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不死旅団の軍議

 イヴァリースの街へ戻ると、俺は主だった幹部を集め、軍議を開いた。

 俺の館にある円卓の間に集まる主だった幹部。


 サティは、旅団の幹部たち一人一人に紅茶を注ぎ、クッキーを配る。

 円卓の間に心地よい香りが包まれる。

 俺はサティが紅茶と茶菓子を配り終えたのを見届けると、幹部たちを見つめた。



 まずはオークの参謀ジロンに視線をやる。

 参謀なのにちっとも参謀らしくない。

 そもそも俺はこいつに戦略だの戦術など尋ねることはない。


 いや、たまに迷ったときに尋ねることがあるが、その際は必ずジロンの主張とは逆の方を採用する。


 そうすれば必ず成功するからだ。

 そういう意味ではこの不死旅団には欠かせない人材であった。

 それにこの男は無能だが、愛嬌と忠誠心はある。

 いつぞやの戦場では、俺を庇うために矢を受けたこともある。

 いまだにその矢傷が残っているはずだ。


 魔法で完璧に傷跡を消してやるといっているのだが、ジロンは頑なに拒否している。


「この矢傷は旦那を守ったという証でさ。一生消しませんよ」


 と、袖をまくし上げて、俺に傷を見せることがある。


 媚びを売っているつもりなのだろうが、おべっかをいうだけで、肝心なときに逃げ出す魔族より余程信頼できる。



 次に視線をやったのは、竜人族の魔族シガン。

 竜人族とはドラゴンニュートのことだ。

 人と竜の中間の姿をした亜人である。


 高位のものになると、本物の竜に変化することもできるが、残念ながらシガンは竜に変化することはできない。


 ただし、その個人的な武勇はなかなかのもので、こと槍技に関しては、我が旅団随一といってもいい。 


 ただ、寡黙なのと愛嬌がないのが彼の欠点だろうか。

 ジロンの10分の1程度でよいから、愛嬌や愛想が欲しいものである。


 この旅団結成以来の部下であるが、彼の発する言葉の7割は、『承知』か『了承』である。


 ジロンとは正反対のタイプの忠臣だ。 



 最後に視線をやったのは、淫魔族のサキュバスのリリスだ。

 褐色の肌をした美女。

 成年に達しているらしいが、その年齢は知らない。

 女性に年齢を尋ねることほど愚かなことはないし、無意味なことはない。

 重要なのは彼女が優秀だ、ということだろうか。

 個人的武勇ならば、我が旅団屈指のはずだ。


 ただ、問題なのは少々、頭が足りないところと、思い込みが激しいところ、嫉妬深いところだろうか。


 あと、俺にべた惚れしているのが問題だ。

 隙を見せるといつも擦り寄ってくる。

 なにかの瞬間に俺が人間であるとばれるのは最悪だ。


 軍団長であるセフィーロは最初から知っているから問題はない。

 魔王軍の総司令官である魔王様にもすでにばれているのだから問題はない。


 ただ、この娘にばれれば、淫魔族サキュバスらしい行動に出てくるだろう。

 サキュバスとは、人間の男の精を吸い取るのだ。

 もしもこの娘に正体がばれたら、と思うとぞっとする。


 

 そんなことを考えていると、オークのジロンが説明を求めてきた。


「ところで旦那、今回の軍議の議題はなんなんですか?」


 それが呼び水となり、一同の視線が俺に集まる。


「ああ、そうだ。当面の我が旅団の方針を確認しておこうと思ってな」

「方針、ですか? 例の諸王同盟に関するものでしょうか?」


 不死旅団の副官であるリリスが尋ねてくる。


「ああ、その件だ」


「なるほど。ならばてっとり早いですね。攻められる前にこちらから攻め込んで、ぎったんぎったんにしてやりましょう」


 リリスは不敵に微笑む。

 他の部隊長も同調する。


「我が旅団は飛ぶ鳥を落とす勢いです。それに今やアイク様は我が軍団の副団長、何も恐れるものはありません」


 リリスを始め、皆の士気は旺盛だった。

 我が不死旅団は、結成以来、まだ負けたことはない。

 敵を侮る癖がついてしまうのも仕方ないことだった。


 だが、油断と敗北の相性は、どんな夫婦よりも良いとされている。

 ここで部下の手綱を引き締めるのが、旅団長としての責務だった。


「リリスよ、あまり急くんじゃない。諸王同盟の連合軍との戦いはまだ早い」


 その言葉を聞いたリリスはがっかりした顔をする。

 一方、竜人族のシガンは眉一つ動かさずに尋ねてくる。


「それでは、アイク様のお考えはいかに? 我らに戦支度させ、なにをさせるというのです?」


「勿論、戦はして貰う。しかし、目的は諸王同盟ではない。今回の作戦はとある都市の攻略だ」


「都市の攻略?」


 シガンは短く答える。


「ああ、今回の作戦は、とある都市に幽閉されている一人の男を助け出すことにある」


 俺は続ける。


「その男の名前は、ギュンター。聞いたことはあるか?」


 一同は首を横に振る。


 部隊長であるリリスとシガンはともかく、参謀であるジロンまで首を振るのは情けなかった。


「――ドワーフの王様のことだよ」


 その言葉でやっとジロンはギュンターのことを思い出したようだ。


「ああ、たしか西方にあるドワーフの王国ウィルヘイムの王様でしたね」

「『元』だな」


 訂正してやる。


「そうでした。たしか人間共に滅ぼされて、今はどこかに幽閉されていると聞きましたが」


「その通りだ」


「確かローザリアの更に西にある、イスマス王国に幽閉されているんですよね」

「ああ、ウィルヘイムを滅ぼしたのはイスマスだからな。その身柄を拘束していてもおかしくはない。当たり前だよな」


「しかし、そうなると、ローザリアを滅ぼしてからでないと無理なのでは?」


 そう尋ねてきたのはリリスだった


「どうしてそう思う?」


「だってローザリアの領地を突っ切らないといけないじゃないですか。今、ローザリアの王都には、各国から軍隊が集まってると聞きます。そんな中、真横を突っ切ってイスマスに向かうなんて不可能です」


「さっきまでは何も恐れるものなどありません、と言っていたじゃないか」


 ちょっと皮肉を言ってやる。


「いえ、それはそれ、これはこれですよ。やっぱり、魔族にもできることとできないことがあります」


 そりゃ、そうだ。

 なんでも可能ならば今頃俺はローザリアの王都を落としている。


 自分のできることとできないことをわきまえて、初めて『名将』と呼ばれる存在になれるのだ。


 勇気と無謀をはき違えるような奴は、まず戦場では生き残れない。  

 そのことを皆に改めて伝えたが、竜人のシガンは冷静な口調で尋ねてきた。


「つまり、アイク様は、ローザリアを突っ切り、イスマスに攻め込む策をお持ちということで宜しいか?」


 俺は一言で返す。


「そう思ってくれて構わない」


 その言葉を疑う者は誰もいない。


 これまでの実績がそうさせるのだろうが、シガンとリリスは俺を信頼しきっている。


 単身で敵の大軍に飛び込め、と命令してもこの二人は喜んでその命令に従うだろう。


 勿論、そんな無意味な命令を下すことは有り得ないだろうが。


 ただ、オークの参謀ジロンだけは懐疑的なようだ。

 いまだに首をひねっている。

 相変わらずの小心者だ。


 この小心者を納得させるには、実際にローザリアを突っ切り、イスマス領内に攻め込むしかない。


 俺は作戦の概要を皆に話した。

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