04-17王女は民のために
亮太達がヴァルハァム海軍の者達と和解していたその頃、アフリカ大陸で言う所のスーダンに当たる大ヴァルハァム王国の首都タムールは、何時もと変わらぬ夕食時を迎えていた。
黄金で造られた目を引く大きな宮殿が見える街の中心地では、夕食の素材を買いに来た大勢の現地の人々や、海外からやって来た者達が優秀な奴隷達を買い付けに来ていたり。
道化師達がそれぞれの特技を生かしたショーを行っていて大きな賑わいを見せている市場があり。
その光景を宮殿の一番高い場所に造らせた部屋のバルコニーから、高級品である赤紫のあまぬのときらびやかな宝石達を身に纏い、やたらに濃い目のメイクを施している王女イザベラは見下ろしていた。
「ふふっ。廃れていた砂漠の街も、私のおかげで本当に豊かになったものだわ……」
彼女の言う通り、数年前までは格差社会が無い代わりに目立った所も無い国であったヴァルハァム王国は、今や広大な大陸全土を支配する超大国となっており。
ヴァルハァムの国民達には魔石や、大量の忠実な奴隷達等の労力を確保できた事もあり、奴隷達から奪い取った多大な富と豊かな資産が民等の心を奪い。
そのとつもない影響力の恩恵を得られている故に、イザベラがどれだけ悪魔の様な事を行っているかを知っている者達でさえその富が手放せなくなり。彼女を追求する者は国民全体を敵に回してしまうと言うとんでもないリスクを負わなければならなくなる事を怖れて、にこやかに顔色を伺いながら従うしか出来なくなっていた。
それは特に彼女が王の心を奪い、一騎当千の化け物じみた力を持つ3人の転生者達を味方につけている事も関係しており。
彼女に逆らう者は最早現れないであろうと考えられ始められていたのだが……。
「イザベラ様!! 緊急連絡にございます!!」
「騒々しいわね……。そこで述べなさい!!」
突然彼女の寝室に突然慌ただしく若い兵士が声を荒げて、純白で金の装飾が施されている二枚扉越しに緊急連絡を伝えに来た事から、彼女が迎えていた絶頂期は緩やかな坂のように静かに下火へと向かい始める事となる。
「はっ。極秘に行われていた例の作戦が失敗し、反抗を企てていた陸軍は生き残るだけに及ばず増援部隊の報告によれば、先行していた海軍の部隊との交信が途絶えたとの事でして!! そして……その……」
「どうしたの!? まさかこれ以上に何かあると言うの?!」
思わず言い淀んだ兵士に対して、内心動揺が隠せていないイザベラは脂汗を額に滲ませながら続きを促す。
「はい! それが……我等が進行を行う予定であった西側の大陸との旧国境付近に、砲弾すら弾き返す見えない壁が突然現れた為に通行する事が出来なくなってしまった様でありまして。
原因は現在も調査中なのでありますが、奴隷とされていた筈のその地にいた大勢の現地住民達が各地で突然姿を消してしまったと言う報告も有りまして……。そして、一通の手紙が届けられております」
「手紙ですって?! も、勿体ぶらずに内容を言いなさい!!」
「手紙の差出人は……かつてこの地を平和的に納められていた王女ナバルを名乗り、自分達の事を新生ヴァルハァム王国の王女であると名乗っているそうです……。王女様?」
その重大な一言を聴かされたイザベラは驚きのあまり、捌かれる前の魚の様に思わず口を開けたまま言葉を話せなくなってしまい。心配になった兵士が声をかけた所で、部屋の中から物を壊す音と彼女の金切り声が聴こえてきた。
「おのれッ!!! おのれッ!!!おのれぇぇぇぇ!!! 私の前にちらつく汚らわしい田舎女がぁぁぁぁ!!!!」
「ひいっ!!?」
その後も夜までガラスの割れる音や、布を引き裂く様な音と共にイザベラの絶叫は宮殿内に響き渡り続けたと言う。
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その頃、アフリカ大陸で言う所のリビアとチャドから左側に当たる部分を一つの大陸として分離させると言う荒業に出て、イザベラを発狂させる程に脅かして見せた亮太達は何をしているのかと言うと。
