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今度はこちらから転移

 オークの参謀であるジロンを館に招くと、サティが作った『米』を試食させる。


 まずは白米。


 初めて食う食べ物に、興味半分、恐れ半分といった顔をしていたが、恐る恐る口を付けると、「旨い!」という反応を漏らした。


「アイク様、旨いですよ。この米って食い物は」

「……そうか旨いか」


 俺は「うーん」と首をひねる。

 正直、オークは悪食なので参考にはならないだろう。

 ま、それは分かっていたのであくまで気まぐれに試しただけなのだが。


「俺が日本で食ってた米はもっと旨かったんだよなあ」

「ニホン? なんですか? そりゃ」


 おっと、いけない。地が出てしまった。


 俺が『人間』であることがばれるのは、絶対にあってはならないことであったが、それと同じくらい『前世』の記憶持ちだとばれるのも得策ではない。


 異端児であると分かれば、そこから追求が始まり、人間であることがばれてしまうかもしれない。


 それでなくとも、「自分は前世の記憶がある」と吹聴するのはアホのすることだろう。


 ただの痛い奴だ。

 俺は、なんとかごまかすため、適当なほらを吹く。


「南方にある。小さな島の名前だよ。誰も名前さえ知らない」

「なるほど、アイク様はそんな南方まで赴いたことがあるんですね」


「まあな。ちなみにそこで食った米はもっと旨かった。『短粒種』といって、米単体で食っても旨い。ちょっと甘みがあるし、もちもちしてるし、パサパサじゃないんだ」


「……はあ、これでも十分上手いと思いますがね」


 ジロンは「旦那はグルメですな」と笑った。


 まあ、その通りだ。


 日本人なので米に対する愛情が出てしまったが、現段階ではこれで十分なのかもしれない。


 そもそも日本の旨い米は、長い時間をかけて、品種改良に品種改良を重ねた末の成果だ。異世界の米と一緒にしてはいけないのかもしれない。


「まあ、味はこの際我慢しよう。それにこれは南方の長粒種だ。南方の季候に合わせた植物だから、これはイヴァリースでは育成できない」


「なるほど、それでは、『短粒種』を作られるんですか?」


「ああ、一応な。『短粒種』の方が、若干、寒さに強いというメリットがある。品種改良を重ねれば旨くなるかもしれないし、収穫量も増える。まあ、ともかく、まずは水田作りから始めないとな」


「スイデン? なんですか? そりゃ」


 ジロンは素っ頓狂な声を上げる。


「米は畑に種を撒くだけじゃ作れないんだよ。いや、正確には作れるが、麦と一緒で、同じ作物を毎年作ってると、連作障害が起きて、土地が痩せ細るんだ」


「スイデンとかいうやつを作れば解決するんですか?」


「ああ、水田さえ作れば、四輪作の農法なんて目じゃない。毎年同じ作物を大量に作れる」


「おお! そりゃあ、すごい。さっそく、そのスイデンとやらを作らせましょう」


「うむ、そうしてくれ。ただ、水田を作るのには、大量の水がいるからな。また人間を集め、トロールには重機になって貰わないと」


「ジュウキ?」


「……トロールには率先して工事に加わって貰わないとな、ということだよ」


 俺は強引にねじ伏せると、ジロンにさっそく水田に引く水路の建設を命じた。


「は、前回のように輪番(シフト)制とかいう奴を使いますか?」


「いや、今回はそんな急ぎじゃない。でもまあ、ちゃんと人間共にも給金を支払うんだぞ」


 そう言うと俺は、ジロンに少し出掛けてくる、と言った。


「どちらへ?」

「団長のところだ」


 一言で返す。


 そろそろあの地図を渡した魔族の目星くらいは付いているはずだろう。

 セフィーロはふざけた性格はしているが、その仕事は早い。


 もしかしたらまたいつもの悪癖で俺を突然召喚しようと、《転移》の魔法の詠唱中かもしれない。


 たまにはこちらから出向いて驚かす、というのも一興だった。

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