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弾丸作りと招集

 イヴァリースの執務室の窓から街を見下ろすと、次々とドワーフの職人達が城門をくぐってくる。


 皆その小さな身体に大きな荷物を背負っている。

 おそらくは商売道具なのだろう。

 彼らドワーフはその手先の器用さを買われ、各地で職人として重宝されている。


 その中でも選りすぐりのドワーフたちが態々こんな田舎町までやってきてくれたのだから、ギュンターには感謝しないといけない。


 その光景を窓から見下ろしていると、サティが不思議そうな声を上げた。


「ドワーフさんたちが次々とやってきますね」


「ああ」と俺は答える。


「でも、ドワーフさんたち以外の人たち、人間の人たちも多く集まってきているのが不思議です」


 サティは窓越しから指を差す。

 そこには荷馬車に樽を乗せた商人がいた。


「あれはたぶん、ドワーフの職人達が集まっている、と情報を仕入れた商人達が、耳ざとくやってきたんじゃないかな」


 商人の情報網は侮れない。

 そこに商機があると踏めば、すぐさまやってくる。


 こうして新たな産業が生まれれば、商人達はそれに目を付け、彼らが欲しがるものを持ってやってくるのだ。


「すごいですね。こうして街は豊かになっていくのですね」


「人が集まれば、(くわ)(すき)を作る人間、家畜を加工してハムやベーコンを作る人間、酒を造る人間、それにそれを提供する店もできる」


「それが以前、ご主人さまの言っていた、第一次産業、第二次産業とかいう奴なのですね」


「そういうことだ。全員が農業をしていたら、誰も他の仕事はできないだろ?」

「確かにそうです」


「だから、できるだけ農業に従事する人間は少ない方がいいんだ。正確にいえばより少ない人間で多くの作物を収穫できればいい」


「そうすれば、残りの人たちは、物を作ったり、お店屋さんを開けるんですね」


「そういうことだ」


 正確にいえば、その物作りもより少数でやった方がいい。

 少ない人数で大量に物が作れれば、その者達も他のことができるようになる。

 そうすれば国は栄え、文化は発達し、産業が促進する。

 そうやって文明というのは進化していくのだ。


「……それは大げさすぎるか」


 今は戦乱の世だ。


 労働から解放された人々の行き着く先は、やはり『兵士』なのかもしれない。


 サティの望むような平和な時代を築くには、まずその兵士達に失業して貰わなければならない。


 そうすれば、今よりも過ごしやすい世界を作ることができるだろう。

 そんな風に思っていると、執務室の扉を叩く音が聞こえた。



 ドンドン!



 この乱暴な叩き方はオークの参謀ジロンだろう。

 入室を許可してやる。


「旦那。大変でさ」


 お前はなんでも大変だろ、と皮肉を言ってやりたかったが、面倒なので「なんだ?」と答えておく。


「それが、鉄砲という奴の量産は軌道に乗りつつあるんですが、問題が発生して」


「問題? やはりネジの量産は困難だったか?」


「いえ、そうじゃないんです」


「じゃあ、火薬の方か? やはり硝石は合成するよりも産地を見つけて産出する方が早いか……」


「いえ、それでもありません。ギュンター殿が言うには、弾を作る方が大変みたいです」


「ああ、弾の方か」


 すっかり忘れていた。

 火薬とネジばかりに捕らわれて、すっかり弾の方を忘れていた。

 火縄銃と火薬だけでは銃は武器として意味を成さない。

 弾の方を作らなければ文字通りただの鉄の筒だ。


「弾とはあの丸い小さなやつですよね? 作るのは難しいのでしょうか?」


 サティは控えめに尋ねてくる。

 俺は正直に答える。


「結構難しい」


「でも、肉団子を作るみたいに手で丸くこねればできるのではないですか?」

「サティは真っ赤に熱した鉄の塊を手でこねる勇気があるのか?」


 冗談めかして言ったが、サティは「そ、それはできません」とぶるぶると首を横に振る。


 サティのこういうところは本当に可愛らしい。

 なんでも真に受けて、想像してしまうのだろう。


「まあ、一番簡単なのは、鋳型(いがた)を作ることかな」


「鋳型ですか?」


 サティは尋ねてくる。


「鋳型ってのは、同じものを作るときに作る大本になる物体、でいいのかな。大本となる形を作っておいて、そこに鉄を流し込むんだ。剣や槍なんかを作る際に使われる」


 鋳型の技術くらい流石にこの異世界にもあるが、サティには理解しがたいものだろう。


「それでは旦那、さっそくギュンター殿に頼んで鋳型を作らせますか?」

「うーん、それもいいんだが」


 俺は悩む。

 たぶん、今はネジ作り、銃身作りで手一杯だろう。

 今はギュンターに余計な手間をかけさせたくなかった。


 それにこの世界の鋳型技術では真球に近いものを作るのは難しいはずだ。

 少しでも歪な玉だと、弾道が滅茶苦茶になる。

 要は命中率が悪くなる、ということだ。


 それではあまり意味はない。

 取りあえず急ごしらえとして、俺は塔を作らせることにした。


「塔ですか? それと弾が関係あるというのですか?」

「ある。作れば分かるから早く作れ」


 ジロンは「はい」と了承すると、せっせと手配を始めた。



 数週間後、木組みで作られた簡易的な塔ができあがる。 

俺は部下にその上から熱して融解した鉛を一滴流し落とすように命じた。


 すると空中を落ちている間に、空気抵抗によって鉛は冷え、円形の状態になって固まる。


 この辺は物理の分野なので詳しく語らないが、その光景を見た人々は興奮に包まれる。



「おお、またアイク殿が奇跡を起こされたぞ!」

「まるで魔法のようだ!」



 この光景を見ていた人々から賛嘆の声が上がるが、取りあえずまた前世の知識が役に立ったようだ。 


 魔法でもなんでもなく科学なんだけどな。

 そう思ったが、ここで街の住人を誤解させておくのも有用だ。


 俺に人智の知れぬ力があると思い込んでくれれば、それだけ反抗も少なくなる。


 住人を恐怖で支配する気はないが、侮られるのも困る。

 俺のじいちゃんもよく言っていた。


「他人に畏怖されるのはいいが。恐怖される人間にだけはなるな」

 と――。


 街の住人の反応を見る限り、弾を公開で作ったのは正解だろう。

 政治や統治というのはパフォーマンスも大事なのだ。 

 そう確信しながら街の人々を見つめていると、ジロンが小走りにやってきた。


「旦那、団長がお呼びです」


 ジロンは息を切らせながらそう言う。

 どうやら重要な用件らしい。


「……なにか大問題が発生したな」


 俺は口の中でそう呟く。


 あの人は暇だから、という理由だけで俺を呼び出すこともあるし、何の意味もなく突然転移魔法を使ってくることもある。


 だが、本当に重要な用、しかも公式の用件の場合は、正規の手順を使う。

 使い魔か使者を使いに出すのだ。


 正式な方法で俺を呼び出すと言うことは、軍団規模の問題が発生した、ということだろう。


 俺は、久しぶりに普通の手段で、セフィーロの居城バレンツェレに向かった。

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