。


「旦那旦那! そういうことなら、女! 紹介しますよ!」

「後腐れがないやつッスよ!」


 こいつらも相当飲んでやがるな。なんでそんな話になってんだ。


「……後腐れがない、か」


 ちょっとだけ、それも悪くないと思った。日本に帰れば記憶も失うと神様は言っていた。なら、刹那的な享楽に耽るくらいいいんじゃないか、と。

 制御している欲望を解放し、夜の街に繰り出す楽しみに頭を巡らせる。

 悪くない、それも悪くない……しかし……。


「いや、やめとくわ……」

「えぇっ!」

「ナンデ! もったいないッスよ!」


 俺はいつの間にか空になっていた杯を親父さんに渡して、静かに言った。


「…………あの二人に嫌われたくないんだよ」


 横で静かにしていたカインズが「ちげぇねぇ、確かに俺もサチェレには嫌われたくねぇや」と言っているのがちょっとうざかったが、全員納得してくれた。


○○○


 その後も思う存分酒を飲んでカインズが酔いつぶれた段階で、宴はお開きになった。部下二人はカインズがつぶれた後に送っていけるよう酒量を調節していたらしい。できた部下だ。


「さて、俺も寝るとするか……。親父さん、騒がしくして、悪かったな」

「酔っ払いの中じゃ大人しいほうさ」


 親父さんに別れを告げて、席を立ったところで、部屋の隅にいる二人組に気づいた。

 セイン・ライクレイと宿の一人娘のサチェレである。

 サチェレは給仕で動き回っていたので居た記憶がある。いや、客が減ってから見かけなくなっていたな。


「何してるんだ。お前ら」

「……ちょっと、夕食と……えっと、親睦会を」

「そう。親睦会。親睦会です! 乙女の!」

「そ、そうか……」


 なんか、かなり取り繕っているが、面倒なので追求するのはやめよう。


「ところでカーン殿」


 部屋に戻ろうとしたところで、セインが声をかけてきた。


「男の友情とは、良いものですねっ」


 なんか目をキラキラ、肌をツヤツヤさせながら、そんなことを言われた。見れば、サチェレの方もコクコクと首を振りながら、似たような顔をしている。


 セイン・ライクレイ。ステータス鑑定の示すところ、「腐女子L8」。

 ……こいつら、まさかっ。

 悪いとは思いつつ、俺は素早くサチェレのステータスを鑑定した。



【サチェレ】

種族:人間

職業:宿屋の娘


力 :12

魔法:0

速さ:15

防御:8

魔防:0


スキル:

・宿屋の従業員L5

・腐女子L5


備考:セイン・ライクレイの持ち込んだ本を読み汚染された。



 驚くべき事実だ。この世界では、もう汚染が始まっている。俺にはどうしようもない、汚染が……。

 さてはこの二人、俺とカインズで思う存分妄想した後ということか……。


「二人とも……そういう趣味は否定しねぇが。ほどほどにな」

「なっ……えっ?」

「バ、バレ……て?」


 色々疲れた俺は、驚く腐った乙女二人を置いて、とっとと部屋に帰って寝た。

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