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再びゼノビアへ

「またゼノビアに赴かれるのですか?」


 旅支度をするように命令されたメイドのサティは珍しく驚きの表情を浮かべた。


「ああ、そういう結論に至った。とにもかくにもまずは食糧問題を解決しないとどうにもならないからな」


「ですが、ご主人さま、通商連合の盟主エルトリア様はこれ以上食料の供給は無理だとおっしゃっていましたが」


「確かに言っていたな。ついこの前、セフィーロにも言ったばかりだよ」


 よく覚えているな、とは言わない。この娘は賢く、記憶力も良いのだ。


「それにこれ以上、食糧を配給するには、船で大量に運ばなければならない。そうすれば必然と諸王同盟の目に付き、諸王同盟と通商連合は敵対することになるだろう。とは、エルトリア本人も自分で言っていたし、俺も承知してる」


「ご主人さまは通商連合の皆さんを戦争に巻き込みたくはないのですよね?」


「巻き込みたくないさ」


 本音を話す。


「では、何をしに赴かれるのですか?」


 その問いに俺は明瞭に答える。


「戦争に巻き込むため」


「…………」


 その言葉を聞き、サティは絶句したが、彼女を安心させるために続ける。


「いや、自分でも矛盾しているし、身勝手な構想だとは承知しているよ。だけどもうこの手しか残されていない、――と俺は判断した」


「…………」


 サティが絶句したので、俺は補足する。


「戦乱には巻き込むが、絶対に彼らは守るさ。それは神に懸けて誓う。いや、俺は信心深くないからその言葉は不適当かな――」


 そこで言葉を区切ると、慎重に言葉を選んだ。


「そうだな、じいちゃんの名に懸けて誓う」


 その言葉を聞いてサティはほっと胸を撫で下ろしているようだ。

 俺がじいちゃんをどれくらい尊敬しているか知っているからだろう。


「以前、エルトリアさんを戦争に巻き込むつもりはない、と明言したが、もはやそんなことを言っていられる状況ではなくなったしな。今、魔王軍と諸王同盟の戦況はほぼ拮抗している。そんな中、ローザリアの王都が手薄になっているんだ。ここで賭けにでなければ男じゃない」


 それに、と俺は続ける。


「戦況が拮抗している今、諸王同盟はもしかしたら通商連合にこう要求しているかもしれない。食料の援助だけではなく、軍隊を組織、魔王軍を側面から攻撃せよ、と」


「先日のエルフの王国の件もそうでしたね」


 サティは補足してくれる。

 俺はゆっくり頷く。


「そうだな。どちらにしろ、もはや中立は通らない情勢になりつつある。ここで旗幟(きし)を鮮明にして貰おうと思う」


「つまり、魔王軍にお味方して貰うようにお願いしに行くのですね。ご主人さまが」


「ああ、直接な」


 或いはこのまま今の関係、つまり、中立を維持して貰いつつ、密貿易を続けて貰う、という手もある。それが最良の選択かもしれないが、この短期間で食料を調達するには、やはり通商連合との関係を深めるしかないように思われた。


