その4 アイクの求婚
イヴァリースの領地にいるとき、俺はメイドのサティと一緒にいることが多い。
彼女は紅茶をいれることから、家事までなんでもこなすが、チェスが苦手であった。
彼女は奴隷出身なので知的な遊びは限られるのだ。
しかし、俺は彼女をメイドにしてから、文字を教え、本を読む喜びも教えた。
今では立派な読書家で、俺の書斎にある本や、イヴァリースに設置した図書館などから本を借りてきては読んでいる。
なので語彙は豊富なほうだと思う。
少なくともジロンよりは教養があり、反射神経が不要なゲームならばこなせるようになった。
たとえば「しりとり」なども時間制限さえなければかなり強いほうである。
というわけで最近、暇な時間ができると彼女としりとりに興じることが多かった。
先日は不覚にも負けてしまったので、今日は絶対負けたくないところだ。
俺は初めてサティに小賢しい戦法を使うことにした。
彼女から開始。
「ゴリラさ……いえ、ゴリラ!」
さん、と言おうとしたところがサティらしくて可愛い。
「来月」
「積み木!」
「危機一髪」
「ツナ缶! ……いえ、ツナの缶詰!」
「名月」
「『つ』……つですか、『つ』ばかりですね。……鶴!」
「ルーツ」
「津波!」
「蜜」
「……ご主人さまの意地悪。もう『つ』で始まる言葉はありません」
「そんなことはない。あるよ」
「ほんとですか?」
「ほんとさ。代わりに言ってもいいか?」
「はい」
「妻になってくれ」
「…………」
「どうした。『れ』だぞ、『れ』」
「……はい」
「『れ』だと言ったのに。サティの負けだぞ、罰としてこれを受け取ってくれ」
俺は懐から指輪を出すとそれをサティの薬指に装着した。




