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02-06 比類なき愚者

※第1話で亮太を襲った者の性別を私自身が勘違いしていた為に、色々な部分を変更しました。先に読んでくださっていた皆様本当にすいませんでした。以後、きおつけます(7/27)


・一部の文章を再編集して投稿したのですが。内容は変わっていません。

・白髪少女の服をロングコートで統一します(7/18)

・少女の説明が男性になっていたので訂正いたします。(10/8)

「流石に……疲れたな……」

「能力の使用限界量が初日と比べて増えたとはいえ、纏めてあれだけの物を召還をすれば身体が持たないわよ! 相変わらず無理をするんだから」


 50キロに渡る城壁を完成させた亮太は莫大な力を消費したための疲労感故に、亮太は車内のフカフカしたリクライニングシートを後ろに倒して、寝転びながら一息ついていた。


 時刻は既に午後2時近くを回っており、進行する敵軍に亮太達が妨害をしていなければ今頃猪達の餌になっていたであろう事を想像して亮太は冷や汗を掻く。


「今は奴等の動きも……止まっている……。きっと休憩中だな」


 天井に投影した大陸の全体地図に映つされた敵軍を表す赤いマーカーを見詰めつつ、亮太は気付けばトレノが吸っていたと同じ、ハーブのスーっとした臭いと共に緑色のキラキラと光る煙を出す煙草の箱とジッポライターを召還画面を操作して出現させていた。


「それって……トレノさんの吸っていた?」

「うん? ああ、手紙と一緒に1カートン分入っていてな。身体に害はなくて、気分が落ち着くから吸っておきなさいってさ。ちょっと、外で吸ってくるよ」

「ええ……」


 倒れていたシートを戻して、少し力無く車外に出て煙草を吸いに行く彼の姿は。戦争時に精神を落ち着けるために配られた煙草を吸う兵士達の様であり。その弱々しく、辛そうな亮太の背中を見たマリナは胸が締め付けられる思いを覚える。


(そう言えば、亮太は訓練を受けている私と違って、戦争を経験した事がない日本人だったんだよね……)


「けほっ! けほっ!? あー……初めて吸ってみたけど、あんまり吸いすぎるとヤバイなこれは。楽にはなるが、朝顔を洗った時みたいにスッキリし過ぎるわ。マリナは大丈夫か?」

「うん。私は何度か今回みたいな戦いに参加しているから大丈夫よ。亮太、貴方が身を危険に晒して直接戦う必要は無いから安心して。私と、貴方が生み出した敵よりも強い仲間達が戦うんだからね?」


 その言葉を聴いた亮太は、自分がマリナに心配されるほどに取り乱している事に気付かされ。一瞬目を丸くしてから、苦笑いを浮かべる。


「はは。そうだね、ありがとうマリナ。俺は皆が足りないものを補うサポーターとして、どっしりと構える事とするよ。じゃあ、城壁に仲間達を配置しつつ、景気付けにレアパックでも剥くとしますかね」


 そう言いながら亮太は早速、外側に当たる城壁に10時の方角から2時の方角の間に設けられた側防塔に弓兵21名と、大型の矢を放つバリスタや、弓等の遠距離武器とそれに用いる為の矢をセットにして召還し。


 外側と内側の城壁の間に白兵戦に備えて騎士18名・騎兵16名を待機させ。


 大きくてかさばる投石機や大砲等は内側の城壁の上に砲兵達10名と、少なかったために補充した新たな砲兵20名《20,0000SP》と共に配置して行く。


 配置された彼等は自分達の役割を心得ている様で、まだ出来たばかりの汚れ一つ無いだろう城壁内を戦闘準備の為に走り回っている姿が内側にいる亮太達にも確認できた。


「これで騎兵が主戦力の彼等に負けることは無いだろう。さてと、一仕事が終わったんだし折角だから開けて見るか」


 吸い終わったハーブの煙草をアイテムストレージにしまい、トレノに貰った【SR以上確定パック】5袋を時間潰し件、現状をより良くするために開封していく。



「本当、俺が物語に出てくる勇者や主人公だとするならば間抜けな姿だよな。あっ、でも魔道書とかを研究している魔道士とかだったらかっこよく映ってたか…も…」


 そんな独り言をつぶやきながら、亮太は五パックのうち3パックまで開封する。


【開封結果】

 ・精霊の泉【SR】

 ・補給艦【SR+】

 ・温泉施設【SR】


「おおお!!? やった!! やったぞ!! 温泉だあぁぁぁ!!! あっ……」


 つい二日間、水浴びと言う方法でしか清潔さを保つ手段を持ち合わせていなかった亮太はついつい大声をあげてしまい、車内にいたマリナと城壁でキビキビと働いている者達から強い視線を浴びることとなる。


「ごっ、ごめん!! 皆が忙しく働いている中で浮かれちまって!」


 雇った初日で仲間達に大失態を見せてしまった事もあり、亮太が慌てて謝罪をする中、亮太から見て正面の城壁の上から明るい笑い声が聴こえて来た。


 亮太が視線を上げて見てみると、そこには40代程の黒人でアフロと言うファンキーなくすんだネズミ色の制服を着た男がおり、そこにいた3人の部下達は焦った表情で仁王立ちする彼を止めようと、亮太の所までは解らないが声をかけている。


