サティの独白 ††
††(メイドのサティ視点)
相変わらずご主人さまはすごい。
なにがすごいのか上手く説明はできないのだけど、でもすごいということだけは分かります。
四輪作農法?
とかいう聞いたこともない農法を発案して、食べ物の量を何倍にも増やしてしまうのだから。
ご主人さまの実験農場からは、毎日のように穀物やカブなどの作物が届けられます。
わたしはがんばってそれらを調理し、ご主人さまやオークのジロンさん、それに他の旅団員の方々に食べて頂いていますが、味はおおむね好評のようです。
ご主人さまのお仕事の役に立つことはできませんが、こうやってご主人さまにご飯を食べて頂けるだけで、とても幸せな気持ちになります。
みなさん、「おいしい、おいしい」とこのわたしの作った料理を褒めてくれるから。
前のご主人さま、アーセナムの御領主さまの館にいたときには考えられないことです。前のご主人さまは専属の調理人を雇っていて、わたしなんかが作った料理なんて、口にさえしてくれませんでした。
わたしは使用人の人たちのご飯を作る係りを任されていたのですが、だからでしょうか、あまり高級な食材でなくても、それなりのご飯を作ることができます。
もちろん、今のご主人さま、アイクさまには一番良い食材を使って料理を作っていますが、この不死旅団はそれほど豊かなお金は持っていないようです。
なるべく節約して料理しないと。
――って、よく考えると、魔王軍なのに、お金って変な言葉ですよね。
わたしも最初、アイクさまからお金を渡されたとき、キョトン、としてしまいました。
だって、魔王軍が、お金を払って物を買う、って、なんだか変だと思いませんか?
わたしだけでしょうか?
でも、このイヴァリースに出入りするようになった商人の皆さんも、最初は変な顔をしていたので、この感想はわたしだけのものではないはず。
ご主人さまは、商人にちゃんとお金を払うだけではなく、街の人を働かせれば、ちゃんとそれに見合ったお金も渡します。
ですので、この街の人たちはご主人さまを、いえ、魔王軍のことをそれほど恐れてはいないようです。
ただ、ちょっと怖そうな人たちだな、と遠巻きに見ている感じでしょうか。
……ほんとは全然怖くないのに。
見た目は骸骨がローブを纏っているようなので、怖いですが、その心の優しさは誰よりもわたしが知っています。
ご主人さまほど慈悲深い方なんて居るわけがないのに――。
ことあるごとに街の皆さんにそう宣伝してるのですが、いまだにご主人さまの姿を見るとすくみあがる人もいます。
うーん、なんとかこの状況を変えないと。
どうすればいいでしょうか?
あ、そうだ。今度、街の皆さんを館に招いてお茶会を開くのもいいかもしれません。
みんなでお茶を飲みながら、親睦を深めれば、自然と仲良くできるかも。
さっそく、アイクさまに相談しないと。