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双鷲騎士団

 エルフの斥候からもたらされた情報によると敵軍の数は2000強、ローザリア王国の紋章を付けた騎士を中心に編成された部隊らしい。


 魔術師も伴っている、ということは精鋭なのだろう。

 詳細を尋ねる。


「騎士たちはどんな紋章を付けている?」

 と――。


 アネモネの答えは「鷲が二体」描かれている、とのことだった。


「つまり、二頭の鷲の紋章。相手は双鷲騎士団を中核にした兵団、ということになるな」


「双鷲騎士団という騎士団は強いのですか?」


 リリスが尋ねてくる。


「ローザリアでも屈指だよ」

「以前倒した白薔薇騎士団よりも、ですか?」


「比べものにならないはず」と答えておく。


 白薔薇騎士団は、乙女を団長に据えなければならない儀典的な騎士団だったが、双鷲騎士団は実務的な騎士団だった。つまり、敵軍を破り、敵国の領土を蹂躙するために日々訓練された猛者(もさ)共が集まる騎士団だった。


「ならば今回は前回のようには行きませんね……」


 珍しく弱気にリリスは尋ねてくる。


「どうしてそう思う?」


「イヴァリースを守るときは強固な城塞の援護がありましたが、今回はないじゃないですか」


 なるほど、道理だ。


 この娘、なにも考えていないように見えて、考えているのだな、と思ったが、口には出さず、詳細を説明する。


「この森には確かに城壁はないが、この森自体、迷宮のようなものだ。この森を熟知しているエルフ族がいる限り、地の利はこちらにある」


 と、アネモネの方を向く。

 彼女は誇らしげに答える。


「はい、この世界樹の森は我々エルフの裏庭も同然、その地形はことごとく把握しています」


「一方、向こうは初めて訪れる場所だ。複雑な森の地形、精霊の加護、すべてが敵軍の不利に働くだろう」


「つまり、10倍の兵力差もへっちゃら、だと?」


「へっちゃらではないが、なんとかするさ」


 俺はそう言い切ると、アネモネに指示を下す。

 エルフの兵を散開させたのだ。

 その指示にリリスは疑問を呈す。


「兵を散開させるのですか?」

「散開させる」


 俺の指示にリリスは驚いたようだが、ドワーフの王ギュンターも驚いたようだ。


「兵は密集させ、陣形を組ませるのが常道だと思うのだが」


「確かにその通りです。軍隊同士の正面衝突ならば、陣形を組んだ方が圧倒的有利です。しかし、今回、それは不利に働くでしょう」


「その心は?」


 ギュンターは問うてくる。俺の采配に疑問を感じているのではなく、純粋に戦術に興味を示しているようだ。


 自分の考えを皆に伝える。


「エルフの戦士隊は勇敢ではありますが、戦士としては脆弱です」


 その言葉を聞いて、アネモネは、むっとしたが、反論される前に続ける。


「しかし、皆、俊敏な脚力を持ち、弓の名手であり、精霊魔法の使い手です。この特性を生かさない手はない」


「つまり?」


 と、ギュンターは尋ねてくる。

 俺は一言で答える。


「ゲリラ戦を展開します」

「ゲリラ戦? 聞いたことがないな」


 それはそうだ。この世界にはない概念だからだ。

 俺はアネモネ、ギュンター、リリスに分かりやすく説明をする。


「ゲリラ戦とは、軍隊と正面衝突は避け、少数の集団で奇襲を仕掛ける作戦です。とある国ではよく使われています」


「またニホンという国ですか?」


 リリスは尋ねてくる。

 面倒なので、「ああ」と相づちを打つ。


 本当は日本ではあまり盛んではなく、ゲリラという言葉の発祥は、前世のスペイン語だ。


 ナポレオン率いる大陸軍(ラ・グランド・アルメ)に占領されたスペインの一連の武装蜂起がその語源の由来である。


 この作戦の肝は、少数の部隊で敵の攪乱をし、補給を絶つところにある。

 奇襲、待ち伏せを駆使し、敵の集団に鋭い一撃を加えては、離脱する。

 それがゲリラ戦のコツだった。


「なんですか? その回りくどい戦術は、奇襲を加えたらそのまま突撃すればいいのに」


 リリスは疑問を呈す。


「いや、すぐに離脱するところがゲリラ戦の特徴だ。考えても見ろ。真夜中、真っ昼間、食事中、睡眠中、まったく関係なく、敵軍が襲ってくるんだぞ。人間共はどう思う?」


「神経をすり減らすな。ワシが人間の指揮官ならば堪ったものではない」


 ギュンターは答える。


「例え敵に致命的な一撃は与えられなくても、徐々に、だが確実に敵兵の士気は下がる。そこがゲリラ戦の長所だ」


 それに、と俺は付け加える。


「エルフ族は機敏にして夜目が利く種族だ。この森の地形もある。この作戦は有用だと思う」


 と、アネモネの方を振り向くが、彼女は同意してくれる。


「一撃離脱戦法は我々の最も得意とするところです。風精霊(シルフ)の力を借り、木々の間を飛び回り、弓矢を放ち、敵の喉笛に矢を突き立てて見せましょう」


 軽装のエルフ族のみ許される芸当だ。


 全身甲冑(フル・プレート・アーマー)を纏った騎士の鎧の隙間に矢を命中させることができるのではないか、そんな自信さえ窺わせる口調だった。


 頼もしい限りである。

 ただ、その自信が過信に繋がって欲しくはない。


「あまり深追いはしないように」と重ねて注意する。


 リリスとアネモネは同時に「はい!」と答えたが、少しだけ心配だ。

 この二人は少しだけ似たところがある。

 心配の種は尽きないが、ともかく、今は二人を信頼するしかなかった。

 揚々と戦支度を始める彼女たちの後ろ姿を見送ると、ギュンターに尋ねた。


「大丈夫でしょうか、彼女たちは……?」


 ギュンターは答える。


「ワシは一切心配していない」


 ギュンターは言い切る。


「どうしてそう思われるのですか?」


 そう尋ねるが、ギュンターの答えは単純にして明瞭なものだった。


「指揮をするのが、この大陸一の指揮官だからだ」


「それは買いかぶりでは?」


 と、返すが、ギュンターは豪快に笑いながら言った。


「それは、この戦いの後に判明するだろう。いや、後の歴史書が記載してくれるだろう。魔王軍にアイクという将あり。この男が魔王軍を勝利に導いた立役者、だとな」


「………………」


 沈黙によって応えるしかない。

 そこまで自分が有能だとは思っていないし、自意識も過剰ではないからだ。

 ただ、どちらにしろ、この戦いには絶対に勝たねばならない。

 そういう気持ちを込めて、ギュンターに言葉を返した。


「それでは、ギュンター殿には歴史の生き証人になって貰いましょうか」


 ギュンターは大きく頷く。


「承知した」


 俺とギュンターは、各自自分の指揮するエルフたちを率い、それぞれの戦場へ向かった。

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