「ハハハハ!! 良いじゃないか、良いじゃないかボス!! 自分の感情は出したい時は我慢せずに出せば良いんだよ!!!」

「あっ、ありがとうございます!! 私は豊口亮太と申します! 失礼ですけどお名前は?」

「俺か? 俺の名は砲兵をやらせて貰っている、ガイル・アンダーソンだ!!! よろしく頼むぜ、ボス!!」


 そう言って満面の笑みで敬礼して見せる軽快なガイルの姿に、亮太は思わず笑ってしまい。亮太も微笑みながら見よう見まねの敬礼で返す。


「ありがとうございます!! ガイルさん!!! 私は戦闘に関してはルーキーですので、皆さんに頼りきりになると思いますが!!! よろしくお願いいたします!!!」


 その声と姿を見ていた内側の城壁で待機していた砲兵達から歓声と拍手が返される。


 それを見て、亮太は嬉しくなると同時に少し申し訳無くなる。自分よりも年上の人達が含まれた大勢の仲間達が、召還されたからと言って自分の様な若造に指示されて、命をかけなければ行けない事も。


(しっかりしないと。俺も、彼等が身体を張って頑張ってくれるように。全力で答えよう)


 そう決意を新にした亮太は皆に一礼してから、その姿を窓から微笑みながら待ってくれているマリナがいる車へと、亮太は最後の二つのパックを見ずに開封しつつ近づいていくのだが……。


「亮太!! 手元を見て!!!」

「え?」


 突然、マリナがまるで化け物を見たような青ざめた表情で亮太に悲痛な叫びで危険を知らせる。


 直ぐ様にマリナが言うとおり、開封した二枚のカードを持っている右手を見てみる。


「なんだ……これは?!!」


 そこで亮太が見たものは、二枚の内の一枚からドライアイスの煙を黒くした様な煙が吹き出しており。普通の人ならば、地面に捨て去るであろうその不気味なカードを引き寄せられる様に亮太は生唾を飲み込んでから、見てしまう。


「あ……ああああ!!? 何で、何でこいつが!!?」


 そのカードに描かれていたのは頭の上から足元まで身体を包むボロボロのフード付きのロングコートを羽織り、夜の墓地の中にある白い十字架が建てられた墓の前で、無表情のまま目を真っ赤にして涙しているガサガサの白髪のセミロングヘアーの人物が描かれているのだが。


 驚くべき事に、その人物は亮太がこの世界に転生する切っ掛けを作ったコンビニにトラックで突っ込んできた殺人者と良く似ており。

 尚且つ召還される者となっている彼につけられた名とランクを見て、彼に怯えていた亮太は更に戦慄させられる。



 ◇比類なき愚者《Rank,Error(エラー)》


「なっ何だよランク《Error》って!? こいつはやっぱりおかしいぞ!? まさか、地獄から追い掛けて来たとかなのか?!」

「亮太?! 大丈夫!?」


 そう書かれた自らを殺したであろう謎の殺人者の登場に、亮太はマリナの声が聴こえなくなるほどに錯乱していた。


「何で、何でお前がいるんだよ!!?」


 次第にカードを纏っていた影は集まり、大きくなって来た為に、思わず悲鳴をあげて亮太はカードを落として飛び引く。


 その地面に落とされたカードは引き続き影を排出し続け、次第に人の形へと変貌していく。


「おい! おい!! なんか後ろでやべー事が起きているぞ!!!」

「何だあのモヤは? おい、余っていたロングボーガンを借りていたよな?!」


 その異常な状況に気付いた城壁上の砲兵達も慌てて供えられていたロングボーガンを取り出して、援護する姿勢を示し。亮太の一番側にいたマリナが異常を感じた為に、地に落ちたカード破こうと車を降りて走って行くのだが、その前に亮太の意思とは関係なしに具現化してしまう。


 体から吹き上がる影とカードの絵と同じネズミ色のフード付のロングコートを身に纏った女子高生程の年齢の容姿を持ち、ルビーの様に紅い虚ろな目を持つ殺人者であった筈の者が、亮太の前に姿を現した。


「ん。……予定通り、肉体の具現化に成功。次に進みます」


 まるでロボットの様に無感情な声を発した少女は、足をすくませ、顔を真っ青にして脂汗を掻いている亮太の元へと、1歩、また1歩と近づいていく。


「させないわ!!」


 だが、異質な彼女を危険と判断したマリナが少女に背後から高速で接近し、亮太に少女を近付げさせないために自分が得意な近距離の格闘戦を挑もうとするのであるが。


「止まりなさい! それ以上、亮太に近付くのならば容赦はしない!」

「……それは、マスターの命令?」

「え?」


 彼女が振り返り、発した言葉は意外と冷静な物であった。


「繰り返す。それは私のマスター、亮太様からの命令か?」


 淡々と語るその言葉には相変わらず感情は無く。かつて亮太を滅多刺しにした時の敵意や、殺意も伺うかがえ無い。その思わぬ反応にマリナが目をぱちくりさせる中、彼女はマリナから答えを待ち続けている。