「さて、というわけだ。俺は通商連合に赴き、その盟主であるエルトリアと協議をすることにする」

「交渉されるのですね」


「エルトリアさんなら『商売』といってくれるかな。最終的に通商連合の利益になるのならば、彼女はこちらの味方になってくれるだろう」


「ならばきっと成功しますよ」


 サティは微笑みながらそう言ってくれるが、さて、彼女の期待に応えられるだろうか。


 部下や同僚の前では自信満々に振る舞う癖を付けているが、この少女の前ではたまに素に戻ってしまうこともある。


 今から俺が願い出る申し出はかなり身勝手なものであり、また向こうが了承してくれる可能性も限りなく低い。


 そのことを承知で願い出に行くのだから、自分の面の皮も厚くなったものだ、と呆れざるを得ない。


「しかしまあ、それでも行くしかないのだけど……」


 そう口にした俺はさっそく人選に入ることにした。


 今回のゼノビアへの旅は旅ともいえない。

 転移の間を使い、瞬時に向かうからだ。


 以前、通商連合の盟主エルトリアと密約を結んだ際、自由に転移の間を使っても良いという許可を得ていたのだ。


 ゆえに連れて行く人員は最小限に絞って大丈夫だろう。

 そう結論に至った俺は、人選を進める。


 目の前でにこにこと微笑んでいるメイドの少女――、彼女は当然候補に入るだろう。

 以前、通商連合の首都ともいえるゼノビアに赴いた際、彼女は貴重な役目を果たしてくれた。

 それに身の回りの世話をしてくれる人物はどうしても必要になる。

 エルトリアとの交渉に何日の日数を要するかは分からないが、彼女を置いていく理由はない。


 俺は微笑みを絶やさない少女に向かって、「採用」と一言漏らす。

 意味を計りかねているようだが、ともかく、喜んではいるようだ。


「お側にいられて幸せでございます」


 と彼女は幸せそうに微笑んでいた。

 さて、他の随行者だが、誰にすべきであろうか。


 ゼノビアへの旅路に危険はない。転移の間を使うのだから当たり前であるが、旅の途中に盗賊団に襲われるとか、飛竜の襲撃を受ける可能性もゼロだろう。


 ただ、完全に安全と言い切るのも難しい。

 なんの考えもなくゼノビアへ赴けば、そのまま捕縛される、という可能性もあるからだ。

 エルトリアという女性は商人だ。

 それもただの商人ではない。

 この異世界有数の大商人でその商才はこの世界でも指折りだろう。


『高値』で売れる商材がなんの警戒もなくやってくれば、そのまま捕縛して売りつける、という可能性も否定できない。


 つまり何が言いたいのかといえば、のこのこと護衛も連れずに向かうのは愚策といえた。


 俺は冗談交じりでそのことをサティに伝えたが、彼女は「そんなことがありえるのでしょうか?」と問い返してきた。


 俺は言う。



「ゼノビアにはこんな(ことわざ)があるそうだよ。友人は家族よりも大切に扱うべきだ。なぜならば時に黄金よりも高く売れることがあるのだから」



「…………」



 その言葉を聞き、サティは言葉を失っている。

 可哀想なので慌ててフォローする。


「――まあ、それは冗談だよ。でも、護衛くらいは連れて行くべきだろうな」


 エルトリアが裏切る、というのは完全な冗談だが、護衛も連れずにノコノコと向かえば彼女の失望を買うだろう。


 不用心にやってきた俺の姿を見て彼女はこう口にするに違いない。


「君ほどの身分の人間が護衛も付けずに、それも単身で交渉場所に現れるなんて……。一段階だが君への評価を下げてしまったよ」


 ――と。


 彼女に売られるのもごめんだが、失望を買うのもごめんだった。

 最低限の護衛は連れて行くべきだろう。

 不測の事態はいつ起こるか分からない。

 あらゆる可能性を考慮しなければ。



 例えば、俺が街に到着した途端、海賊が襲ってくる可能性もある。

 或いは、俺が街に到着した途端、ゼノビアで内乱が発生するかもしれない。

 もしくは、俺が街に到着した途端、ゼノビアに潜んでいた暗殺者に襲われる可能性もある。



 そうなれば俺やエルトリアの意志を問わず、戦いが発生するかもしれない。

 そういうことも想定して動くのが、軍団を預かる人間の責務だった。


 そう結論に至った俺は、リリスとアネモネを呼ぶことにした。

 サキュバスのリリスを連れて行くのは、有事の際の護衛役に。


 彼女ならば多少腕の立つ暗殺者でも『殺さない』程度に痛めつけて捕縛することくらいできるだろう。


 それに連れて行かないと五月蠅い。連れて行けば連れて行ったらで五月蠅いが、同じ五月蠅いのならばせいぜい役に立って頂こう。


 エルフの戦士長アネモネを連れて行くのは、見聞を広げさせる為、だろうか。

 エルフの森からやってきた彼女は世間知らずなところがある、

 このイヴァリースより遙かに都会のゼノビアの街を見せれば、さぞ喜ぶことだろう。

 いや、腰を抜かすかもしれない。


 サティはその人選を聞いて、


「今回は女性ばかりですね」


 と、鋭い指摘をしてきた。


「………………」


 流石は勘の鋭い少女だ。俺がこのメンバーを選んだ理由も察しているようだ。


「たくさん女性を連れて行けば、アイクさまの『婚約者』であるユリアさまもきっと焼き餅を焼いてくれますね」


「そうだといいのだけどな」


 美人三人を抱えて婚約者のもとに訪れる。

 婚約者は嫉妬に狂い、婚約破棄を宣言してくれる。


 そうなってくれるとベターだな、と思いこの人選にしたのだが、さて、ユリア嬢はこの思惑に乗ってくれるだろうか?


 或いはエルトリアとの交渉よりも興味のあることがらだったが、ともかく、リリスとアネモネを呼び出す。


 数十分後、リリスとアネモネが現れる。


「今回の交渉に護衛として同行して貰うことにした」


 その言葉を聞いたリリスは、案の定、アイク様と一緒にいられると喜び、

 アネモネは大都会に行けるとはしゃぐ。

 その光景を見て俺は吐息を漏らすが、あえて指摘はしなかった。

 これは仕事なのだぞ、と。

 最初からこの二人に外交の補佐をさせるつもりなど一切ない。

 ただ、二人の魔法剣士や精霊使いとしての腕は大いに買っていた。


「まあ、その腕が役に立たないことを祈ろうか」


 彼女たちが活躍する、ということは何か荒事が起こる、ということでもある。

 それだけは避けたかった。

 俺はそう漏らすと、サティとリリス、それにアネモネを連れ立ち、転移の間へと向かった。


 しかし、トラブルという奴は起るまい、と願えば願うほど起りやすくなる、というのは事実なようで、転移の間へと赴くと、そこには顔面に包帯をを巻いた初老の男が立っていた。


 立派な口髭を蓄えた執事服姿の男であった。

 男の顔に記憶がある。

 一緒に船の上で戦ったこともあるし、ゼノビアでの滞在中は彼の世話にもなった。

 慌てて彼のもとへ駆け寄ると、俺は尋ねた。


「一体、何事があったのです? ハンス殿?」


 オクターブ家の執事の名前を呼ぶと、包帯に血を滲ませた執事は気丈に言い放った。


「――ユリアお嬢様の危機です。アイク様、どうかお救い下さい」


 それと同時に崩れ落ちる執事のハンス。

 俺は彼を片手で支えると、そのまま回復魔法をかける。

 そして傷口が塞がったのを確認すると、崩れ落ちたハンスの肩を支え、ゼノビアへと転移した。

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