無事に合流を果たした王女ナバルと共にヴァルハァム海軍の者達と、廃墟と化していた町を一旦更地にしてから。
功績を評価されて強化された召喚能力を用いて新たに建設されたアンコール・ワットを連想させる周囲を四角い囲いに囲まれた、巨大な宮殿の会議室の様な一室で和解に向けた話し合いをしていた。
「私達は現在行われているイザベラさんの暴走を止め、再び質素となっても平和な世界を取り戻したいと考えています」
「……なるほど。ナバル様はその為にこの地に帰ってこられたと言う訳ですね?」
王族が使う様なやたらに長い大理石で出来た四角いテーブルで向き合う形で、新生ヴァルハァム王国代表である王女ナバルとその娘イスカとその親衛隊、そして説明役の綾瀬が左側に座り。
右側では着替えとして用意されたジャージに着替えている、海軍代表のカルマが部下達を横に並べた形で詳しい話を聞いていた。
「ナバル様はこの地を王女イザベラに追い出され、気持ちを同じくする者達と共にアサツユ国と言う小さな島で生き延びていた所。魔力を別の物として産み出すと言う召喚能力を編み出し、この地へと再び来られた訳です」
その色々と味付けをさられた綾瀬の経緯を聴かされたカルマ達は、しばし思考にふける。
「……確かに、何もなかった砂漠を緑溢れる地に変えて、30隻以上の軍艦を収容出来る軍港を陸地の外側に沿うように造られたのには度肝を抜かれましたし……。彼等をここまで連れてこられたのにも……」
カルマが動揺しながら述べた通り、巨人達との戦闘で負傷したカルマ達を助ける為にナバルは先ず船を陸地と接舷させる大規模な船着き場を造って、四隻の艦を頑丈な縄で固定して係留し。
現代と同じく、鼠色のアスファルトが敷かれた陸地に医療チームと4階建ての役場程の大きさの病院を召喚して、負傷者の対応に当たらせた。
その衝撃的な様子を彼等は初対面で見せられたものだから、普通ならば納得しにくい話を助けられた恩もありすんなりと受け入れてくれた。
「我々としても、如何に現在の大ヴァルハァム王国が巨大で力を持つ国で、服従する者に対してはチャンスを与えてくれると言っても。仲間を撃たせて、民を力によって迫害する国には将来性は無いと思っています。
しかし、だからと言ってナバル様達がイザベラと同じ独裁者と成り果てる可能性を捨てられ無い今は、迂闊に仲間の命を差し出す訳には行かないのです」
そのカルマからの経験から出た言葉をナバルは真剣な表情で頷いてカルマの想いを受け入れ、言葉を返す。
「カルマくん。今現在、私が貴方に私の潔白と心の内を証すすべは残念ながら有りません。なのでこうしませんか? 私は貴方を支配下に置いて命令を下したり、鎖に繋ぐ事で拘束する事もしません。あくまでも同じ立場の人間として付き合っていくのです」
その強気な発言を聴いた綾瀬以外の者達は唖然とさせられた。
何故ならそれは日本で言う所の天皇陛下に「私達は対等ですから、御自由にどうぞ」と言われた様なものであり、国を象徴する王女ナバルのその切り返しに思わずカルマは慌てて聞き直す。
「ナバル様! 流石に私の様な一人の兵士が、女王陛下にその様な御無礼は致せませぬ!!」
「あら? もしかしてカルマくんはヴァルハァム王国が元々は小さな村から始まった事を御存知無いのですか? ほら、村長の妻と話すと考えるとまた接し方も違って来ると思いませんか?」
「え……あ、いや……」
「ふふふ、カルマくんは良いお父様とお母様の元で産まれたのですね……。無理を言ってごめんね、久しぶりに出会えたヴァルハァムの民が貴方の様な好青年だったのでついつい嬉しくなってしまいました」
その母性に満ちたナバルの微笑みを見た男達は、彼女が権威を振りかざすイザベラとは考え方が全く違う王女であり。何故小さな村から始まったヴァルハァム王国が、かつては皆から愛されいたかを思い知らされた。
「……司令官殿。ここは王女様の賭けに乗ってみてはどうですか? イザベラは力を行使して国を手に入れましたが、その力も次第に衰えて来ているので後二回ほどしか戦争を行える力が無いと言われておりましたし……」
