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思わぬ人助け

 馬で近づくと、戦闘はすでに始まっていた。

 激戦が繰り広げられている。

 最初は数が少ない隊商側が不利かと思われたが、意外にも善戦している。

 隊商の護衛には魔術師もいたし、魔法剣士もいるようだ。


「これは援護の必要もなかったかな」


 と、一瞬思ったが、そんな風に思っているうちに、前衛の戦士が一人、盗賊の斧をまともに受け、倒れ込んでいた。


 ――やはり援護は必要のようだ。


 俺は、いつもの魔法、《衝撃》の詠唱を始める。

 この魔法の長所は加減をしやすいところだろうか。


 《火球》の魔法などは下手をすれば相手の命を奪ってしまうが、できればあまり無駄な殺生をしたくない。


 例え相手が盗賊だとしても命までは奪いたくなかった。

 再び斧を振り上げている盗賊を《衝撃》の魔法で吹き飛ばす。

 盗賊は十数メートル先まで吹き飛ぶ。


 次いで、槍を突き立てられそうになっている護衛の男に、《障壁》の魔法をかける。


 盗賊の槍は、ぐにゃりと曲がる。

 その光景を見て盗賊、隊商の人間、双方は驚いた。

 盗賊たちは、「貴様、何者だ?」と問うてくる。

 隊商の護衛たちも同様の主旨の発言をしてくる。


「…………」


 しばし沈黙してしまったのは、答えに困ったからだ。

 ただ、名乗りを上げないわけにもいかない。

 隊商の連中も俺が味方か敵か分からなければ困惑するだろう。

 俺は熟考した上、言葉を選んで発した。


「――通りすがりのただの魔術師だ。義によって助太刀をする。勿論、助太刀するのは商人の方だ」


 それを聞いて商人の護衛たちはほっと胸をなで下ろす。

 盗賊たちは「くそう」と怒りの声を上げる。

 その言葉と同時に戦闘は再開された。

 再び、剣を交える音が聞こえてくる。


 俺はなるべく手加減をしながら、盗賊たちを倒していったが、途中、こちらの方へやってくる人物に気が付く。


 護衛の隊長と思われる男が、敵をなぎ払いながら、俺の横までやってくると、盗賊を見据えたまま尋ねてくる。


「どこのどなたかは分かりませんが、有り難い。このご恩、一生忘れませんぞ」


「その一生がこの場で終わらないといいけどな」


 俺はそう言うと、護衛隊長に、《付与魔法(エンチヤント)》をかけてやる。


「……これは?」

「ただの付与魔法だよ」

「これが付与魔法?」

「なんだ? 初めて見るのか?」


「――いえ、仲間にも魔術師はいますから。ただ、貴殿の付与魔法は同じ付与魔法だとはとても思えません。まるで剣が羽毛にでもなったかのような軽さだ」


 それに、と隊長は続ける。


「この剣ならば、岩でも切り裂けるような気がします」


 そう言うと、隊長は盗賊の中でも重武装の男に狙いを定め、男に斬り掛かった。


 前言通り、分厚い装甲を紙のように切り裂いていた。

 その姿を見て、俺は「ほう」と感嘆の声を上げる。

 やはりこの隊商の護衛たちはなかなかの腕利きの集まりのようだ。


 最初はその付与魔法の力で盗賊を虐殺でもするかと思ったが、逆に手加減を始めた。


 なるべく致命傷にはならないよう注意しながら、戦闘力を奪うことだけを心がけて戦っている。


 訓練を受けていない人間にはできない真似だ。

 その光景を見て思った。

 もはやこれ以上手を貸す必要はない、と――。

 すでに盗賊たちの半数以上は戦闘不能となっていた。

 後、数分のうちに逃走を始めるだろう。


 戦争も一緒だが、互いが全滅するまで殺し合う、ということはない。

 戦う意志が削がれた方が逃げ出す。

 それが戦闘の基本だった。


 案の定、盗賊団の頭目と思われる男は、大声を上げる。


「お前たち、後退するぞ!」


 逃げるぞ、と言う言葉を使わなかったのは、盗賊の頭なりの矜持(きょうじ)なのかもしれない。 


 逃げ出してくれるのなら、それで結構だが、態々助太刀まで買って出たのだ。


 ここで敵の大将を逃すのもなんだか(しゃく)だった。

 そう思った俺は、《束縛(バインド)》の魔法を詠唱する。

 魔力を纏った黄色い植物が、男の足に絡みつく。


「な、なんだこれは?」

「《束縛》の魔法だよ」


 と、言ってやりたいところだが、それは別の機会にしよう。

 今は取りあえず、怪我人の治療に専念すべきだろう。

 まずは隊商の護衛たちから手当てする。


 回復魔法は俺の領分ではないが、取りあえず応急処置ならばできる。

 先ほど盗賊の斧をまともに受けた護衛の肩の傷を塞いでやる。

