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アリステアとの晩餐

 翌々日に、件の女性はやってきた。

 イヴァリースにある執務室の窓から、アリステア・ロッテンマイヤーの姿を確認する。

 相も変わらず美しい女性だ。

 真っ白な甲冑に金髪が良く映えている。

 護衛を二人連れているが、どちらも同じデザインの甲冑を身に纏っている。

 その二人も金色の髪を纏った美女であった。


「白薔薇騎士団の幹部は金髪の女性しかなれないのかな」


 そんな感想を漏らしていると、リリスがこんな皮肉を漏らす。


「アイク様は金髪の女性が好きなんですね」


 リリスは頬を膨らませている。


「まあ、嫌いではないかな」


 冗談で返すと、リリスは踵を返す。


「どこに行くんだ?」

「髪を染めに行きます」

「…………」


 本当に染められたら困るので、真意を話す。


「別にアリステアに見とれていたわけじゃない。ただ、彼女の肩に紋章があるかどうか確認していただけだよ」


「紋章? ですか?」

「ああ、紋章があれば確認できるだろう」

「なにをですか?」


 リリスはきょとんとした顔をする。


「アリステアの肩に白薔薇騎士団の紋章があれば、正式に騎士団に復帰したことが確認できる。もしもなければ国王の許可なく勝手にやってきたと推察できる」


「なるほど、あ、ちゃんと紋章は付いていますね」


 リリスは「どれどれ」と口にしながらアリステアを見下ろす。


「更に言えばその白薔薇の紋章が金で作られていたら、団長として復帰した、というところだろうな。その辺はどうだ?」


 人間である俺の目ではそこまで確認できないので、リリスに尋ねるが、どうやらアリステアは団長として正式に復帰したようだ。リリスは「お高そうな紋章が付いていますよ」と言った。


「なるほど」と俺は漏らすと、こう続けた。


「ならば、ローザリア王国の正式な使いとして遇さなければならないな」


 もっとも、サティのことだ。

 身分に関係なく、最高の(ぜい)で持てなすだろうが。

 昨日から(せわ)しなく宴の準備をしているサティが今も館を駆けずり回っている。


 普段はサティ一人に世話をして貰っているが、軍団規模の会合があるときなどは、臨時のメイドを雇い、その指揮を務めて貰っている。だが生来の働き者のためだろうか、指示だけではなく、つい人の分まで働いてしまうのがサティという少女だった。


 時折、廊下ですれ違うが、声をかける暇すらないほどの働きぶりだ。

 そんなメイドさんの姿を観察していると、良い香りが鼻孔をくすぐる。

 サティの得意料理であるロースト・ビーフにかけるグレイビー・ソースの香りだろう。


 アリステア・ロッテンマイヤーという女性は大貴族の娘らしいが、サティの作る料理は彼女の肥えた舌も満足させることだろう。


 アリステアという女性が何を目的に面会しに来たかは知らないが、それだけは確信できる。

 それほどまでにサティの料理は美味しいのだ。





 俺の館に訪れたアリステア、まずは略式的な挨拶をすると、長旅の疲れを癒やすように客室で休むことを勧めた。


 彼女は火急の用件があるのですが、と詰め寄ってきたが、それでも「重要な用件ならばこそ、疲れを癒やした後にした方が良いでしょう」と無理に彼女に休むよう勧める。


 事実、供のものを含め、疲労困憊という顔をしていた。


 王都ローザリアから世界樹の森までかなりの距離がある。更にそこから強行軍でイヴァリースにやってきたのだ。疲れていないわけなどない。


 アリステアはそれでも本題に入りたいとせがんできたが、従者に止められると部屋で休むことにしたようだ。


 俺は夕食の時刻を伝えると、彼女はこくり、と頷き、2階へと上がっていった。

 サティは丁重に彼女を部屋に案内すると、そのまま厨房へと向かった。


「あまり無理をしないように」という暇もない。


 この調子ならば、夕刻までには最高の料理を作ってくれるだろう。 

 その間、俺はただ、時間を潰すだけだった。

 特にやることもない。


 アリステアの休んでいる部屋を盗聴する、という手もあるが、流石に彼女たちもそれくらいは警戒しているだろう。


 それにそんなことをしなくても、数刻後、アリステア自身の口から、来訪の目的を告げてくれるはずだし、女性の部屋を盗聴するのは紳士のすることではない。


 一応、紳士を自負している俺としては、女性の部屋を盗聴する気など更々ない。

 自室に戻ると、読みかけの本に手を伸ばした。

 下らない冒険活劇の本であったが、夕刻まで時間を潰すには丁度良いだろう。

 実際、読みかけのその本を読み終えた頃、太陽が沈み始め、晩餐の準備が整った。

 俺は不死のローブに乱れがないか大鏡で確認すると、晩餐の間へと向かった。

 


 晩餐の間に向かうと、そこには麗しい淑女がいた。


 貴族の令嬢が着るような真っ白なドレスを身に纏っている。細かな意匠を凝らしたものでぱっとみただけで庶民が半年は生活できるくらい高価なものだと推察できた。


 勿論、それを身に纏っているのは客人であるアリステアだった。

 流石に甲冑姿のまま晩餐会に現れるほど野暮な女性ではないようだ。

 髪も従者に綺麗に結い上げて貰っているのだろうか、武人めいた無骨さは一切感じない。

 もっとも、この女性は甲冑を身に纏っていても武人らしく見えないが……。


 アリステア・ロッテンマイヤーは、俺と顔を合わせると、少し怯えた表情で、「私めのために素敵な晩餐会を用意してくださり、誠にありがとうございます」と礼を述べてきた。


 何を怯えているのだろう、と思ったが、心当たりならいくつもある。



 そもそも俺は魔族だ。この異形の姿を見て怯えない人間などいない。


 それにこの娘は一度、戦場でしこたま叩きつぶしているし、その後、塔で幽閉されている際、『面会』に赴いたときも、少し驚かしてしまった自覚がある。


 怯えるな、という方が無理なのかもしれない。



 ただ、舐められながら交渉されるのも困るが、怯えられながらでは話にならない。


 俺は努めて優しい声を作ると、


「アリステア殿、どうか肩の力を抜いてください。魔族は異形の姿をしていますが、貴方が思っているよりも人間らしいところがあるのですよ。自分でいうのもなんですが、特に俺などがその典型です」


 なにせ、中身は人間ですからね、とまでは明かせないが、ともかく、彼女にテーブルに座り、サティが作った料理を勧めた。


 アリステアは最初は恐る恐る料理に口を付ける。


 魔族が用意したものだ。どんな食材が使われているかわかったものではない、という顔だったが、一口食べると、顔色を変える。


「とても美味しいです、これ」

「我がメイドが作った自慢の一品です」


 そう言うと彼女のナイフとフォークをさばく早さは徐々に早くなる。

 これで心を開いてくれたわけではないだろうが、多少は話しやすくなるだろう。

 彼女が食事を終えるのを待つと、『本題』に入ることにした。

 


 なぜ、白薔薇騎士団の団長の任を解かれたアリステアが俺に会いに来たのか。

 どのような話を持ってきたのか、興味は尽きない。

 俺はサティが食後の飲料を持ってきて下がったのと同時にこう尋ねた。


「さて、アリステア殿、今回はどのような御用向きで俺のところにやってきたのでしょうか?」


 そう切り出すと、アリステアは再び緊張した面持ちになり、口を開いた。


「実はアイク殿にお願いがあってやってきたのです」


 彼女はそういうと、本題を話し始めた。

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