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11.曇り山で見たもの

[カーンのノートへの記述]


 妖精達に隠れ身の力を貰うために、曇り山という場所の魔物退治をすることになりました。 ちょっと思ったんですが、こっちの世界で過ごすうちに日本の僕が死んじゃうとかはないですよね?

 あと、この身体になってから性格が変わった気がするのも気になります。


[神様からの返信]


 大丈夫です。時間の関係はどうにかできます。その点は安心してください。

 性格の方は、もともとの人格が曖昧なところに現在の身体に入ったので少しそっち寄りになったのでしょう。

 全てが上手くいけば、転生のことも忘れて元通りになりますのでそちらもご安心を。


○○○


 妖精の里を出た俺達は、岩が目立つ丘陵地帯を徒歩で歩いていた。

 姉妹は馬を放してしまったし、俺のバギーは一人乗りだ。無理矢理乗せても二人まで。

 仕方ないので歩いて現場に向かうことになった。幸い、曇り山は遠くない。今度、神様に姉妹の分のバギーもねだってみるか。


「あれが曇り山か」


 俺達の前に平らな山頂を持つ岩山が見えてきた。山としてはそれほど高くなく、山腹にある枯れ果てた木の数々が不気味な雰囲気を放っている。


「長老の話では、儀式場のあたりにシャドウ・リザードとやらが住み着いているそうですが」

「別のものも住み着いているように見えますわね」


 姉妹の台詞は、山に近づくにつれて、登山口以外のものの存在が見えてきたためのもの。

 俺達はその辺の岩に隠れて、観察する。


「……なんか、小さい人間というか、いかにも悪そうな奴がいるな」


 登山口近くの平地に、雑な作りの柵で囲った集落があった。

 俺の目には背が低く、尖った耳をした、色黒の化け物が沢山いるのが見えた。


「見えるのですか、カーン殿」

「人影らしきものが動いているようにしか見えませんですの」


 言いながら、シーニャが軽く杖を振って、岩から化け物の集落を覗き見た。


「……ゴブリンですわね。それにしては、色黒ですわ」


 ゴブリン! ファンタジーの雑魚モンスターとして良く出てくる奴か! 


「色黒……。邪悪な魔物の放つ瘴気の影響を受けると体色がそのように変わるといいますが」

「シャドウ・リザードとやらの影響か?」

「何ともいえませんわ。シャドウ・リザードという魔物は聞いたことがありませんもの」


 シーニャが首を振る。どこにでもいそうな名前な癖に博学な彼女も知らない魔物「シャドウ・リザード」、一体どんな魔物なんだ。


「さて、どうする?」


 ここでシャドウ・リザードについて話しあっても仕方ない。とりあえず決めるべきは、あのゴブリン達をどうするかだ。

 セインが剣を抜きながら言う。


「退治してしまいましょう。通常と体色の違う魔物は凶暴なことが多いのです」

「ゴブリンは繁殖力も凄いですからね。数を増やすと妖精達の脅威になりますわ」


 姉妹そろって同意見か。


「話し合いが通じる相手にも見えねぇしなぁ……」


 集落の中を見ると、ゴブリン同士で殴り合ったりしている。流石に声は聞こえないのでどんな話をしているかわからないが、知性も品性も理性も感じない。


「カーン殿。ゴブリンとの和解は不可能です。あれは人間の敵です。巣を見つけ次第殲滅する国もあるくらいですよ」

「ふふ、カーン様はお優しいですわね。大昔のゴブリンは人間と話し合えるくらいの知性があったといいますけれど、今は無理ですわ」

 

 この世界の常識的に、俺の判断はNGだったようだ。

 ここは作法に従っておくとするか。


○○○


 とりあえず作戦は奇襲とした。俺がバギーでゴブリンの村に突入し、「汚物は消毒だー!」とやって、後から駆けつけた二人と協力して残りを殲滅。

 集落の規模的にゴブリンの数は50匹程度。シーニャが言うには「わたくし達なら余裕ですわ」とのことだった。


 そんなわけで、俺はバギーを呼び出して、ゴブリンの集落に正面から突入した。

 火炎を使う予定なのでサングラスをつけるのも忘れない。世紀末スタイルの完成だ。

 

