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エルトリアの日記 ††

   ††(エルトリア・オクターブの日記)



 先日、娘を盗賊一行から助け出してくれた青年アイク。

 最初は素性の知れぬ男と警戒していたが、面会してみれば、思いの外、好青年であった。


 その黒い瞳からは、悪意は感じ取れない。

 一目見たときから、信頼の置ける人物だと悟ったが、同時に危険な人物だとも思った。

 彼が魔王軍の使者だからではない。


 その才能が恐ろしい、と思ってしまったのだ。

 事実、彼は私の突きつけた難題をあっさりと解決させた。


 長年、我々ゼノビア商人たちを苦しめてきた海賊カロッサを討伐する。


 最初は冗談半分、或いは無理を承知で交渉材料としたのだが、彼、アイクはあっさりとそれを成し遂げた。


 しかもカロッサを殺すことなく、捕縛する、という形で。

 更に彼は、こちらの欲しいものをあっさり見抜き、それを提供する。


 彼が提供してくれると言った『大砲』、それはオクターブ商会にとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。


 それを商船に積み込めば、海賊たちよりも圧倒的に優位に立てるし、それに余った大砲を他の加盟都市に転売することもできる。


 商人にとって有り難い武器で有り、商材だった。


 ――もっとも、大砲は気前よく提供してくれるようだが、肝心の『火薬』なる秘薬の作り方は教えて貰えなかったが。


 そこがアイクという青年のしたたかなところなのだろう。


 大砲の砲身は模造できるが、火薬の方はどうにもならない。切り札は最後まで見せない、優秀な商人の交渉術に通じるところがある。


 彼がもし、商人の家に生まれていれば、我々、オクターブ商会のライバルとなっていたかもしれない。


 そう思うと寒気すら覚えるが、幸いなことに彼は、魔族の側に生まれてくれた。(中身は人間のようだが)


 そのことは神に感謝しなければいけない。

 それにアイクと巡り会わせてくれたことも感謝せねば。


 最初は冗談半分のつもりで娘ユリアとの婚約を申し出たが、今では本気で彼を娘婿に欲しい、と思っていた。


 それほど希有な人物だと思ったからだ。

 黄金を集めるのは容易いが、人材を集めるのは困難、それがオクターブ家の家訓だった。


 そういった意味では、是非、娘を貰い受けて欲しいのだが、我が娘、ユリアはあの青年のお気に召すだろうか。


 その点が心配である。

 我が娘は美人ではあるが、性格に難がある。

 少し甘やかし過ぎたのかもしれない。

 今度、アイクがこのゼノビアにやってくるまでに、もっと女らしく教育した方がいいかもしれない。


 それが駄目ならば、最悪、この私、エルトリア・オクターブが彼に嫁ぐ、という手もあるが。

 自分で言うのもなんだが、まだまだ私も捨てたものではない。

 色香、という点に関しては、娘よりも遙かに上回っている自信がある。

 アイクという青年が年上好きであればいいのだが……。


 ――おっと、これは不適切な著述だったかもしれない。


 夫がある身で有りながら、このような文章を残すのは、不謹慎だった。

 後日、夫がこの文章を見れば、不快に思うはず。

 後で修正しておこう。

 こう見えても私は夫を愛しているのだ。

 彼を不快にさせる気はない。


 ただ、アイクという青年は、長年、色々な人物と接し、人生経験を積んできた私でさえ虜にしてしまう何かを持っていた。


 娘の婿になってくれるかはともかく、是非、再会を願いたいものである。

 それにはもうじき行われるであろう諸王同盟との戦いに勝って貰わなければならない。

 是非、勝利して貰いたいところだ。

 それも圧倒的な形で。

 さすれば私の商人としての目に狂いがなかったことの証明になる。


 それに娘のユリアも喜ぶことだろう。

 彼が勝利を重ねれば重ねるほど、彼に嫁ぐ日が近づくのだから――。

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