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魔王軍最強の魔術師は人間だった 作者:羽田遼亮

第五章

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再びエルフの森へ

 俺とエ・ルドレの非公式な会談は、エルフたちが住まう森、世界樹の森で行うことにした。

 ローザリアの西南にあり、戦渦に巻き込まれる心配がないからだ。

 また、エルフは平和を愛する種族であり、謀略のような汚い真似はしない、とエ・ルドレに思い込ませることができるだろう。

 事実、俺は謀略を用いるつもりなどなかった。

 魔王様は、
「真の名将ならば、敵将を油断させ、そこで捕らえて、のちの禍根を断つ」
 と冗談めかして言った。

「我が義父斎藤道三、姦雄松永久秀あたりならそのような手に出るだろうな」

 と笑いながら言ったが、残念ながらそんな思考法はなかった。
 俺にはそんな梟雄めいた才能はなかった。
 だからエ・ルドレとの面会にも連れて行く人物も一人だけだった。
 俺はサティを指名すると、彼女に旅支度をするように勧めた。
 その言葉に魔王様は驚くが、サティはもっと驚く。

「わたしのような娘が一緒にってもいいのでしょうか?」

 その素朴な質問には木訥に返すしかない。

「君のような娘に付いてきて欲しいんだよ」

「ふ、まるで求婚をする若者のようだな」

 魔王様がからかうとサティは顔を真っ赤にしている。
 こういうところは少しセフィーロに似ている。
 俺は年上の姉をたしなめるかのように説明した。

「サティについてきて貰うのは俺に敵意がないことを相手に伝えるためです。エ・ルドレの方も随員はひとりにしてくれ、と伝言してあります」

「なるほど、つまりうぬもエ・ルドレは約束を守り、二人で来ると踏んでいる、というわけか」

「ええ、おそらくは」

「大した信頼関係だな。そのひととなりを知っているのか?」

「一度も話したことはありません。ですが、戦場で一度だけ手紙を貰いました。そのとき、察したんですよ。この男ならば決して卑怯な真似をするまい、と」

 たしか、あれは、アレスタの街で包囲されていたセフィーロを助けたときだろうか。

 あのとき、俺はエ・ルドレを退けることに成功したが、そのとき、やつは一通の手紙を送ってきた。


「敵将ながら貴殿の采配には感服する。再戦の時まで壮健あれ」


 赤竜騎士団の団長は、俺に負けたとき、そんな手紙を俺に送り、俺の采配を称揚してくれた。

 普通の精神の持ち主にはとてもできないことだ。

 エ・ルドレという将軍は敵将の力を最大限に評価し、敗北から学び、失敗を教訓とし、次の戦いに活かすことができる人物だ。

 とても高潔で自制心を持った人物だと想像できる。
 そんな人物が俺を罠にはめるとは思えなかった。
 だから、今回はサティをともなうことにしたのだ。

「横に人畜無害なメイドさんがいれば、エ・ルドレ将軍も安心してくれるでしょう」

「人畜無害な魔王を連れて行くという選択肢もあるではないか」

「……人畜無害ですか?」

 俺は魔王様の頭頂からつま先を見る。どこからどう見ても魔族だ。
 翼も生えているし、牙もある。
 それにその禍々しいオーラ。一目でただ者でないと見破られるだろう。

「ふ、まあ、いい。サティを連れて行きたければそうするがいい。エ・ルドレを説得し、こちらの陣営に加えるのもうぬの裁量に任せよう。お前が見込むほどの人材だ。なかなかの逸材なのだろう。直接会って、見極めるが良い。エ・ルドレという男が、この世界に必要な人物か否かを。もしも必要なのであれば仲間に誘うも良し。もしも、魔王軍の障害となるのならばその場で首を打ち落とすも良し。うぬの判断で歴史を作れ」


 魔王様はそう言うときびすを返した。

「どちらへ?」とは問わない。

 この数ヶ月、イヴァリースに滞在していたが、その間も彼女は仕事に追われていた。

 おそらくだが、これを契機にドボルベルクに戻り、魔王軍の総司令官としての勤めに励むつもりだろう。

 彼女と次に再会できるのは、アズチ城が完成した暁かもしれない。
 そう思った俺は、彼女の背中にうやうやしく頭を垂れた。


 魔王様がいなくなると同時に、室内が急に広くなったような気がした。
 小柄な少女だったが、その存在感が圧倒的な証拠だろう。
 サティもほっと一息ついているようだが、すぐに旅の支度を始める。

 といっても、今度の旅は長旅ではない。最低限の着替え、それに食料があれば良い。

 エ・ルドレとの待ち合わせの日取りにはまだまだ余裕がある。
 一晩中馬を走らせる必要はなく、夜はゆっくり休憩もできるだろう。
 ならばそのとき、サティに面白い本でも読ませてあげようか。
 そう思った俺は自分の書斎におもむくと、サティ向きの本を選択し始めた。

 以前、サティに文字を教えてから、彼女にお勧めの本を貸しているが、俺の書斎は膨大だ。暇があれば本屋を巡り買いあさり、部下たちも俺の本好きを知ってか、よくプレゼントをしてくれる。

 その蔵書の量は小規模な図書館といったところだった。
 俺はサティが好みそうな本。

 お姫様が王子様に恋する恋愛話、あるいは王子様が悪い大臣に騙されて王宮を追い出される話、貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)系の小説をいくつか選択すると、自分の部屋に戻った。

 そこにはすっかり荷造りを終えたサティがにこやかに微笑んで待っていた。


 エルフの森までの道中、俺は久しぶりにサティと二人きりの時間を楽しむ。

 戦場にいるときは会うこともできないし、イヴァリースに戻ってからも魔王様が滞在されていたので、ほとんど二人きりで話すことはなかった。

 もっとも、二人きりになったからといってなにか特別な話をしていたわけでもなかっただろうし、なにかが変わっていたわけでもないだろうが。


 退屈を持てあましたくないのであれば、セフィーロと念話でもしていれば、彼女が一方的にどうでもいい話をしてくれる。

 陽気な気分になりたいのならば、リリスでも呼び出せば、一日中陽気に話してくれる。

 戦略や戦術について語りたいのであれば、ギュンター殿と話していればいい。

 俺がサティに求めるのは、そのようなものではなく、安らぎであった。
 彼女と話していると。

 いや、彼女が横にいてくれるだけで、不思議と心が安まり、沈黙しているだけで心地よい時間が流れる。

エ・ルドレとの待ち合わせまでまだまだ時間がある。

 俺はできるだけ馬の歩調を緩めながら、ゆっくりと世界樹の森へ向かった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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