親愛なる妹へ ††
†† (エルフの女王フェルレット視点)
親愛なる妹のアネモネへ――
貴方がアイク様とイヴァリースに向かい、もうすでに数週間。
すでにイヴァリースに到着したでしょうか?
到着したことを前提で筆を執っているのだけど、無事着いてくれていると嬉しいです。
さて、貴方がイヴァリースの街に着いているとしてひとつだけ注意点。
人間の街はさぞ華やかでしょうが、あまり浮かれ過ぎないように。
立派な石畳に大きな建物。
お店屋さんもたくさんあるし、見世物小屋などもあるかもしれませんが、あまりそのような場所には赴かず、あくまでエルフ族の代表として振る舞まうことを姉は願います。
――なんて偉そうなことを書く資格は私にはないのかもしれないけど。
私はこの世界樹の森に囲まれ、安穏な日々を過ごしていますが、一方、貴方はイヴァリースという最前線の街で戦うことになるのです。
そんな私が、貴方にお説教をする資格などあるわけないわよね。
ただ、それでも姉は貴方が少しだけ羨ましいです。
なぜなら、アイク様という御仁の側にいることができるから。
こればかりは少しだけ――、いえ、かなり貴方が羨ましいです。嫉妬です。
私も剣を習っておけば、と、ちょっと後悔しています。
貴方のように華麗にレイピアを振り回すことが出来たのならば、この姉が代わりにそちらに赴いて、一緒に戦いたいくらいです。
アイク様――
不思議なお方です。外見は不死の王そのものなのだけど、なぜだか、ちっとも怖くありません。
その言動、その瞳の奥からは、溢れ出んばかりの慈愛を感じます。
もしも彼がエルフの男に生まれていれば、と何度思ったことか――。
貴方は私の双子の妹、この気持ちは共通していますよね?
だからきっと、アイク様の側にいられることを喜びに感じていると思うけど、その点もひとつ注意。
貴方のお役目はアイク様の補佐です。恋心とお仕事を混同しないように。
これは姉の嫉妬ではなく、女王としての命令です。
だから、隙を見つけてアイク様に接吻の儀式を強制して、既成事実を作らないこと!
これは女王としての命令ですからね!
いえ、姉としてのお願いです。
もしも二人でアイク様を奪い合うことになるのならば、正々堂々、勝負をしましょう。
お側でお仕えする利点を利用して、抜け駆けは許しませんからね!
――少し興奮し過ぎてしまいました。
ともかく、姉は貴方に全幅の信頼を置いています。
貴方もこちらのことは心配することなく、全力でアイク様の補佐に当たってください。
私も全力でこの世界樹の森とエルフの民を守り、後方から貴方たちの支援をさせて頂きます。
アイク様に頼まれていた稀少茸もケット・シーの実も、なんとか確保できそうです。
――それでは長くなったけど、筆を置かせて貰います。
くれぐれも身体には気をつけてね。あと、食べ慣れないものを無理して食べないこと。
貴方のたった一人の姉、フェルレットより。
追伸。
先日、諸王同盟の使者を名乗る金髪の女性がやってきました。
あ、でも安心してね。
恫喝や脅迫の類いではなく、ただの純然とした交渉役の女性でした。
というか、その女性はアイク様と面会したいらしく、この森までやってきたそうです。
丁度、行き違いになってしまったようですね。
アイク様は自分の領地へ帰ったというとそのままイヴァリースへ向かったようです。
彼女の名前は、アリステア――、白薔薇騎士団の団長と名乗っていました。
危ない人ではないと思うのだけど、一応、お気を付け下さい。




