05-21 激震!! 三河一向一揆③
「急ぎ、仕度を整えよ!! 我等も他国に目の敵にされているのだからな!!」
夕暮れ時に近付き、茜がかって来た津島山城の一階層で信長の声が響き渡っていた。
彼等は三河で一向一揆が起きてしまった事から故郷である尾張においても一揆が起こることを恐れ、尾張に帰還するグループとして織田家当主である信長は勿論の事、それに付き従う3000人強の足軽達も慌てて帰り支度をしており。
その付き添いとして中部地方の左半分を拠点とする大名達との交渉人として秀吉と秀長、そして亮太により召喚されたイトウヒロフミが同行する事となる。
「猿よ、貴様が見せたいと話していた乗り物とはあの【鉄の箱に車輪がついた物】なのか?」
「はい!! あの輸送車両は45人程の人員を一度に運べるだけでなく、敵の攻撃から身を守りつつも馬よりも早く移動する事が出来るのです!!」
そう自信満々に言う秀吉に紹介された物は、亮太により用意された機動隊用の警備装甲車両《Rank,SR》であり。
道が粗い日ノ本での運用を考えて性能の良いサスペンションや、悪路を通るための大きめのタイヤを履かせて観光バスの様に車体を大きくしつつも、心地よい座り心地の2座席が10セット並んだ列が両側に2つある40個の座席を備え。
一番後ろにも横並びに5座席を増設する事で、良くある観光バス風にしてしまった物を移動手段として使用する。
秀吉はその魔改造された【警備装甲車両】を尾張の足軽達皆が乗って帰れるだけの必要数である67台を用意する為、津島村に重機や人員を送り込んで来た時と同じ様に亮太と協力して軍港から【エア・クッション型揚陸艇】を用いて時間を掛けて帰り道に繋がる大通りまで運び込んで来ると言う大胆さを見せ、尾張と三河の兵士達は再び度肝を抜かれる事となる。
「ささっ、皆の衆!! 遠慮無く乗り込んでくれ!!」
「こ……こいつはいったい……」
「おおっ!! 中には沢山の椅子が置いてあるぞ!!」
「まさか、これだけでかい鉄箱を馬に引かせていくんじゃ無いだろうな?」
そんな様々な感想が漏れ出す中で秀吉は声をあげて説明する。
「さあさあ、遠慮無く乗り込んでくれ!! 皆をここまで連れてきてくれた馬達も後でちゃんと清須まで送り届けるから安心してくれよ!!」
そう言って今まで見たこともない乗り物に戸惑う足軽達を誘導しつつ、秀吉は装甲車両の後方に並べられた武器や資材等の運搬用に用意した陸軍用の四台の大型トラックを見やる。
(競走馬だと6頭までしか乗せられないが、皆が乗ってきた1000頭近い馬は小馬であるから8頭は乗せられそうじゃのう……。しかしそれだと125台ものトラックを必要としてしまう……うーむ……)
「秀吉殿。随分とお悩みの様ですね?」
そんな悩み事をしている秀吉の元に紅葉を思わせる色鮮やかな甲冑を身に纏った、長く美しい赤髪を持つ凛々しい美女が声をかけて来た。
「おっ、貴方は……」
「初めまして秀吉殿。私は秀吉殿の護衛として就くこととなった【ミナモトノ・ヨシイエ】と申します、以後お見知り置きを」
思わず周辺にいた足軽達も見とれてしまう程に美しい彼女は父方が源家、母方が敵対関係になる平氏に属する親から1039年頃に産まれた【天下第一武勇の士ヨシイエ】であり。
彼女は伝説によると数々の武勇を挙げつつも軍略も学び、最大の激戦となった【金沢柵の戦い】では敵の拠点が強固である事を見るや周囲を包囲し兵糧攻めに切り替える事で敵を降伏させる事に成功させている。
これは敵の補給を絶つ兵糧攻めが行われた初期の事例であるらしく、降伏して来た敵を感情に流されずに淡々と処刑した事で後の戦況が彼女側に良くなり、勝利を掴む事に関しては彼女の実力が頼れる物である事が良くわかる。
「よろしければこの馬達を私に任せては頂けないですか? 今よりも立派な馬に成長させてから織田様に御返すると言う約束であれば、織田様も納得されると思いますし」
「馬を育成するのですか?! うーむ……確かにそれならば次回移動に用いる際のスピードも良くなるし、これからの事を考えると……うーん……」
「この馬達をお前達が貸してくれた立派な馬の様に成長させる事が出来るのか?」
そんな腕を組んで悩んでいる秀吉であったが、後方で話に耳を傾けていた信長が話を進める為に割り込み、その質問に対してヨシイエは微笑みを浮かべて頷く。