「それは何処から出た噂なのか詳しく問い詰めてやりたい所だが……残念ながらあながち間違いでは無いとも言えるな艦長……」
その初耳となる情報に思わずナバルは追求する。
「それは本当の話なのですか?」
「はい、陛下。どうやら無闇な軍事力強化により、多くの魔石を消費する軍艦を主力として生産してしまった事と巨大な力を持つ転生者達が突然力を失い始め、魔石をエネルギー源として取り入れ続けなければ衰弱してしまうと言う状況にあるらしく。
この話は極秘中の極秘とされているのですが、イザベラ自身が国を追い出された腹いせに強奪してきた魔石しかストックとして持ち合わせていないため。このまま行けば、後3、4年も持たないと言われておりました……」
「なるほど。彼女も苦しいのですね……。では尚更愛する国民達が見せられている悪夢から覚めさせ、この荒れ廃れている地を豊かにして受け皿とする事は急務となりますね……。ありがとうございます皆さん、お陰様で私が今何をするべきか良くわかりました」
「陛下。その話、我々も御手伝いさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「良いのですかカルマくん?」
「はい。元々私は貧乏な土地から将来を夢見てこの大陸に流れ着いた若輩者です! ですが、どうか此処に連れてこられた戦友達も共に移住させて頂けませんか? 彼等の住む土地は彼等に略奪されてしまっていて、このままだとまたその命を捨て石にされてしまうかも知れないのです!!」
「坊主……」
その必死に頭を下げながら交渉を試みるカルマの姿勢に、共に生き残った海軍兵士達は思わず色々な感情が込み上げてくる。
「駄目だ司令官殿!! 俺達が居なくなれば、残してきた家族や子供達が奴等の手によって殺されるかも知れねぇ!!!」
「何だと?! しまったその事を失念していたか……!!」
「……なるほど。では皆さんの家族の安全を確保すべきですね……ナターシャ?」
一連の流れを汲み取ったナバルは外で待機していた、親衛隊の女騎士ナターシャを呼んで命令を伝える。
「海軍の方達の情報は集め終わっていましたよね?」
「はい。会議を開く前に一通りは」
「ありがとう。では、彼等の故郷に対して軍を同時に進めてください。そして捕らわれている彼等の身内達を全員救出するのです」
「はっ! 承りました!!」
そう言ってナターシャは胸に手を当てて敬礼をした後、素早く廊下の方へと出ていってしまった。
その様子を漠然と見ていた海軍の兵士達も思わず我に帰り、慌ててナバルに声をあげる。
「へ、陛下!! 奴等は占領した町や村を自分達の砦の様に改装しています!! そしてその数は星の数ほどあるのです!! それを同時に攻略する事など不可能ですよ!!」
しかしその反応を見てもナバルの穏やかな様子は変わらず、彼等に「大丈夫ですよ」と微笑んだ後、亮太と同じように32インチ程の半透明なモニターをテーブルの上に出現させて男達の度肝を抜きつつ質問をする。
「よろしければ皆さんの故郷がある場所を指し示して頂けませんか? 地図を触っていただけるだけで大丈夫ですので」
その言葉を聴いた男達は、恐る恐ると言った様子でテーブルの上に写っている大陸の全体地図に触れていく。
すると地図上には赤く丸いマーカーが合わせて168個残り、それを見たナバルは御礼を言いつつ仲間達に指示を出していく。
「皆さん聴いての通りです。現在地図にマッピングされた場所に兵士達の家族達が捕らわれているので、我々は同時に攻撃を開始し、捕虜を救出に成功した班から我々の島に急いで帰還する様に。
そして作戦指揮はハシバおじ様が取られますので、皆さんよろしくお願いいたしますね!!」
その説明を聴いた彼女の兵士達は威勢の良い声をあげて答え、別室にいる若返り青年の姿となっている軍師ハシバがその後を引き継ぐ。
