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集結する旅団長たち

 続々と第7軍団の旅団長達がイヴァリースの街に集まってくる。


 現在のところ、第7軍団には8つの旅団があるが、俺が統治する街を見て、腰を抜かしているようだ。


 まず粉砕の戦鬼の異名を持つトロールの旅団長が驚嘆の声を上げた。


「これがあのイヴァリースの街か!?」


 確かこのトロールは、団長であるセフィーロと共に、イヴァリースの攻略に当たっていたはずだ。


 団長が《隕石落下(メテオ・ストライク)》の魔法で壊した城門の姿が脳にこびり付いていたのだろう。


 破壊前よりも立派になった城門に驚いているようだ。


「アイクよ、一体、お前はどのような魔法を使い、この城門を修復したのだ?」


輪番(シフト)制ですよ。それとちょっとしたコツでしょうか」


 仲間に知識の出し惜しみはしない。

 第7軍団が精強になるほど、俺の夢に一歩近づくからだ。


「なるほど、輪番制か。参考にしよう。他にもなにか秘訣はあるのか?」

「そうですね。あとはちゃんと人間にも報酬を支払うことでしょうか」

「それは心がけている。団長の達しがあるからな」


 そう言うと粉砕の戦鬼は手を顎に添える。


「最初は懐疑的だった。せっかく掻き集めたお宝を人間共に渡してどうするのだ、と。しかし、実際に試してみればどうだ。人間共を無理矢理働かせるよりも遙かに効率がいい。不思議なものだ」


 その話を聞いて割って入ってきたのは、人狼のベイオだった。

 どうやら今し方到着したらしい。

 御自慢の人狼部隊を引き連れてイヴァリースの門をくぐってきた。


「そうだよ、そう。不思議だよな。鞭だけで働かせていた昔が馬鹿らしくなるよな」


「時には飴も必要、ということか」


 戦鬼はそう結論づける。


「その通りです」


 と、俺は言い切ると、イヴァリースの館へ案内した。





 その館を見たトロールの戦鬼は、「小さいな」という感想を漏らす。

 ベイオも似たような感想を漏らす。


「粗末な館だな」

「前の領主の館をそのまま利用してますからね」


 その言葉を聞いた両者は驚きの声を上げる。

 普通、魔族が都市を支配すれば、新たに館を新築するのが常識だ。


 目の前にいるトロールのように大型の魔族は天井を高くしないと不便だし、ベイオのような見栄っ張りは、新たに館を作り、自分の力を誇示しようとする。


 まあ、その手法は完全には否定しない。

 権力者であることを示す良い機会でもあるし、前述した通り、困る魔族も出てくる。


 徳川家康も豊臣秀吉も似たようなことをしているしな。

 ただ、俺は豪華な屋敷を建築する金を街の投資に回しただけだった。


 その差が、彼らが支配する街と俺の街の差なのかもしれないが、そこまでは注意する必要もないだろう。


 そこまで口を挟めば、反感を買うくらい分かっていた。


 またセフィーロに注意されてしまう。

「お前は妬みや嫉妬を受ける立場だと何度も注意しておるじゃろう」

 と――。

 