「はい。五日も頂ければ、後ろにいる1000頭近くいる小馬達を立派な馬にして見せますよ」
「ふむ。であるか。よし、では御主の手腕に任せるとしよう」
「はっ。有り難き幸せ」
「え、ええええ!? そんなに簡単に決めてしまっても良いのですか?!」
そのトントン拍子で進んで行ってしまった話し合いに思わず秀吉が困惑している内に、信長は64台用意された警備装甲車両の内の先頭車両を目指して歩いて行ってしまう。
「何故お前が驚く。お前達が敵対関係に無い内はなるべく意見を聞き入れた方が特だと思っただけだ。さあ、行くぞ猿!」
「は、はい!!」
そんなこんながあり、津島防衛の為にかき集められた4000人からなる信長の軍団は1000人を松平家の増援に、そして残りの3000人を尾張防衛の為に分割する事となり。現地には元々駐留していた1000人近く居る織田家に属する人達が残る事となる。
そんな津島から東側の道を通って長い列を作りながらも去っていく信長達の背中をフルフェイスヘルメットを脇に抱え、黒い機動隊防具セットに赤いマントと言う出で立ちをしている弟の信勝が津島山城のある津島山の四回層目の展望台に立っており、同じく防具を身に付けている柴田勝家と共に見送っていた。
「……なるほど、南蛮には馬に引かせる馬車と言う物があるとは聴いておったが……。まさかあの様な巨大な鉄の箱を用いるとは思わ無かったのじゃ……。ふっ、とことんワシ等の常識を飛び越えて行く奴等よのー」
「私はもう驚き過ぎて頭痛がしなくなって来ましたよ……。処で信勝様、信勝様は彼等の事をどうお考えですか?」
「……ワシが持つ彼等の印象を聴きたいのか?」
突然声を潜める様にして意味ありげな質問をしてきた勝家に対して、信勝はまるで竜の様に津島から離れて行く警備車両の列から目線を逸らさずに落ち着いた声で聞き返す。
「はい。彼等は我々よりも遥かに進んだ文明と能力を持ち、廃墟となった町を半日も掛からずに以前よりも格段に優れた町へと復興させてみせました……。そうなると彼等は……!!」
そこから先の言葉を勝家は言い出せずに思わず拳を握り締めていた。
「……そうじゃな、ワシ等が束になっても……いや、日ノ本中の強豪達が挑んでも敵わぬ相手であろうな」
「信勝様……彼等が油断している今こそ彼等の知恵と力を出来るだけ吸収し、その力の差を埋めるべき時であると私は思うのです!」
その勝家の言葉を聴いて初めて信勝は右隣にいる勝家に視線を合わせる。
そしてその目は何時もの明るい彼からは信じられない程に冷たく、何も見えていない様にすら見える濁った目をしており。信勝から出されるその不気味な覇気は勝家ですら思わず息を飲まされる程であった。
「勝家……ワシ等は生き残るために多くの命を奪ってきた……。最早、極楽浄土にはとても行けぬ身分である事も理解しておる。じゃからこそだろうかな……部外者である彼等ならば生き地獄と化している日ノ本を兄上と共に、正しい国の姿へと戻してくれるのではないかと柄にもなく期待し始めてしまっておるのじゃ……」
そう言って濁った瞳のまま微笑みを浮かべた信勝はまるで風に吹かれて消えそうになっている蝋燭の火の様であり、自らの益を棄てて誰かの為にその命を生かそうとしている者特有の自暴自棄に似た信勝の理論を聴いた勝家は声を荒げて否定する。
「何をその様な弱気な事を言われますか信勝様!! 貴方はまだ年若く、今まで打ち倒して来た者達の為にも日ノ本を変えて行かねばならんのでしょうが!!! この勝家、信勝様が地獄に隠れようとするのであれば、私が地獄よりも忙しい日ノ本へと何度でも連れ戻して見せましょう!!!」
そのとんでも無いが勝家らしい説得を受けた信勝は驚きの余り数秒ほどキョトンとした表情になったその後、口元を緩めつつ、視線を足下に向けながら笑いを堪えている様な声を漏らし始める。
「く、くくくく……。実に、実に勝家らしい言い分で有ったわ……」
「の、信勝様?」
思わぬリアクションを見せられ戸惑う勝家を展望台に残し、勝家はゆっくりと外へと歩いて行く。
「勝家、ワシは兄上よりも色々と面倒くさい者じゃ。そんなワシの事を決して見失わぬ様、しかとその眼に焼き付けておいてくれ!!」
そう言って赤マントを風に靡かせながら歩いて行く信勝の足跡には水の雫が落ちており、ぽつぽつと地面が湿っていた。
「……はっ、この勝家が何処までもおとも致します」
