最強の護衛たち
魔王軍の新たな首都候補地、アーセナムへ向かう一行は下記の4人。
第8軍団軍団長のアイク。
第4軍団長絞蛇のルトラーラ。
第5軍団長単眼鬼のウルク。
そしてなぜだかメイドのサティ。
ルトラーラとウルクが同伴者になるのは当然だ。彼ら彼女らを説得し、なんとしても遷都賛成派を過半数以上にしたかった。
この二人を説得するためにアーセナムへ向かうのだ。
しかしなぜそこに関係のないサティがいるのかといえばそれは我が元上司、セフィーロの鶴の一言が関係している。
「最近の戦続き、お前のコレは退屈しておるようじゃ。たまにはお妾さんにもサービスしてやるのじゃな。ベッドの上以外でも」
コレという言葉とともに小指を立てるセフィーロ。
それにその後に続く一連の言葉。
前世ならばセクハラで訴えられる問題発言だが、残念ながらこの異世界にはセクハラなんて言葉は存在しない。
魔王軍は先進的で言論の自由も保証されている。
だから俺がここで皮肉とともに、
「発言がおっさん臭いというか、おばさんぽいですね」
と返すことも可能なのだが、沈黙によって自分を守った。
ただ、セフィーロにそんなことを言われてしまうと、サティを連れて行かざるを得ない。
ここで意固地になってサティを置いていくことも可能だが、そうすればそうしたで、まるでサティが俺の愛人であることを肯定するような気がした。
己の身が潔白であるのならば、サティを連れて行き、堂々としているべきだろう。
それにセフィーロの言うことももっともであった。
お妾さんではないが、サティは大事なメイドさんである。
ここのところ連日の戦続きで彼女と接していられる機会が減った。
つまりそれはサティに寂しい思いをさせているということであり、彼女のいれてくれた美味しい紅茶を口にする機会が減っているということでもある。
この際、彼女に同行して貰って旅の最中に紅茶を注いで貰うのも悪くはない選択肢であろう。
それに王都リーザスから交易都市アーセナムへの旅には危険はない。
その間はすべて魔王軍領だ。
サティを伴って旅立っても何の問題もないだろう。
そのことをサティに話すと彼女は、夜空に輝く星のように目を輝かせる。
まさか自分が旅に同伴できるとは夢にも思っていなかったようだ。
驚きの声を上げる。
「ご主人様、本当にサティも一緒にお供していいのでしょうか?」
「別に構わない。むしろ、一緒についてきてもらいたいところだ」
本音である。彼女の煎れてくれる紅茶と彼女の手料理は、そこらの宮廷料理人が裸足で逃げ出す腕前だ。
「ですが、リリスさんは危ないのでサティなど足手まといになるだけ、と言っていましたが……」
「……あいつ、そんな意地悪を言ったのか」
おそらくではあるが、リリスの奴は焼き餅を焼いてそのような嘘をサティに吹き込んだのだろう。
あの娘は俺とサティを引き離すためならば平然と嘘をつく。
――いや、そうでなくてもつくか。
ともかく、リリスはサティに、
「あんたみたいな小娘が、占領地になったばかりのリーザスとアーセナムを往来するなんて、魚のすり身を全身に塗りつけて猫の群れに放り込むようなものじゃない。馬鹿じゃないの」
と、吹き込んでいるらしい。
「アーセナムへの旅路は危険なものになるから、てっきりサティはお留守番になるかと思っていました」
「まあ、確かにリーザスとアーセナムの間はつい最近、魔王軍の領土となった場所だ。まだ支配権を確立して間もないし、盗賊や落ち武者狩りもどきの輩が出る確率は高いな」
「……やっぱり」
サティは漏れ出た笑顔を引き込めしゅんとする。
「普通の状態ならば、女性の一人旅もできなくはない距離なんだが、今はな」
「……それではやはりサティはお留守番ですか?」
「まさか、最初にも言ったろ。今回の旅にはサティに同行して貰うって」
「でも、危険なのではないですか?」
「まあ、危険と言えば危険だけど、なんの問題もない」
「そうですよね、ご主人様がいつものように守ってくれますよね」
「それもあるが、今回は第4軍団の軍団長ルトラーラ、それに第5軍団のウルクも一緒に来るんだ。魔王軍の大幹部が3人も一緒なんだぜ? それを見て襲ってくる盗賊がいるのならば見てみたいもんだね」
俺の姿は骸骨の仮面に不死の王のローブをまとった異形のアンデッド、ルトラーラは下半身が蛇の奇っ怪な魔物、ウルクに至っては数メートルの巨躯と単眼を持つ巨人族の偉丈夫だ。
その姿を見て金品を奪おうなどという輩がいたら見てみたいものである。
もしもそんな間抜けがいたとするならば、それはそれで面白いというものだ。
俺の魔力で消し炭にされる盗賊、
ルトラーラの尻尾により絞め殺される盗賊、
ウルクの巨躯によって挽肉にされる盗賊、
見応えがあると言えば見応えがある。
あっという間に粉砕される盗賊団の姿が思い浮かぶ。
もっとも、サティにそんな野蛮な光景は見せることはないだろう。
事実、リーザスからアーセナムへ向かう道中、盗賊はおろか、ローザリアの残党からも襲撃を受けることはなかった。
アーセナムの町へ近づくと、改めてふたりの軍団長を見つめる。
ルトラーラもウルクも魔族の中の魔族といった風貌をしている。
確かにこのふたりを見て襲おうなどという感情は湧かない。
異形の姿は人間を怯えさせるが、逆に考えれば役に立つこともあるのだ。
俺はそう思いながら、サティを伴い、自由都市アーセナムへと入った。