「じゃあ、行ってくるぜ」

「無用な心配だとは思いますが、お気を付けて」

「わたくし達が到着する前に片づけてしまわないようにお願いしますわ」

「そいつは奴らに聞いてくれ」


 俺はゴブリンの集落を不適な笑みを浮かべながら指さしてから、バギーのアクセルを全開にした。

 愛車が(内燃機関でもないのに)頼もしい咆吼をあげ、蹴飛ばされたように加速する。

 数百メートル先だったゴブリンの集落まで一瞬だ。

 突然の轟音に集落の外側にいたゴブリン達が滅茶苦茶驚いている。


 俺はバギーで粗末な柵を突き破って村に突入すると、色黒なゴブリン達が続々と集まって来た。手には粗末な作りの槍や弓矢を持っている。

 数はだいたい二十くらいか。今も増殖中だ。

 戸惑いと怯え、そして明らかな敵意が俺に集中する。


「よう、はじめまして。そしてさよならだな」


 俺は斧を取り出して、ゴブリン達に向けた。

 弓を持ったゴブリン達が矢をつがえ、引きしぼったのを見てから、その言葉を叫ぶ。


「汚物は消毒だああぁぁ!!!」


 斧の先端が光ったと思うと、目の前が爆発して炎に包まれた。

 ゴブリン達は吹き飛ばされ、炎に包まれてのたうちまわる。

 一撃でほぼ全滅だ。


「お、おう……」


 想像以上に凄惨な光景を出現させてしまい、自分にドン引きである。目の前にいるゴブリンを一掃と思って斧を使ったらこれだよ。


「ん……まだやる気なのか」


 見れば、生き残りのゴブリン達がこちらに弓を構えていた。これだけの光景を見れば撤退しそうなもんだが、知性が無いのか仲間の敵討ちに燃えているのか、それとも両方なのか、俺にはわからない。

 しかたない、戦闘続行だ。


 そう判断しつつ、飛んできた矢を斧で弾き、バギーから降りたところで援護が来た。

 光の矢が三本。ゴブリンに向かって飛んでいった。

 俺の目には捉えられる速さでも、ゴブリンはそうではなかったらしい。そのまま弓ゴブリンが三匹、光の矢を受けて絶命する。


「お見事です、カーン殿!」


 叫びと共に、抜刀したセインが飛び込んできた。そのまま集落の奥へと走り込んでいく。


「セインの後に続いてくださいな。あの子は勘がいいんですの」

「お、おう」


 続いてやってきたシーニャに言われ、俺は走り出す。バギーをキーに戻すのも忘れない。

 セインが向かった方向からは早くも戦いの音が聞こえていた。


「ゴブリン……撤退しないのか」

「人間ならば迷わず逃げる場面でも、興奮したゴブリンは戦い続ける習性があるんですの。群れが全滅するまで戦うことも珍しくないんですのよ」

「マジかよ……」


 この世界のゴブリンはバーサーカーか。


「行きましょうカーン様。まだ十匹以上残ってるはずですの」

「……了解した」


 初めてのゴブリン狩りに戸惑いつつも、俺はライクレイ姉妹に従う形で戦いを繰り広げた。 

 その後、ゴブリンの集落は俺達三人によってあっさり壊滅した。

 時間にして三十分もかからない、短い戦いだった。


○○○


「やはり、普通のゴブリンではありませんね。瘴気に侵されています」


 掃討の終わった村で、黒いゴブリンの死体を調べたセインがそう断言した。

 彼女は比較的綺麗なゴブリンの死体を見つけると、それに対して祈ったり、聖水をかけたりしていた。死体はそれらの行為に黒い煙を出して敏感に反応していた。

 つまり、勘とか見た目では無く、それなりの調査をしての発言だというこだ。


「言われてみれば、嫌な感じがするな」

「わかるんですの?」

「何となくな」


 多分、俺が天使だからだろう。黒いゴブリンの死体をじっと見てると妙な不快感がこみ上げてくる。本能的にこれは良くないものだとこの身体が告げてくるのだ。


「問題は、瘴気に侵されたゴブリンは自然発生しないということです」


 そう言うと、セインは自分の剣に祈りを捧げた。すると、血に塗れた刀身が瞬時に綺麗になる。便利な魔法だ。


「瘴気の主がいるということですわね……」

「それも間違いなく、この山にな」


 推測するまでもないことだ。妖精達が言っていたシャドウ・リザード。名前から言って、そいつがかなり怪しい。


「麓に住むゴブリン達に影響を与えるくらいの瘴気を振りまく魔物です。警戒したほうが良さそうですね」


 セインの言葉に俺とシーニャは静かに頷いた。


 さて、思ったよりも厄介なお使いになりそうだぜ。

この世界のゴブリンは倒すべき敵です。

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