その雨の理由にちゃんと気がついている勝家はただそう言って自らの命を預かる、儚くも力強い光を放つ主君の後に続いて歩いて行こうとするのだが……。
「信勝様!! 残されたワシ等はどうすれば良いのですかみゃ!」
「信勝様!! 軍港に松平家の者達が集まっているそうですみゃ!! ワシ等も行きましょう!!」
「信勝様!! あっ、呼んだだけですみゃ」
「信勝様!! そのド派手な格好で森に行くのはどうかと思いますみゃ!!」
信勝の帰りを待ちわびていた1000人近い織田家の足軽達が下の階層から上がってきて、アスコミの取材の様に信勝を取り囲んで質問責めを始める。
「ええい!! やかましいわ!! ちゃんとトレノ殿からこれからの予定を預かっておるから安心せい!! 後、ワシの事をからかっていた奴は後で利休の渋い録茶を鼻から飲ませてやるから覚悟しておけよ!!?」
そう言って両手を挙げながら信勝は信長によって購入して貰った防具を身に付けている1000人の足軽達を宥めつつ、無意識に微笑みを浮かべていた。
「ふっ……」
そして彼等の先頭を歩いていた信勝はおもむろに立ち止まって振り返り、頬に指を当てながら彼等に問い質す。
「ところで、何処で待ち合わせだったっけ?」
「ズコーー!!!」
そんな締まらない上司に足軽達が声をあげる。
「亮太殿達が軍港に来て欲しいと仰っていたじゃないですかみゃ!!」
「そうだみゃ!! そうだみゃ!! 信勝様は締まりが無いですみゃ!!」
「だが殿はそんな所が良いですみゃ!!」
「ははははは!! すまんすまん!! ついついボケてしまってのう!!! じゃあ軍港に向けて走っていくのじゃー!! ワシに続けぇーい!!」
「おおおおお!!」
そんな何時もの調子を取り戻した信勝を見た勝家も気がつけば微笑みを浮かべており、彼も不器用ながら思いやりのある殿の後に続いて行くのであった。
ーーーーー◇ーーーーー
信勝達が勢いのままに津島山城の四回層から下山を始めたその頃、信勝達よりも先に軍港に案内されていた元康と松平家の面々は目の前にある軍港に停泊している巨大な“沈まない豪華客船”と、“甲板が平べったい鉄の船達”に圧倒されていた。
「これだけ美しくも巨大な船と平な形をした異形の船は見たことが無いですね……」
そう言って呟いているのは軍港内にある十箇所の船着き場に停泊している大きな艦船達を初めて見て驚いている松平元康であり、彼女の両脇には既に軍港内を案内して貰っていた酒井忠次と石川数正がおり。
その後方には500人からなる足軽達がここまで自分達を連れてきてくれた小馬に跨がって追従している。
「姫様。彼等の話によれば我々はあの綺麗で美しい【タイタニック号】と言う巨大な船に乗って、話し合った通り、今は松平家と友好関係にある飯尾連龍が城主を勤める、引馬城(現在は浜松城)がある浜松港に向かう事となっております」
三河での緊急事態が発覚した事で松平家と織田家、そして亮太達との3ヵ国間で行われた話し合いの結果決まった事を改めて告げる忠次の言葉に頷きつつも、元康は不安を拭えないでいた。
「城主である飯尾さんは今川に付くか、甲斐に付くべきか悩まれていると言う話を聴きましたが……。そんな所にお邪魔しても大丈夫かな忠次?」
元康が不安を覚えるのもその筈、実は桶狭間の戦いが起こる以前まで浜松は今川家が取り仕切っていた管轄であり。現在は松平家の陣地として織田家がこれからの松平家の事を考えて切り分けてくれた港町なのである。
その為当たり前だが浜松に置いては未だに今川家の支持者が多く、はっきり言って反乱者の鎮圧と言う名の本に松平家の協力者を皆殺しにしようと企んでいる今川家が襲い来るであろう浜松町に行くと言うのは、正しく【火中の栗を取りに行く】と言う言葉がぴったりな状況であった。
「……どのみち浜松町を押さえなければ、三河の左半分が反乱者達に押さえられつつある現状況を考えますと、そのまま右側までもが奪われてしまい。後に来るであろう今川家の者達に何か理由をつけて土地を取り押さえられてしまえば我々は再び故郷を奪われてしまいます……。悲しい事ですが、この大船に乗り込む事しか非力な我等に選ぶ選択肢が無いのです姫様……」
悔しげにそうつぶやく石川数正をすかさず元康が励ます。
「今は耐えねば成らぬ時なのですよ数正。喜ばしい事に私達は完全に孤立している訳ではなく、頼れる仲間がいます。生き延びられれば必ず桶狭間の時の様に好機を手にする機会に出会える筈です!!