《皆、陛下にご紹介頂いたハシバだ。これより作戦指揮に入るが、実戦では今まで行っていた訓練通りで行かない所も出てくる。細かい事であっても報告する様に》
やがて始まった救出作戦は増援として加わったガトラス率いる陸軍を含めた一万人規模の陸軍戦力と、陽動の為に出港した30隻の魔石式軍艦によって手際よく行われていく。
《エリアAの1番から22番までは小さな村であるから、20人ほどで向かってほしい。エリアCの6,8,14に関しては規模が大きく魔石の反応が多数ある為、攻略人数を80人とし、魔石を封じるアイテムを転送するので役立ててくれたまえ》
彼等は相手に情報が伝わる前に次々と攻略対象に見あった数の戦力で攻略を行っていき、特に効果を発揮したのは亮太と同じくナバルも召喚する事が出来る様に鳥図られていた相手の魔石を無効化するアイテムであり。
「ど、どういう事だ!? 魔石から色が失われて行くぞ!?」
「これでは馬に引かせずとも良い新型チャリオットも動かせないではないか!!」
「た、退却だ!! こんな村の為に命を投げる意味は無い、退却せよ!!!」
実戦経験が豊富なガトラスの軍勢が抜けた陸軍は、魔石に頼った戦いかたしか知らない新人や親衛隊で構成されていた為に彼等の進行を食い止める事が出来ずに、殆どが一目散に逃げ去っていくと言う不甲斐ない姿を晒すこととなる。
《……力に酔いしれた者の末路としては、お似合いの姿だな》
思わずハシバが呟いて仕舞うほどに最強と歌われた大ヴァルハァム軍の防衛線は呆気なく崩壊し、大陸の半数近くの人々が王女ナバルの新生ヴァルハァム王国に降ると言うとんでもない大失態を生むこととなり。
これにより中国の様に貧民を働かせて上流階級の者達が贅沢をすると言うピラミッド型の政策を取っていた大ヴァルハァム王国は、生産力や労働力が無くなってしまったため国力は急激に低下し。
魔石の力を搾り取られてしまった彼等は侵略処か、生き残りをかけた権力争いと言う内戦状態へと突入していく事となって行く。
【新生ヴァルハァム王国・大ヴァルハァム王国最終時点での比較】
【新生ヴァルハァム王国】
【人工】
・3000名+1万7000名【解放奴隷】+23万9152名【亡命兵】=25万9152名
【兵員数】
・兵士2500名+23万9152名
【陸軍】
・新人兵士:160名
・剣士:190名
・弓兵:140名
・ラクダ兵:67名
・偵察兵:110名
・魔道士:90名
・漕ぎ手:20名
・砲撃兵:75名
・熟練兵:125名
・監視兵:50名
・ガトラス陸軍:7252名
・亡命兵:15万人
【兵器】
・チャリオット1,2000台
・大型チャリオット:6900台
・投石機:100台
・運搬車:4968台
・新型チャリオット:1500台
【海軍】
・新人兵士:160名
・剣士:50名
・弓兵:110名
・偵察兵:90名
・魔道士:90名
・漕ぎ手:224名
・砲撃兵:75名
・熟練兵:125名
・監視兵:50名
・カルマ達:1900名
・亡命兵:8万人
【兵器】
・小型ガレー船:1725隻
・大型ガレー船:102隻
・魔石機関式大型軍艦:59隻
・大型ガレー補給船:1253隻
・新型・魔石機関式超大型戦艦:8隻
【魔石】
・各種魔石:65万個
・特大魔石:2689個
【大ヴァルハァム王国】
【軍隊兵力】
◇陸軍:20万人
◇海軍:32万人
【陸軍】
◇歩兵:9万人
◇戦車兵:6万人
◇魔石術師:3万人
◇治療兵:800人
◇補給兵:2万人
【兵器】
◇二人乗りチャリオット:1万3400台
◇大型チャリオット:1万1260台
◇新型チャリオット:5500台
◇鉄槌車:3000台
◇運搬車:32台
【海軍】
◇船員:20万人
◇補給兵:2万5千人
◇治療兵:1万5千人
◇魔石術師:8万人
【兵器】
◇小型ガレー船:8400隻
◇中型ガレー船:1万2000隻
◇大型ガレー船:1万隻
◇魔石機関式大型軍艦:5000隻
◇新型・魔石機関式超大型戦艦:22隻
◇大型ガレー補給船:747隻
◇魔石機関式大型補給船:1000隻