「亮太……この子、危ない知り合い何だよね?」

「あっ、ああ……。俺が転生する原因を作った、殺人者だと思うんだけど……」

「……彼女の話はトレノさんから聴いていたけど、何故今ここに……」

「解らない。解らないが……。聴かせてくれ、君は俺達の敵では無いんだな?」


 その質問を受け、マリナを見ていた少女は自らの命令件を持つ亮太に向き直り。言葉を返す。


「はい。私は亮太様の護衛であり、僕(しもべ)です。何なりとお申しつけください……」

「俺を殺し……店長や梅ちゃんを傷つけた筈の君がか?」

「はい、マスター。私はもう、彼等に雇われた者では無いですから」

「え、雇われた!? それってどういうーー」


 その言葉を言い終える前に、城壁の方から突然警戒を促うながす鐘の音がけたたましく鳴り始める。


「つっ、しまった!! 敵がもう来てしまったのか?!」


 亮太が慌ててメニューを開き、大陸の全体地図を見てみると。さっきまでガレー船の補給の為に止まっていた敵軍の進行が、亮太達の予想を反して進んでいたのである。それは何故なのかと言うと。


「風だ! 奴等、風を味方につけたんだ!!」


 城壁の内側にいて、尚且つ車内で召還を行っていた亮太は計算できていなかった。


 今日は西から南へと強い風が吹いていて、ぬかるんだ陸路からの進行が難しいと判断したヴァルハァム王国軍の軍師はその風に目をつけた様で。


 彼等は思いきって陸路からの進行を辞め、港に残しておいた予備の大型ガレー船1隻と、それを護衛する小船のガレー船6隻を呼び出すために伝書鳩を使用して港に残っていた兵士達と連絡を取って港から出撃させ。


 やがて海岸で合流を果たした彼等は、大型のガレー船に乗る50人の漕ぎ手と兵士達を入れ替えて乗せて。手動で水を掻くオールでは無く、風を受けて進むための帆を張って移動しており。彼等は驚くべき事に、城壁からうっすらと目視できる程の距離に近付いていたのである。



 その事に気がついた亮太は直ぐ様に空から偵察を行っていた筈のソルトに連絡を取る。


「もしもし! ソルトか!? 今何処にいるんだ?」


 《あっ、やっと繋がったよ!! 何回呼び出しても出ないから、心配したんだよ?》


「すまない……。ちょっとハプニングがあってね」


 《まあ、それなら仕方無い、と言う事にしておくね。それで、どうするの? このままだと、あいつら海をメインにして襲撃をかけるみたいだけど》


「うーん……陸からの敵はどうなってる?」


 《えーとね。どうやら、戦車を置き去りにして船に乗れなかった兵士達が徒歩でそちらに向かっているみたい。大体、陸と海とで数が半分半分になってるね》



 それを聴いた亮太は、彼にとって恐れていた事が起きている事に気付かされる。


(只でさえ少ない戦力を割かなければ行けない……。しかも、城壁の召還した時にかなりの力を使ってしまっているから、追加で召還しようとすればどうなるか解らない……)


 悩む亮太に意外な人物が声をかける。


「でしたらマスター。私を港の防衛にお使いください。マスターが回復するまで、私が彼等を引き受けますから」

「おまえ……何を……」


 その声の主はずっと二人の話を聴いていた白髪の少女であり。亮太は戸惑いの声をあげて止めようとするのだが、彼女は続ける。


「出会ったばかりの私であれば、例え死んだとしてもマスターに取っては痛手にもなりませんし、辛い思いをする事も無いでしょう」


 その抑揚の無い彼女の言葉を聴いて、亮太の心は揺さぶられる。彼女が自分を信じさせる為に、同情させようとしている訳ではなく。淡々と自分が死んだとしても出せるメリットを一人の使い捨ての駒として述べていたからだ。


 そして、亮太は彼女が墓の前で泣いている姿を描いたカードの絵と、狂ったように自分を滅多刺しにした彼女を思いだし。


 転生したであろう彼女が元々は危険な人間であったのではなく、何か心を壊す程の事があったからあの様な犯行に及んだのでは無いかと、海外に行って騙される人のような事をついつい考えてしまう。



「待ってくれ、君を無駄死にさせる事は出来ない。例え、俺を殺した人間であったとしてもだ」

「ならば、どうされるのですか?」


 その質問に対して亮太は迷い無く答える。


「俺とマリナも港に行く。君を死なせる訳にはいかないからだ」


 その発言を聴いた彼女はマンガの様に頬を赤らめる訳でも無く、亮太の顔を見つめたまま返事を返す。


「かしこまりました、マスター。では参りましょう、敵は直ぐ側まで来ていますから」


 そう言って車の方へと振り返り走って行く白い死神の後ろ姿を見ながら、亮太はつぶやく。


「冷静を装おって、何かに怯えているそんな姿を見せられて。放っておけるわけが無いだろうが……」


 それぞれの想いを抱えながら、亮太達はヴァルハァム王国軍の迎撃に向かう。


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