 二人を会議の間まで連れて行くと、そこにはすでに他の旅団長も控えていた。

 マンティコアのクシャナもいるし、団長もいる。


 すでに一杯やっているようで、葡萄酒の瓶を片手に持ち、手酌で酒を飲んでいた。

 俺の姿を見るなり、彼女は不機嫌そうに声をかけてくる。


「ペルーナ産の葡萄酒を用意しておけというたじゃろう」


 ここは素直に謝るか。


「申し訳ありません。手に入らなかったもので」


 ちなみにその瓶は、他の地方の銘柄のラベルが貼ってあるが、中身はペルーナ産である。


 よし、確信した。

 この人は酒の味が分からない。

 次からは安物のワインにペルーナのラベルでも張っておけば満足するだろう。


 そのことを確認すると、俺はセフィーロに話しかけた。


「全員揃ったみたいですね」

「うむ」


 と彼女は頷くと、皆の方に振り向き、「それでは軍議を始める」と宣言した。


 皆、「はっ!」と恭しく敬意を示すが、セフィーロは興味なさげに欠伸をすると、


「後は副団長に全権を委任する」


 と、再び酒を飲み始めた。



 前回の軍議の宣言通り、俺にすべてを任せてくれるらしい。


 面倒なのか、俺のことを信頼してくれているのか、判断に迷うが、ともかく、俺はセフィーロの代わりに軍議を進行することにした。


「団長からもあった通り、この軍議の進行は俺がすることになった」


 丁寧語ではなく、威圧的に話す。


 前世の癖ゆえ、年上に高圧的に話すことがいまだに苦手だが、場を弁えることくらいできる。


 ここにいる旅団員達も気にすることなく、俺の言葉に耳を貸す。

 それを確認すると、作戦の概要を話すことにした。


「先日も言ったが、我々はアーセナム救援に向かう」


 それは先日聞いた。

 とマンティコアのクシャナは口にする。


「我々が聞きたいのは、この寡兵(かへい)でどうやって人間の大軍に勝つか、その一点のみだ」


 クシャナは第七軍団の中でも古参の旅団長だ。

 戦の仕方、つまり兵法には誰よりも通じている。


 俺が旅団長になった頃、この老人に色々教わったものだ。


 ゆえに、この老人が危惧していることも分かった。

 むしろ楽観的に思われた方が困る。

 これから俺がやろうとしていることは兵法の基本を完全に無視しているのだから。 


「皆が心配しているのは分かる。そもそも、多数の兵を持って少数の兵を粉砕する。それが兵法の常道だ」


 人狼ベイオは反論する。


「俺たち人狼旅団は一匹で5人の騎士は狩れるぜ」

「だが、その数は少ないだろう?」

「…………」


 ベイオは沈黙する。事実を突かれたからだろう。


「確かにお前の人狼旅団は強力だが、相手は騎士団を中心とした正規軍1万だ。そう易々とはいかない」


「他の軍団に援軍を求める、というわけにはいかないのか?」


 粉砕の戦鬼の異名を持つトロールが尋ねてきた。


「先日の軍議でも話したが、それは無理だ。どの軍団も自分たちの戦線を維持するので手一杯、今、自由に行動できるのは我が軍団くらいだ」


 もっとも、その第7軍団もそんなに余裕があるわけじゃないんだけど。

 他の軍団より多少余裕があるくらいだ。

 それを証拠に今回、動員できた兵は、やはり2000兵ほどだった。

 最低限の兵力は占領地に残してあるからだ。

 やはり2000の兵で10000の人間たちと戦わなければいけない。


 ベイオがいった通り、強力な魔族ならば、5倍の敵などわけはないが。以前も言った通り、魔王軍のすべてが魔族というわけではない。


 魔族の名を冠することができる猛者は、各旅団に数えるほどしかいない。


 そのほとんどが、ゴブリンや、オーク、コボルトなど、下級の魔物によって構成されている。


 2000兵、と言い切ったが、その戦力差は、実際よりも多いかも知れない。


「………………」


 思わず吐息が出そうになるが止める。

 出陣の前、部下に見せる態度ではないからだ。



 大将の弱気は指揮官に伝わる。

 指揮官の弱気は部隊長に伝わる。

 部隊長の弱気は兵士に伝わる。



 それが軍隊というものだ。

 ここで弱気になっていいことなど何一つない。

 努めて冷静沈着に、そして威厳のある声を作ると、こう宣言をした、


「皆の言いたいことは分かる。だが、今回は全面的に俺の作戦に従ってくれ」


「なんの実績もない若造に?」


 とは誰も問わない。

 俺の実績は魔王軍内で響き渡っている。

 あのベイオでさえ、文句は言わなかった。

 ただ、やはり悔しいのだろうか、最後に意地悪くこんな質問をしてきた。


「もしも負けたらどう責任を取るんだよ、副旅団長様」


 答える義務はなかったが、俺は答える。


「そのときは潔く、副団長の地位も旅団長の地位も返上するよ」


 その気持ちに偽りはない。

 本来ならば絶対にやってはいけない戦いに挑め、と他の旅団長に命令しているのだ。


 それくらいの覚悟がなければ、仲間を死地に赴かせる資格などないだろう。

 その覚悟が伝わったのか、会議の間は沈黙に包まれる。

 ベイオも根負けしたのか、珍しく神妙な面持ちで言った。


「俺様が全力で戦うんだからな、へぼい指揮をすんじゃねーぞ」


 相変わらずの負けん気だが、こいつなりに俺を信頼してくれているのだろう。

 その気遣いが少しだけ有り難かった。

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