 斧をまともに受けたのだ。

 骨まで砕かれていたが、取りあえずの処置として止血だけでもしておきたかった。


 次に一応、盗賊たちにも魔法をかけてやる。

 勿論、ロープで縛り上げた状態で、だが。

 仲間を傷つけられた護衛たちからは非難の声が上がった。

 当然の気持ちだと思う。

 ただ、やはり、このまま死なれたら目覚めが悪い。


 それにこいつらも好きで盗賊になったわけではないはずだ。

 盗賊の大半は、食うに困った農民の成れの果てと相場が決まっていた。

 時代が時代ならば、親から農地を受け継いで普通に働いているか、職人にでもなって暮らしているか。


 ともかく、盗賊になどなっていなかったに違いない。

 そう思うとどうも同情してしまう。

 これがセフィーロのよくいう「甘さ」なのだろう。


 そう思いながら、盗賊たちの手当てをしていると、俺に声をかけてくる人物がいた。


 最初はサティがやってきたのだと思った。

 声色が似ていたからだ。

 かろやかな少女の声だった。


 だが、すぐにその声の持ち主がサティではないと気が付く。

 サティは俺の命令に絶対服従する。

 俺が「東の方を向いていろ」と命令すれば、5年でも10年でもその命令を守る少女だ。


 今も草むらに伏せているに違いない。

 だから俺に声などかけることなど有り得ない

 そう思った俺は、声の方向に振り向く。


 そこにいたのは美しい少女だった。

 真っ白なドレスを着た少女だ。


 貴族の令嬢が着るような優雅な服で、血なまぐさい戦場には似つかわしくない。


 実際、彼女のドレスのスカートの裾は泥に塗れていた。

 野外に出ることを想定してあつらえていないのだろう。

 要はこの娘は、それなりの家柄の娘ということだ。

 着ている服を見るだけで、その佇まいを見るだけで、それが想像できた。

 それによくよく見れば、近くにある馬車も隊商のものではないようだ。

 隊商のものならばもっと合理的に作られている。

 馬車は明らかに貴人が乗るために作られた豪華な作りだった。

 それらを見て俺は思った。


(もしかしたら、思わぬ人助けをしてしまったのかも知れない)


 と――。


 この通商連合の首都ともいえるゼノビアには貴族はいない。

 ただ、貴族はいないが、代わりになる存在はいる。

 それが大商人だった。

 ゼノビアは大商人たちの合議によって治められているのだ。

 現代風に言うならば『共和制』という政治制度だろうか。


 つまり、何が言いたいのかといえば、彼女は『その』大商人の娘なのではないだろうか。


 彼女の身なり、言葉遣いから、そう推測したが、その推測は的を射ていた。

 それどころか、想像以上の言葉が彼女の口から発せられる。


「どこのどなたかは存じ上げませんが、此度の加勢、誠にありがとうございます」


 彼女は恭しく頭を下げると、こう続けた。


「――申し遅れましたが、わたしの名は、ユリア・オクターブ。このゼノビアの盟主を務めている。エルトリア・オクターブの娘でございます」


 その可憐な少女の姿を見て思った。


 サティという少女は、俺に幸運を運んできてくれる女神なのかも知れない、と。


 彼女の言葉がなければ、俺はここでこんな幸運に巡り会うことはなかっただろう。


 そう思った俺は、その掴み取った幸運を最大限に生かすため、恭しく頭を下げ、返礼した。


「初めまして、ユリア嬢、俺はイスマス出身の魔術師、……ライクというものです」


「イスマスの方なのですか? 素晴らしい魔術をお持ちのようですが、貴族様なのでしょうか?」


 ユリアは尋ねてくる。

 俺は肯定する。


 イスマス出身を名乗ったのは、ローザリアとゼノビアが犬猿の仲だから、アイクという本名を名乗らなかったのは、一応、警戒した為だ。


 昨今、不死旅団の活躍は大陸中に響き渡っている。

 本名を名乗るのは危険すぎるだろう。


 ただ、名乗った後に気が付いたが、ライクという名も皮肉が効いているな、と思った。


 以前、第3軍団の団長であるバステオが俺を侮辱するときに使った言葉である。

 とっさに出てしまった偽名であるが、ともかく、ライクと名乗ってしまったからには、しばらく、この名前で通さなければならない。


 少なくとも、彼女を通して、ゼノビアの盟主オクターブと会うまではライクと名乗ることにしよう。


 そう思いながら、彼女に勧められるまま、ゼノビアに向かうことにした。

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