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キノコ料理でおもてなし

 宴の場所は多くのエルフの戦士たちで賑わっている。


 エルフの宮殿の前には色とりどりのキノコや野菜が並べられていたが、やはりフェルレットの作った料理は異彩を放っていた。


 負のオーラが目立つ料理など初めて見た。

 エルフ族の戦士たちの間でも女王の料理下手は伝わっているらしく、誰一人口を付けない。


 フェルレットは、自分の作った料理の前でにこにこと給前(きゆうぜん)をしていたが、皆が避けていることにも気が付かない。


 哀れなので、俺は率先してその料理を受けとったが、やはりその料理は不味かった。


 ただ、目を星のように輝かせて感想をせがんでくる女王本人の前でその感想を漏らすことはできないし、皿の上に置かれた分の料理は食べ尽くすのが礼儀だろう。


 そう思いながら、なんとかフェルレットの料理を食べ終えると、ギュンター殿に話がある、と彼のもとに向かった。


 彼が手にしている皿にも女王の料理が盛られている。

 感想を尋ねる。


「どうですか?」


 ギュンターの答えは短い。


「食べ物に旨い不味いもない。酒が旨ければそれでいい」


 と、言うと自前で用意してきた蒸留酒のボトルに口を付ける。

 流石はドワーフの王だ。度量が深い。

 ギュンターはフェルレットの料理をアルコールで胃に流し込むと、質問をしてきた。


「逆に問うが、お主はどう思う?」


「とても不味いです」と言いたいところだが、ギュンターが問うているのはそんなことではないだろう。


 彼の真剣な表情は戦い前のそれに通じるものがあった。

 恐らくではあるが、彼が指しているのはフェルレットの料理の味ではなく、今後の展望だろう。

 それを証拠にギュンターはこう尋ねてきた。


「先ほどの戦いで敵軍に打撃を与えたのは事実だが、まだまだ敵兵は精強だ。今度は前回の轍を踏まえ、ゲリラ戦術に対抗してくると思うが、ぬしはどうやって対抗する気でいるのだ?」


「流石はギュンター殿です。なかなかの見識です」と言うのは失礼に当たるだろう。


 身分も年齢も戦場での経験も彼が上だ。

 だが、俺はそれを承知の上で今後の戦略を語る。


「ギュンター殿の言うとおり、次戦、敵兵は軍を密集させ、ゲリラ戦術に備えるでしょう。そうなれば我々は貧弱なエルフの兵を指揮して正面衝突を強いられることになる」


「エルフ共は俊敏だが、完全武装した人間共と互角に渡り合うほどの力はない。ましてや数では圧倒的にこちらが劣るのだ。そこはどうするつもりなのだ?」


「なんとか決戦時期をずらし、援軍がやってくるのを待ちますよ」


「援軍か……、シガン殿の部隊がこちらにやってきている、とは聞いているが、間に合うのだろうか? それにそれまで持ちこたえられるのだろうか?」


「…………」


 その問いには明確に答えることはできない。


 長年ともに戦ってきた竜人シガンの手腕は完全に信頼しているし、エルフの戦士たちも信用していたが、それでも時間的な制限はどうしようもない。


 俺とギュンターが前線に立ち、エルフの戦士たちの弱点を補っても、2000近い兵数を打ち破るのは難しいだろう。


 数は力だ。それに先日捕縛したヴァリックのような実力者が残っていない、とも言い切れない。

 敵の戦力を過小評価するのは愚か者のすることだ。

 ただ、敵の戦力を過剰評価して、及び腰になるつもりもない。


「ともかく、今ある戦力でシガンたちの援軍がやってくるまで耐えるしかないな」


 ぽつり、と漏らしたが、その言葉が聞こえたのだろうか、葡萄酒を片手にほろ酔い顔でこちらにやってくるリリスがこう宣言した。


「大丈夫です。アイク様が人間如きに後れを取ることなどありえませんよ。それにこのリリスがいる限り、アイクさまには指一本触れさせまへん……」


 と、語尾がすでに怪しく、足下も覚束(おぼつか)ない。

 倒れ込みそうになるリリスをサティが慌てて支えるが、リリスはそのまま地面に眠ってしまった。

 この娘はあまり酒に強くないらしい。

 サティはリリスを介抱しながら、こちらを見上げる。


「ご主人さま、ご武運をお祈りしています」


 とサティは言うと、祈りを捧げてくれた。


 相も変わらずの娘である。普段からリリスとは口喧嘩が絶えないのに、優しく介抱するその姿はどことなく仲の良い姉妹に見える。


 その光景を微笑ましく眺めていると、「さて」と言葉を漏らした。

 悩んでいても仕方ない。

 俺に出来ることは現状の戦力で敵軍の足止めをするだけである。


 その為にはまずは英気を養わなければ、そう思った俺は、料理が並べられたテーブルへと戻った。

 無論、にこにこと微笑んでいるエルフの女王の前にはいかない。

 他のエルフの娘が作った料理を皿に盛る。

 キノコを中心に作られた菜食主義者向けの料理だったが、これがなかなかどうして美味しかった。

 バターを使って炒めているためだろうか、それともこのキノコ自体の風味のためだろうか。

 なかなかジューシーで肉に似た味がする。


 珍しい珍味を堪能すると、数日後、対峙するであろう敵軍の将の顔を思い浮かべた。

 さて、双鷲騎士団の団長は、今頃、どんなものを食べているのだろうか。


 きっと、俺たちよりも良いものを食べているはずだが、俺たちのように陽気に食事をしている姿は思い浮かばない。


 夜襲に備え、びくびくと怯えながら食事を取っているに違いない。

 そう思うと、少しだけ哀れではあった。




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