「姫様……」
その説得は数正だけでなく後ろにいた不安に包まれていた足軽達の心にも響いており、元康もそれに気がついた様子で震える声を何とか張りながら激励を送った。
「だから……今はとても悔しいと思いますが、同じ思いをもつ仲間達と共に耐え抜きましょう。私達は何も諦める必要は無いのですから」
「我々は姫様に続きます!!」
「そうだ!! 諦める必要なんて何もないんだ!!」
「あしき者達から故郷を必ず取り戻しましょう!!」
そうして意気を取り戻した元康に使える三河武士達は声を挙げて士気を高めて行く。
「松平家の皆様ですね?」
そんな一連のやり取りを実は遠めから真剣な表情で見ていた、金色の装飾が袖口についている黒い船長服姿をした、羊の様なモコモコとした白い髪とモミアゲと髭と顎髭が一体化している初老の男性が元康達の元に歩いて来た。
「あ、貴方は?」
突然背後から声を掛けられた事もあり、肩をビクンと震わせてから声の主に元康は慌てて振り返った。
「始めましてお姫様。私は、皆様をハママッツ・ハーバーまで送り届ける事となっております【オリンピック級客船タイタニック号】船長のハリスンと申します。以後お見知り置きお」
そこには帽子を取って胸に当てて敬服しているハリスンの姿と、その後方には接客を勤めるタイタニック号の300人近いタキシードや、メイド服姿の白人の船員《Rank,R+》達が同じく敬服しながらずらりと並んでいた。
「あわわわわ!? わ、私達こそ御世話になります松平家当主の松平元康と申します!! よろしくお願いいたします!! 皆さんお顔をおあげください!!」
そう言って慌てて挨拶を返した元康に習い、ハリスンを含めた船員達は顔をあげて、お着きを持ちつつも穏やかな表情をしていた。
「御互いに積もる話は有るとは思いますが、最高のおもてなしで少しでも皆様の心労を和らげる意味でも皆様を御迎えしたいと思っておりますので、どうか寛いで行ってください」
良く南蛮を含め、外国人達は日ノ本の人達を差別していると言う話を聴いていた元康達は彼等の親切な態度に安堵すると同時に、目の前に山の様に聳え建つ、実は大鑑として有名な【戦艦大和】に近い269.1mと言う全長を持っている【タイタニック号】へと視線を移す。
「……私達、こんなに素敵な船に乗れるんだ」
元康を含め、日ノ本の人達から見てもその高貴さと、大きな夢を与えてくれる様なインパクトを持つタイタニック号を見た彼等は思わず頬を赤らめつつ、松平家の面々はハリスン船長の案内に従って初めて西洋の船に乗り込んでいくのであった。
【改造費用】
◇警備装甲車両《Rank,SR》×67台分→《Rank,SR+4》【268×10,0000SP】
・車体の軽量化+1
・車体の大型化+1
・座席の追加+1
・足回りの強化+1
【合計改造費用】-2,6800,0000SP
◇豪華客船タイタニック《Rank,SR+6》→《Rank,SR+10》【ー40,0000SP】
・エンジンが小型かされた事と、蒸気機関に必要だった石炭を保管しておくスペースを取り除く事で空きスペースを確保する事が出来たので、後部甲板にエレベーターが内蔵されたヘリポートを一基造り、その下の階層には格納庫件整備場を造ります。+1
・色々と丸出しだった操舵室を取り除き、大きな船橋(船舶の高所に設けられた操船に関する指揮所)と機関室を増設する。+2
・新たに階層を増やして、皆が利用出来る温泉施設の拡張を行います。(元々タイタニック号には塩水が淹れられたスイミングプールや、サウナ室等が少数有りますが一等客室を使う貴族達等が優先されて利用していた可能性が高い為)+1
◇資金:451,5449,7562SP-3,0800,0000SP=448,4649,7562SP
・警備装甲車とタイタニック号の改造プランと費用を追加致しました。(2月19日)
・一週間近く御待たせしています次話なのですが、現在8割程が完成していて仕上げに掛かっていると言う事と、現在私自身のプライベートが色々と忙しくなり始めていまして少し時間を取ることが出来ずにいます。
なので今までの様に“三日に1話投稿”ではなく、“二週間に二話”投稿を目指して行きたいと考えていますので御了承して頂ければ助かります。




